62 / 97
勇者は魔王を倒すしかない
13
しおりを挟む
「じゃあ、その時が来たら私が膨大な魔力の発生源をつぶしてあげるわ」
ヘカテーは予想外の言葉を口にした。
それはすなわち、僕の『心臓』をつぶすということだ。
なるほど、幼馴染が死にたがっているなら、最後ぐらいは自分の手でというわけか。
僕を殺せるほどの存在となると、世界にはそうはいない。その点、彼女なら僕を殺せるだけの力を兼ね備えているだろう。死人をよみがえらせるほどの力を持った魔法使いだ。生かすことは殺すことよりも難しいというからな。
「それは願ってもないことだな。ぜひ……いや、やめておこう。僕はヘカテーと戦いたくない」
一瞬、同意しかけて気がついた。
僕を殺すということは、僕に怪我を負わされてしまう可能性があるということだ。
彼女に僕を殺す覚悟があったとしても、僕に幼馴染を傷つける覚悟はない。
「ずいぶんと弱気なのね? でも大丈夫よ。戦いになんてならないだろうから……あんたはあのころから何も変わらないけど、私はずいぶん変わったから」
ヘカテーは自信満々に言う。
戦いになどならず、一瞬のうちに僕を消し去れるということだろうか。
しかしそれは不可能だ。僕の友が実際にやってみせたように気配を全く消すことが出来るのなら話は別だが、それは無理だ。
「僕の魔力はあのころとは違う。わかるだろう?」
「魔力の量で実力が決まるならそうかもね……でもそうじゃない」
「確かにね……」
おっと、ずっと隠れていたはずの気配が察知できるようになった。これはまずそうだ。
「もう行くのね?」
「ああ、そろそろやばそうだからな。悪いが、ニケとヴラスカもここに残ってくれ……どうやら、これは僕の戦いらしいからな」
このままあいつを放っておいたら、今にも魔王に心をのまれてしまいそうだ。そうなると、あいつのそばにいる人間は間違いなく死亡する。それを理解して、僕たちから遠ざかったのだろう。――ニケとヴラスカを殺してしまわないようにと。
「もし、次あなたが死んだら、たぶん私が魔王を殺しちゃうから」
僕が走り去る間際、ヘカテーはかなり恐ろしいことを口にした。
その言葉の意味を理解して口にしたのは確実だ。言うに事欠いて、彼女は僕の大切な幼馴染を人質にとってしまったというわけだ。
わかったよ。絶対に親友との約束を果たせって意味だろう。
「僕には死ぬなっていうのに、魔王は殺せって差別が過ぎる」
魔王のように自らの意思で世界を滅ぼそうとしないだけで、僕だって世界を滅ぼす存在だというのに……
おっと、さっき気配を感じたのはこのあたりだった。今はまた気配を消しているようだが、魔王と心の取り合いをしているのならそれほど遠くには行っていないはずだ。それにたぶん、さっきほどまでにうまく気配を消すことも出来ていないだろう。
きちんと気配を探れば見えてくるはずだ。
「いた……こんなに簡単に見つかるなんて、もはや猶予はないらしい」
気配を探るまでもなかった。
うまく気配を消せないどころか、動くことすらままならないと言った感じで、目の前にあった木に寄りかかっていた。
「また……会いましたね……」
「親友に会ったというのに、ずいぶんと嫌そうな顔してるな?」
「まさか、生きていたとは……」
「どうやら、再開すら喜べないほどに精神が汚染されているようだな?」
「ええ、約束を果たせなかった罰でしょうかね」
とぼとぼと僕のもとへと近づいてきながら、彼の表情は苦痛にゆがんでいる。
急いでここまでやって来たが、もう手遅れらしい。彼の体からは禍々しいまでの黒い魔力があふれ出している。
「悪いが、僕としても再開を喜んでいる場合じゃない。最後だ。痛みもないほどに一瞬で終わらせてやる。だから もう動くな」
何とかして、彼が魔王になる前に殺してやらないと。
魔王になる瞬間に立ち会ってやれるんだ。僕に出来ることはそれぐらいだ。
「いや、こっちのセリフだ。そっちの約束はもう忘れてくれ、私があなたとの約束を果たすのが先だ。魔王になろうとも、その約束だけは必ず果たさせてもらいますよ……」
そう言うや否や、友は最後の力を振り絞って、木の向こう側へと走り出す。さっきまでの彼とは思えないほどに気配を消すことは出来ていないが、それでも、探らなければわからないほどまでには気配を消している。
「時間の無駄だ」
だが全力を出せる僕と、満身創痍な彼では戦いになるはずなどない。
圧倒的な強者に出会った時は、逃げたってなんの意味もない。追うよりも追われる方がつらいのだから。
ヘカテーは予想外の言葉を口にした。
それはすなわち、僕の『心臓』をつぶすということだ。
なるほど、幼馴染が死にたがっているなら、最後ぐらいは自分の手でというわけか。
僕を殺せるほどの存在となると、世界にはそうはいない。その点、彼女なら僕を殺せるだけの力を兼ね備えているだろう。死人をよみがえらせるほどの力を持った魔法使いだ。生かすことは殺すことよりも難しいというからな。
「それは願ってもないことだな。ぜひ……いや、やめておこう。僕はヘカテーと戦いたくない」
