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魔王は友との約束を果たしたい
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「僕が言うのも気が引けるが、どのみちあいつはもうこの世にいない。だから、僕が行う罪滅ぼしは生きている人間に行いたい……あいつが何をしたかったじゃない、ヴラスカが僕に何をしてほしいかだ」
殺した側の人間である僕が行っていい言葉ではないだろうが、それでも僕が言わなくちゃいけない言葉だ。
死んでしまった者は、何をやったところで帰ってくることはありえない。いや、ヘカテーの魔法を使えばありえたのだが、あの魔法は発動するのに非常に珍しい物質を必要とするらしく、実のところあの日は一度しか使えなかったらしい。今も素材を探してはいるが、全く見つからないとか言っていた。
とにかく、ヘカテーに書かれは常識も非常識になるわけだが、通常の人間にとってはそうはいかない。
死んでしまったらそこで終わりだ。
どれほどの地位を持っていたとしても、どれほどの財産を持っていたとしても、どれほどの夢をかなえたとしても……夢半ばに息絶えたとしても、それらを持っていくことは出来ない。そして、それはどれほど崇高な人間に対しても当てはまるどうしようもない事実だ。
だから、今生きている人間が重要だと僕は思う。それが僕のエゴだとしても、ヴラスカにもそれを納得してもらわなければならない。
「僕にどんな罪滅ぼしを求める? 死、以外なら極力かなえる」
まるで自分に対して杭を打ち込んでいる処刑人のようだ。
胸の痛みは時間が経つにつれ薄れるどころか、強まっているような気さえしてならない。たぶん、僕はこれから一生幸せを感じることもなく、最後には孤独に死んでいくのだろう。でも、その前に、出来る限りの罪滅ぼしをしておきたい。たとえ、それが僕のわがままだとしても。
ヴラスカはゆっくりと口を開いた。
「私は……あの時も言いましたが、今の仲間たちを救ってもらいたい」
「仲間を救う?」
「クラトスも知っていると思いますが、この村は魔物を遠ざけるための装置……『魔力発生装置』によって守られている」
最初に来たときには驚いたが、確かに僕はこの目で『魔力発生装置』を見た。あれはその名の通り魔力を発生させる装置ではない。注ぎ込まれた魔力をためておく魔石と、魔石から徐々に魔力を放出する装置の2つを組み合わせて作りだされた魔力の結界のようなものだ。ため込まれた魔力を放出するのだから、もちろん魔力が尽きてしまったら装置は使い物にならなくなる。
それに問題はもう1つある。魔石は、貴族ですら購入をためらう程に高価なのだ。商人として、この地を支配していた人間がいなくなれば、魔石を狙った盗賊が現れることもあるだろう。
「つまり、僕に魔石を護れってことか?」
確かに、それは彼を殺してしまった僕がやるべきことだろう。彼女の言いたいことはよくわかるし、それは僕も考えていたことだ。しかし、それはこの地を護っているのが、本当に彼1人だった場合の話だ。守り手がほかにもいた場合、よそ者である僕が魔石を護るなんて有難迷惑でしかないだろう。
現に、この場所を訪れた際、商人の口からは『私たちが』という言葉が出ていた。それはすなわち、商人が彼一人ではなかったという事だ。どこかに彼の協力者がいたはずだ。それをヴラスカが知らないはずがない。
「違います。守りは万全です。ですが……魔力の方が問題です。この場所はこれからの貿易の中心となるでしょうから、守りたいという商人はいくらでもいます。ですが、商人というのは、あの人のように冒険者がなるような職業ではありません。誰しもが魔力を持っているというわけではないのです」
「魔石に魔力を補充する魔法屋は料金が高いからな……」
魔石に魔力を籠められるほどの魔法使いとなると、国にもそれほどいない。必然的に料金が上がってしまうというわけだ。需要と供給を考えれば仕方のないことではあるが……世界の平和にとって必要不可欠なものの値段を吊り上げるのを止めなかった王国が1番の害悪だったと言えるだろう。それ故に、王国はクーデターによって滅びたのだが、今の時代では、補助金を出してくれるような国も存在しない。自らで滅ぼしてしまったのだから仕方のないことだが、できれば国という枠組みは残しておきたかった。
残しておけば、魔物を近づけないようにするための魔石にかける税金も残っていただろうに……いま、この国に溢れているのは、未来に対する不安感だけだ。
国が復興するまでの間はそれが続くだろう。だからこそ、魔法屋には悪いが、魔石に魔力を注ぎ込むぐらいは僕がタダでやってやろう。
「わかった。僕が魔力を注ごう……」
「申し訳ない。私の魔力量では補えないですから」
当たり前だ。僕だって普通の勇者だった頃は、たぶん彼女と変わらないか、それ以下の魔力しか持ち合わせていなかっただろう。魔王の力を得ることなく、膨大な魔力量を持ち合わせているヘカテーのような存在が貴重なのだ。
そんなことは謝罪の理由にはならない。
殺した側の人間である僕が行っていい言葉ではないだろうが、それでも僕が言わなくちゃいけない言葉だ。
死んでしまった者は、何をやったところで帰ってくることはありえない。いや、ヘカテーの魔法を使えばありえたのだが、あの魔法は発動するのに非常に珍しい物質を必要とするらしく、実のところあの日は一度しか使えなかったらしい。今も素材を探してはいるが、全く見つからないとか言っていた。
とにかく、ヘカテーに書かれは常識も非常識になるわけだが、通常の人間にとってはそうはいかない。
死んでしまったらそこで終わりだ。
どれほどの地位を持っていたとしても、どれほどの財産を持っていたとしても、どれほどの夢をかなえたとしても……夢半ばに息絶えたとしても、それらを持っていくことは出来ない。そして、それはどれほど崇高な人間に対しても当てはまるどうしようもない事実だ。
だから、今生きている人間が重要だと僕は思う。それが僕のエゴだとしても、ヴラスカにもそれを納得してもらわなければならない。
「僕にどんな罪滅ぼしを求める? 死、以外なら極力かなえる」
まるで自分に対して杭を打ち込んでいる処刑人のようだ。
胸の痛みは時間が経つにつれ薄れるどころか、強まっているような気さえしてならない。たぶん、僕はこれから一生幸せを感じることもなく、最後には孤独に死んでいくのだろう。でも、その前に、出来る限りの罪滅ぼしをしておきたい。たとえ、それが僕のわがままだとしても。
ヴラスカはゆっくりと口を開いた。
「私は……あの時も言いましたが、今の仲間たちを救ってもらいたい」
「仲間を救う?」
「クラトスも知っていると思いますが、この村は魔物を遠ざけるための装置……『魔力発生装置』によって守られている」
最初に来たときには驚いたが、確かに僕はこの目で『魔力発生装置』を見た。あれはその名の通り魔力を発生させる装置ではない。注ぎ込まれた魔力をためておく魔石と、魔石から徐々に魔力を放出する装置の2つを組み合わせて作りだされた魔力の結界のようなものだ。ため込まれた魔力を放出するのだから、もちろん魔力が尽きてしまったら装置は使い物にならなくなる。
それに問題はもう1つある。魔石は、貴族ですら購入をためらう程に高価なのだ。商人として、この地を支配していた人間がいなくなれば、魔石を狙った盗賊が現れることもあるだろう。
「つまり、僕に魔石を護れってことか?」
確かに、それは彼を殺してしまった僕がやるべきことだろう。彼女の言いたいことはよくわかるし、それは僕も考えていたことだ。しかし、それはこの地を護っているのが、本当に彼1人だった場合の話だ。守り手がほかにもいた場合、よそ者である僕が魔石を護るなんて有難迷惑でしかないだろう。
現に、この場所を訪れた際、商人の口からは『私たちが』という言葉が出ていた。それはすなわち、商人が彼一人ではなかったという事だ。どこかに彼の協力者がいたはずだ。それをヴラスカが知らないはずがない。
「違います。守りは万全です。ですが……魔力の方が問題です。この場所はこれからの貿易の中心となるでしょうから、守りたいという商人はいくらでもいます。ですが、商人というのは、あの人のように冒険者がなるような職業ではありません。誰しもが魔力を持っているというわけではないのです」
「魔石に魔力を補充する魔法屋は料金が高いからな……」
魔石に魔力を籠められるほどの魔法使いとなると、国にもそれほどいない。必然的に料金が上がってしまうというわけだ。需要と供給を考えれば仕方のないことではあるが……世界の平和にとって必要不可欠なものの値段を吊り上げるのを止めなかった王国が1番の害悪だったと言えるだろう。それ故に、王国はクーデターによって滅びたのだが、今の時代では、補助金を出してくれるような国も存在しない。自らで滅ぼしてしまったのだから仕方のないことだが、できれば国という枠組みは残しておきたかった。
残しておけば、魔物を近づけないようにするための魔石にかける税金も残っていただろうに……いま、この国に溢れているのは、未来に対する不安感だけだ。
国が復興するまでの間はそれが続くだろう。だからこそ、魔法屋には悪いが、魔石に魔力を注ぎ込むぐらいは僕がタダでやってやろう。
「わかった。僕が魔力を注ごう……」
「申し訳ない。私の魔力量では補えないですから」
当たり前だ。僕だって普通の勇者だった頃は、たぶん彼女と変わらないか、それ以下の魔力しか持ち合わせていなかっただろう。魔王の力を得ることなく、膨大な魔力量を持ち合わせているヘカテーのような存在が貴重なのだ。
そんなことは謝罪の理由にはならない。
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