最強の勇者は、死にたがり

真白 悟

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勇者は死ぬしかない

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 ヴラスカの考え方はさておき、どう考えても不審だ。
 今回の魔王討伐を僕に依頼した商人は、昔の話だとはいえど一流の冒険者だったはずだ。
 ただのアークデーモンと魔王を間違えるはずなどない。どれほど耄碌した爺さんだって、そこらにいるような一般人だって、それこそ田舎の少年だってそんな間違いは犯さない。人間を熊と間違えることと同じぐらいにおかしな話だ。

「どう考えてもきな臭いよな?」
 アークデーモンは囮なのかもしれない。そんな考えが脳裏をよぎる。本物の魔王が送り出した刺客ということだ。
 それは今は単なる疑念でしかないが、可能性は十分にある。

「私もそう思うわ。アークデーモンは、一人で人里近くに出てこれるほど強くはないからね」
 ニケが僕に同意する。
 彼女はいつにもまして冷静だ。
 悪魔を配下につける存在は、より上位の悪魔であることが多い。それも魔王となると、アークデーモンの比ではないぐらい強力な悪魔に違いない。それはすなわち、彼女にとって悪いことで、非常に喜ばしいことだ。本当のところ冷静でいられるはずなどないぐらいに……最悪で最良とも言える可能性だ。
 ニケにとって、悪魔は竜人として敵対関係にあるだけではなく、両親の敵でもあるのだ。彼女の両親を殺した相手は悪魔の魔王だったらしく、現場に居合わせなかった彼女にとって、その男の名は怨がこもるほどに呪った名前だ。
 悪魔で魔王ともなると、それがその男である確率は格段に上がる。

「もしかしたら――」
「――それ以上は言わないで……絶対にそうとは言い切れないから」
 僕の言葉を遮って、ニケは震えた声でそう言った。表面上は冷静であったとしても、内心は穏やかではないらしい。だからこそ、彼女の表面上の冷静さがより際立って恐ろしい。
 まるで氷のように冷たく、ずっと一緒に過ごしてきた僕のことすら凍てつかせるほどに冷たい目をしている。
 もし、相手その男だったしたら……両親の敵だとしたら、僕は手を出すことが出来ない。それが、彼女との約束の一つだからだ。

「ああ……魔王がいると決まったわけでもない。ましてや、それが悪魔とも限らないわけだ」
 口ではそうは言ったが、いずれにせよ、アークデーモンの裏に何かがいるのはほぼ確定している。
 
「魔王で悪魔だと何か問題が?」
 何も知らないヴラスカは、ニケに対してそんな質問をする。
『知らないなら、話に入るな』なんて言う奴もいるが、そんなのは人間には到底無理な話だ。人間の果てることなき好奇心は、時にタブーすら上回る。
 特殊な力を持っていようが、ヴラスカだって人間だ。気にならない方がおかしい。
「純粋な悪魔の魔王は、厄介だからね」
 ニケが誤魔化す。
 しかし彼女の言う通り、悪魔が魔王になった場合は非常に厄介ではある。
 悪魔種にもいろんな種類があり、最底辺にもなると力に限った話では人間種より弱い者も存在する。現にインプとか、レッサーデーモン、サキュバスなどは魔力を含めない純粋な攻撃力で言えば人間を下回る。
 だがその反面、強い悪魔はその辺の竜よりも強い場合があり、72柱と呼ばれる者達に至っては、竜人よりも強いらしい。そんな存在が本当に実在するなら、一度でいいから戦ってみたい。僕を殺せるほど強いかもしれない。

「とにかく、魔王となった悪魔が相手なら、僕が勝てない可能性すらある。そんな存在ってことだ」
 つまり、仇の男が今現れた場合、ニケはここで死ぬことになる。彼女が悪魔の魔王と戦うのは、まだ早すぎる。それなのに僕には、彼女の無謀な挑戦を止める権利がない。
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