一瞬、同意しかけて気がついた。
僕を殺すということは、僕に怪我を負わされてしまう可能性があるということだ。
彼女に僕を殺す覚悟があったとしても、僕に幼馴染を傷つける覚悟はない。
「ずいぶんと弱気なのね? でも大丈夫よ。戦いになんてならないだろうから……あんたはあのころから何も変わらないけど、私はずいぶん変わったから」
ヘカテーは自信満々に言う。
戦いになどならず、一瞬のうちに僕を消し去れるということだろうか。
しかしそれは不可能だ。僕の友が実際にやってみせたように気配を全く消すことが出来るのなら話は別だが、それは無理だ。
「僕の魔力はあのころとは違う。わかるだろう?」
「魔力の量で実力が決まるならそうかもね……でもそうじゃない」
「確かにね……」
おっと、ずっと隠れていたはずの気配が察知できるようになった。これはまずそうだ。
「もう行くのね?」
「ああ、そろそろやばそうだからな。悪いが、ニケとヴラスカもここに残ってくれ……どうやら、これは僕の戦いらしいからな」
このままあいつを放っておいたら、今にも魔王に心をのまれてしまいそうだ。そうなると、あいつのそばにいる人間は間違いなく死亡する。それを理解して、僕たちから遠ざかったのだろう。――ニケとヴラスカを殺してしまわないようにと。
「もし、次あなたが死んだら、たぶん私が魔王を殺しちゃうから」
僕が走り去る間際、ヘカテーはかなり恐ろしいことを口にした。
その言葉の意味を理解して口にしたのは確実だ。言うに事欠いて、彼女は僕の大切な幼馴染を人質にとってしまったというわけだ。
わかったよ。絶対に親友との約束を果たせって意味だろう。
「僕には死ぬなっていうのに、魔王は殺せって差別が過ぎる」
魔王のように自らの意思で世界を滅ぼそうとしないだけで、僕だって世界を滅ぼす存在だというのに……
おっと、さっき気配を感じたのはこのあたりだった。今はまた気配を消しているようだが、魔王と心の取り合いをしているのならそれほど遠くには行っていないはずだ。それにたぶん、さっきほどまでにうまく気配を消すことも出来ていないだろう。
きちんと気配を探れば見えてくるはずだ。
「いた……こんなに簡単に見つかるなんて、もはや猶予はないらしい」
気配を探るまでもなかった。
うまく気配を消せないどころか、動くことすらままならないと言った感じで、目の前にあった木に寄りかかっていた。
「また……会いましたね……」
「親友に会ったというのに、ずいぶんと嫌そうな顔してるな?」
「まさか、生きていたとは……」
「どうやら、再開すら喜べないほどに精神が汚染されているようだな?」
「ええ、約束を果たせなかった罰でしょうかね」
とぼとぼと僕のもとへと近づいてきながら、彼の表情は苦痛にゆがんでいる。
急いでここまでやって来たが、もう手遅れらしい。彼の体からは禍々しいまでの黒い魔力があふれ出している。
「悪いが、僕としても再開を喜んでいる場合じゃない。最後だ。痛みもないほどに一瞬で終わらせてやる。だから もう動くな」
何とかして、彼が魔王になる前に殺してやらないと。
魔王になる瞬間に立ち会ってやれるんだ。僕に出来ることはそれぐらいだ。
「いや、こっちのセリフだ。そっちの約束はもう忘れてくれ、私があなたとの約束を果たすのが先だ。魔王になろうとも、その約束だけは必ず果たさせてもらいますよ……」
そう言うや否や、友は最後の力を振り絞って、木の向こう側へと走り出す。さっきまでの彼とは思えないほどに気配を消すことは出来ていないが、それでも、探らなければわからないほどまでには気配を消している。
「時間の無駄だ」
だが全力を出せる僕と、満身創痍な彼では戦いになるはずなどない。
圧倒的な強者に出会った時は、逃げたってなんの意味もない。追うよりも追われる方がつらいのだから。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
リアンの白い雪
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。
いつもの日常の、些細な出来事。
仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。
だがその後、二人の関係は一変してしまう。
辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。
記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。
二人の未来は?
※全15話
※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。
(全話投稿完了後、開ける予定です)
※1/29 完結しました。
感想欄を開けさせていただきます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる