最強の勇者は、死にたがり

真白 悟

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勇者は魔王を倒すしかない

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 どれだけ膨大な魔力を解放しようと、時間を操る存在に勝てるわけがない。いいや、実際のところ、魔王が時間を操る能力だけを持っていたとしたなら何とかなったかもしれない。思い上がるつもりはないが、魔力量では僕の方がはるかに上だ。時間を操る能力にも欠点はあるだろうし、その欠点を見つけ出すことが出来たなら魔王を倒すことも出来たかもしれない。
 しかし、絶望的なことに、魔王は一撃必殺の剣を持っていると来た。
 そりゃ、僕がどれほどの力を解放しようと余裕の笑みを浮かべているわけだ。

「最初から、僕に勝ち目なんてなかったってことか?」

 僕だって諦めるつもりはないが、そこまで絶望的なチート能力を持った相手と戦って勝てる可能性があるだなんて思えるほどの楽天家でもない。
 だからは、どれほど努力を重ねていても結局は敗北していたという事だ。

「まさに手のひらで転がってくれたというわけですよ。滑稽です――なんて……そうだったならどれほどよかったことでしょうね!」

 攻撃の手が強まる。
 魔王のスピードは先ほどよりも数段速くなった。何とか防ぐことは出来るが、反撃する隙はない。

「く……っ!」
「知っているでしょう? いかに人生が無意味であるかという事を!?」
「……何が言いたい?」
「あなたは人間性を捨ててまで、私に勝利することを選んだ。それでもあなたは私に勝てない」

 怒涛の攻撃は続く。あまりにも早すぎる魔王の剣を避けることは出来なくなったが、魔力が増えたおかげだろうか、コキュートスで受けることが出来るようになった。しかし、依然としてコキュートスが熱気により悲鳴を上げているのを感じる。
 このまま剣を受け続ければ、いずれコキュートスは砕け散るだろう。
 そんなことを考え始めていたタイミングで、魔王は攻撃をやめて数歩後ろに飛びのいた。

「無意味でも神に抗おうとした私のように、全ては神の思惑通りすべてが動いています」
「思惑? 何のことだ?」

 魔王は僕の問いかけには答えず、攻撃を続けた。

「そろそろ終わりにしましょう。語り合いも、もう意味がない」

 分身体を交えて、魔王の攻撃は先ほどまでよりも熾烈を極める。
 前後左右すべての方向から次々に繰り出される剣に、少しずつではあるが僕の反応が遅れていくのを感じる。このままではコキュートスが砕けるより前に、僕自身が消滅することになるだろう。
 だがしかし、僕もこのままやられるつもりはない。

『ジュデッカ』の威力も魔力の上昇に比例して、かなり上昇しているはずだ。

 いくら時間を操る能力だとはいえ、突然凍てついたらどうすることも出来ないだろう。
 だがタイミングを見誤れば、確実に躱されてしまう。どれほど広範囲を凍らせる力だとしても、奴にとっては、僕が魔法を発動する時間がコンマ1秒であろうとも、それは無限にもなり得るのだから。

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