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勇者は魔王を倒すしかない
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「自称『最強の勇者』が……情けない!」
誰が『自称』だ……僕は自分のことをそう思ったことは一度もない。誰かが勝手に呼び始めて、知らない間に全国中に広まっただけの称号だ。
『僕は、最強じゃない……』
「ヘカテーさん! どうしてここに!?」
僕の声をかき消すように、ニケが大きな声で尋ねた。
「ちょっとね……それより、クラトスの様態は?」
「まずい……と思うわ。もしかしたらダメかもしれない。私がついていながら、こんなことになるなんて……」
ヘカテーの問いに、ニケは申し訳なさそうに返答する。
しかし、ニケが悪いわけじゃない。僕だって、まさかこんなことになるなんて思ってもいなかったのだから、彼女にだってわかるはずがなかった。
「ニケのせいじゃないわ。こいつが自殺願望を持っていたから悪いのよ。たくっ、最近は少しまともになったと思ったけど、結局あんたは何も変わってないのね……まあいいわ。だけど、私が来たからには死ぬことは許さない……」
大きくため息を吐きながら、ヘカテーは僕の体に両手を当てる。
『お前にもどうすることも出来ない』
これほどの怪我を負っている。いかにヘカテーが最強の魔法使いだとしても、瀕死の人間を回復させることなんて出来るはずがない。
「何よその目……私をだれだと思ってるの? 最強の魔法使いよ……下半身がなくなろうが、頭が吹き飛ばされようが、わずかにでも生命力が残っていればどうにかなるわよ。それが出来るように、魔王使いを引退した後も研究だけは欠かさなかったからね」
そう言い切るや否や、凄まじいスピードで僕の下半身が再生されてゆく。
これはもはや人間の技ではない。いうなれば神の御業、いいや、悪魔の所業とも呼べるほどに恐ろしい魔法だ。
「ありえない。僕ですら死を覚悟するレベルの重傷だったんだぞ?」
「だから何? 私なんだから出来るに決まってるでしょう? 声だってきっちり元通りにしてあげたわよ」
もうわけがわからない。
そもそも、ヘカテーがこの場所にいる意味すら理解できないのに、そのうえ、あれだけの重傷を一瞬で完治させるほどの魔法を使えるようになっていた。このことが意味するのは――
「――まさか、お前、瞬間移動も出来るのか?」
いや、まさかそんなはずがない。そんな魔法はおとぎ話の中にしか存在してはいない代物だ。なにより、存在していいはずがない。
「まさか、私のはただ知り合いのところに飛べるだけの魔法よ……まあ、クラトスが瀕死になった時に、無条件で飛ばされる使い勝手の悪い魔法だけどね」
「それってつまり……」
「あんたが私の同意も得ずに死ぬことは許さないってこと!」
どれだけ強い相手と対峙したとしても、僕は死ぬことが出来なかったらしい。自殺願望者への対策としてはほぼ完ぺきなものだと言えよう。まあ、即死すればいいだけの話だけど。ともかく、そんな理不尽は到底納得できない。
だが、同時に納得したこともある。
「小言ばっかりのお前が、どうして僕についてこなくなったのかと思ったけど……そういうことだったのか」
口では死んでほしくないと言ってはいるのもの、僕が死ななければならないことについては納得しくれたのだと思っていた。だがよくよく考えてみれば、ヘカテーの性格上ありえないことだ。
「私は誰の命もあきらめるつもりはないっ! 馬鹿な幼馴染も、言葉足らずな魔王も……目の前に立ちふさがる悪もね」
彼女は決して諦めない。命という物の大切さをこの世で一番理解しているから。
誰が『自称』だ……僕は自分のことをそう思ったことは一度もない。誰かが勝手に呼び始めて、知らない間に全国中に広まっただけの称号だ。
『僕は、最強じゃない……』
「ヘカテーさん! どうしてここに!?」
僕の声をかき消すように、ニケが大きな声で尋ねた。
「ちょっとね……それより、クラトスの様態は?」
「まずい……と思うわ。もしかしたらダメかもしれない。私がついていながら、こんなことになるなんて……」
ヘカテーの問いに、ニケは申し訳なさそうに返答する。
しかし、ニケが悪いわけじゃない。僕だって、まさかこんなことになるなんて思ってもいなかったのだから、彼女にだってわかるはずがなかった。
「ニケのせいじゃないわ。こいつが自殺願望を持っていたから悪いのよ。たくっ、最近は少しまともになったと思ったけど、結局あんたは何も変わってないのね……まあいいわ。だけど、私が来たからには死ぬことは許さない……」
大きくため息を吐きながら、ヘカテーは僕の体に両手を当てる。
『お前にもどうすることも出来ない』
これほどの怪我を負っている。いかにヘカテーが最強の魔法使いだとしても、瀕死の人間を回復させることなんて出来るはずがない。
「何よその目……私をだれだと思ってるの? 最強の魔法使いよ……下半身がなくなろうが、頭が吹き飛ばされようが、わずかにでも生命力が残っていればどうにかなるわよ。それが出来るように、魔王使いを引退した後も研究だけは欠かさなかったからね」
そう言い切るや否や、凄まじいスピードで僕の下半身が再生されてゆく。
これはもはや人間の技ではない。いうなれば神の御業、いいや、悪魔の所業とも呼べるほどに恐ろしい魔法だ。
「ありえない。僕ですら死を覚悟するレベルの重傷だったんだぞ?」
「だから何? 私なんだから出来るに決まってるでしょう? 声だってきっちり元通りにしてあげたわよ」
もうわけがわからない。
そもそも、ヘカテーがこの場所にいる意味すら理解できないのに、そのうえ、あれだけの重傷を一瞬で完治させるほどの魔法を使えるようになっていた。このことが意味するのは――
「――まさか、お前、瞬間移動も出来るのか?」
いや、まさかそんなはずがない。そんな魔法はおとぎ話の中にしか存在してはいない代物だ。なにより、存在していいはずがない。
「まさか、私のはただ知り合いのところに飛べるだけの魔法よ……まあ、クラトスが瀕死になった時に、無条件で飛ばされる使い勝手の悪い魔法だけどね」
「それってつまり……」
「あんたが私の同意も得ずに死ぬことは許さないってこと!」
どれだけ強い相手と対峙したとしても、僕は死ぬことが出来なかったらしい。自殺願望者への対策としてはほぼ完ぺきなものだと言えよう。まあ、即死すればいいだけの話だけど。ともかく、そんな理不尽は到底納得できない。
だが、同時に納得したこともある。
「小言ばっかりのお前が、どうして僕についてこなくなったのかと思ったけど……そういうことだったのか」
口では死んでほしくないと言ってはいるのもの、僕が死ななければならないことについては納得しくれたのだと思っていた。だがよくよく考えてみれば、ヘカテーの性格上ありえないことだ。
「私は誰の命もあきらめるつもりはないっ! 馬鹿な幼馴染も、言葉足らずな魔王も……目の前に立ちふさがる悪もね」
彼女は決して諦めない。命という物の大切さをこの世で一番理解しているから。
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