最強の勇者は、死にたがり

真白 悟

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勇者は魔王を倒すしかない

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 わからない。
 友がどうして魔王のふりをしたのか……それがどうしてもわからない。友は完璧に魔王を演じていた。それは僕に本当は魔王に憑依されていないという事に気がつかせないためだろう。なぜそんなことをするのか、それが僕にはわからない。
 友は僕を運命から解放しようとしているのだと思ったし、友もそのようなことを口にしていた。しかし、それなら魔王のふりをする必要はない。彼には時間を操る能力があったのだから、それを僕に隠して一突きで殺すことだって出来たはずだ。それなのに、そうしなかった理由がわからない。魔王として、僕と会話をしていた時に話した理由は、自己顕示欲のためというものだったが、本当は魔王など存在しないわけで、つまるところ、その欲望だって幻想でしかなかった。

「私は、あなたを殺す……」

 彼は魔王として、口から出まかせを吐いた。
 本当に殺すつもりがあったのならば、何度も殺すタイミングはあったはずだ。そうしなかった理由として考えられるのは1つだけだ。
――もともと、殺す気などなかった。というものだろう。
 でもわからない。

「もういい。お前は魔王なんかじゃないんだろう?」

 魔王は確かに彼の心の奥底に眠っているだろう。しかし、よくよく考えれば最初からわかっていたことだが、神たちが魔王に記憶の保持を許すわけなどない。自分たちに対する不安要素を残すことなどありえない。それほどまでに神たちは慎重で、何より狡猾なのだ。
 故に、僕のことを知っているのは、僕たちのことを理解しているのは僕の友である彼自身だけだ。
 それでも、僕が彼を殺さなければいけないことには何の変りもないのだが、ずいぶんと気分が楽になったような気がする。
 友は一瞬だけ驚いたような表情をしたが、次の瞬間には大きなため息をついた。

「いつ気がついたんですか?」

 先ほどまでの邪悪な笑みは消え失せ、今まで気がつかなった目の下の隈が目立った。

「ついさっきだ。いや、もしかしら、最初からうすうす気がついていたのかもしれない。気がつかないふりをしていただけで……だが、どうしてこんなことを?」

 僕だって出来ることなら親友を殺したくはない。覚悟を決めて戦いを始めたとはいっても、それでも誰だって親友に対して剣を向けたくもなければ、傷つけたくもないはずだ。僕だってそうだ。だが、同時にうれしいとも思った。親友を親友のまま殺せるチャンスがまた訪れたと。彼の魂を本当の意味で救うことが出来ると。そんな相反する感情が、僕の心を動揺させた。
 そんな僕のわずかな同様に友は気がついたのだろう。口角を少しだけ下げ、何か言いたげな表情をしたかと思うと、一度言葉を飲み込んでおそらく最初言おうとしたこととは別のことを話し始める。

「私は……いつか、いや今すぐにでも魔王になってしまうかもしれない。それは魔王を倒したものの宿命だから仕方ないものだと受け入れてはいるが、私の能力を見たでしょう? もちろん大きな力には大きなデメリットがあります。でも、それは魔王にとってはほとんど意味のないデメリットだ。故に、私が魔王化した……なんてことになったら誰も手を付けることが出来ない。世界の崩壊です。しかし、それは何としても避けなければならない。そんなことになっては、世界のために死を選んだ妻も浮かばれない」

 魔王として演技してた時とはうってかわり、どこか自信がないような震えた声だ。自分を殺してほしいと願った頃の彼と同じ、そんな今にもつぶれてしまいそうな声だった。
 僕は何とも言えない不安感とともに、ある種の焦燥感に駆られた。それでも、僕は心を落ち着かせて淡々と尋ねる。

「だから、僕に殺されたかったってことか?」


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