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勇者は魔王を倒すしかない
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「今からそれを証明してあげますよ!」
男は叫ぶと、自らが持っていた剣『ゲヘナ』を天に掲げる。
『ゲヘナ』が持つ真なる力を発動するために、魔力を『ゲヘナ』に送り込むための儀式なのだろう。
しかし本当に地獄の業火が発動されてしまったら、おそらく彼は助からない。僕は出来る限り彼にそんな死に方はしてほしくはない。だからだろう、必死に彼を止めるべく剣を打ち込んだ。
「やめろ、そんな無意味なこと!」
だが、一歩おそかった。
男を中心に恐ろしいほど大きな爆風が生じ、炎の渦が男を包む。それもただの炎ではなく、正真正銘、地獄から召喚されたであろう炎だ。
もちろん、この世界には地獄の業火などと言うものは存在しないはずだ。もし仮に、永遠の滅びというものがあるのだとしたら、今の世界はこれほど狂ってはいない。
だがそれでも、彼が召喚した炎は、そんなものが存在するのではないかと錯覚させるほどに強い意志を持っている。まるで、地獄の使者が僕を殺しに来たような感じだ。
――だけど、これじゃあ僕は殺せない。
僕を殺したいのなら、もっと引きつけてから発動するべきだった。熱風だけで僕を殺すことはできない。だが、そんなことは百も承知の筈だ。
だとするなら、本当の狙いはなんだろう。
「クラトス!?」
ニケが僕を心配しているようだ。
そんなに大きな声を出さずとも、君の声はよく通る。だから、少し静かにしてくれ……いまいいところなんだから。
僕は背後から迫りくる短剣を右手で掴み取る。
「演技で僕を謀ろうとしたのはよかったよ。炎を召喚した時に放った殺気も本物だったし、気配を消すタイミングもばっちりだった」
あともう少しだけ、あともう少しだけ油断していれば僕は投げ込まれた短剣『ゲヘナ』によって内部から灰にされていただろう。
「ではなぜ、なぜ私の嘘を見破ることが出来たのです?」
その質問とは裏腹に、男は当たり前のことが当たり前に起きただけだという顔をしている。
本当は、自分の作戦がうまくいかなかった理由を知っているのだろう。
「確かにすごい炎だ。もし仮に、地獄の業火……永遠の消滅なんてものが存在していたとしたら、たぶんこんな感じなんだろう」
膨大な炎から発せられた熱量は、人間の許容範囲をはるかに上回っている。もし万が一、僕があれに巻き込まれたなら、死にはしなかっただろうがかなりの大やけどを負ったことだろう。
「ということはやはり……」
「たぶんお前の想像通りだ。これほどすごい炎なんだ。せめて僕が当たる距離まで引きつけておくべきだった。これじゃあ、誰がどう見ても囮だってわかる」
自分の命を懸けてまで発動した技なんだ。普通なら、確実に当たる距離で放つに決まっている。そうでなければ意味がないのだから。
僕の回答に納得したのか、男はくつくつと笑う。
「まあいいでしょう。もともと、こちらは賭けに近い……馬鹿げているでしょう? 化け物の命を安っぽい賭け事でかすめ取るのは?」
「友のことを化け物だなんて……よく言ってくれる」
「いいじゃないですか、化け物同士なんですから。ですが、ここから先は生半可な賭けではありませんよ……なんていったって、私の命をベットするのですから!」
男がそう言い切ったタイミングで、僕の手にあった短剣が熱を発する。もちろん、僕の手に生じた傷から発せられたものではない。そもそも熱に負けないように、僕の手にはコキュートスの冷気をまとわせていた。だからこそ、短剣の熱に負けることはなかった。それが今、男に呼応するかのように、冷気をはねのけるぐらいにまで温度を上昇させたのだ。
僕が思わず短剣を手放すと、短剣はすっぽりと男の手に収まった。
「この野郎……」
僕は熱で使い物にならなくなった右手をなでる。
蒸発してしまいそうなほどに焼かれた僕の手を見て男はいやらしく笑った。
男は叫ぶと、自らが持っていた剣『ゲヘナ』を天に掲げる。
『ゲヘナ』が持つ真なる力を発動するために、魔力を『ゲヘナ』に送り込むための儀式なのだろう。
しかし本当に地獄の業火が発動されてしまったら、おそらく彼は助からない。僕は出来る限り彼にそんな死に方はしてほしくはない。だからだろう、必死に彼を止めるべく剣を打ち込んだ。
「やめろ、そんな無意味なこと!」
だが、一歩おそかった。
男を中心に恐ろしいほど大きな爆風が生じ、炎の渦が男を包む。それもただの炎ではなく、正真正銘、地獄から召喚されたであろう炎だ。
もちろん、この世界には地獄の業火などと言うものは存在しないはずだ。もし仮に、永遠の滅びというものがあるのだとしたら、今の世界はこれほど狂ってはいない。
だがそれでも、彼が召喚した炎は、そんなものが存在するのではないかと錯覚させるほどに強い意志を持っている。まるで、地獄の使者が僕を殺しに来たような感じだ。
――だけど、これじゃあ僕は殺せない。
僕を殺したいのなら、もっと引きつけてから発動するべきだった。熱風だけで僕を殺すことはできない。だが、そんなことは百も承知の筈だ。
だとするなら、本当の狙いはなんだろう。
「クラトス!?」
ニケが僕を心配しているようだ。
そんなに大きな声を出さずとも、君の声はよく通る。だから、少し静かにしてくれ……いまいいところなんだから。
僕は背後から迫りくる短剣を右手で掴み取る。
「演技で僕を謀ろうとしたのはよかったよ。炎を召喚した時に放った殺気も本物だったし、気配を消すタイミングもばっちりだった」
あともう少しだけ、あともう少しだけ油断していれば僕は投げ込まれた短剣『ゲヘナ』によって内部から灰にされていただろう。
「ではなぜ、なぜ私の嘘を見破ることが出来たのです?」
その質問とは裏腹に、男は当たり前のことが当たり前に起きただけだという顔をしている。
本当は、自分の作戦がうまくいかなかった理由を知っているのだろう。
「確かにすごい炎だ。もし仮に、地獄の業火……永遠の消滅なんてものが存在していたとしたら、たぶんこんな感じなんだろう」
膨大な炎から発せられた熱量は、人間の許容範囲をはるかに上回っている。もし万が一、僕があれに巻き込まれたなら、死にはしなかっただろうがかなりの大やけどを負ったことだろう。
「ということはやはり……」
「たぶんお前の想像通りだ。これほどすごい炎なんだ。せめて僕が当たる距離まで引きつけておくべきだった。これじゃあ、誰がどう見ても囮だってわかる」
自分の命を懸けてまで発動した技なんだ。普通なら、確実に当たる距離で放つに決まっている。そうでなければ意味がないのだから。
僕の回答に納得したのか、男はくつくつと笑う。
「まあいいでしょう。もともと、こちらは賭けに近い……馬鹿げているでしょう? 化け物の命を安っぽい賭け事でかすめ取るのは?」
「友のことを化け物だなんて……よく言ってくれる」
「いいじゃないですか、化け物同士なんですから。ですが、ここから先は生半可な賭けではありませんよ……なんていったって、私の命をベットするのですから!」
男がそう言い切ったタイミングで、僕の手にあった短剣が熱を発する。もちろん、僕の手に生じた傷から発せられたものではない。そもそも熱に負けないように、僕の手にはコキュートスの冷気をまとわせていた。だからこそ、短剣の熱に負けることはなかった。それが今、男に呼応するかのように、冷気をはねのけるぐらいにまで温度を上昇させたのだ。
僕が思わず短剣を手放すと、短剣はすっぽりと男の手に収まった。
「この野郎……」
僕は熱で使い物にならなくなった右手をなでる。
蒸発してしまいそうなほどに焼かれた僕の手を見て男はいやらしく笑った。
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