最強の勇者は、死にたがり

真白 悟

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勇者は死にたい

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「まあ、深く詮索はしないでいただきたい。私も今となっては、闇商人です。あまり大きな顔をして往来を歩けませんからな」
 まあいい、羽振りのいい仕事なのだから、相手の素性なんて知らんぷりするのが一番だろう。知ってて裏稼業のものとつるんでるなんて知られたら、勇者の名折れだ。勇者は常に人々の希望じゃなければならないのだから。

「それで、スライムはどこに?」
「そうでした、そうでした。スライムを討伐するためにいらしてもらったんでしたね」

 わざとらしく大げさな身振りそぶりで、さもうっかり忘れていたと男は言った。
 動きが派手な輩は嘘つきである場合が多い。動きが派手なことばかりに気を取られ、騙されてしまう人間がいるからだ。
 僕はどうにも目の前の男を信用することは出来ない。
 何か僕をだまそうとしているように見えてならないのだ。

「ああ」
 しかし、疑っていようがいまいが、それを悟られるともっと厄介なことなるかもしれない。
 相手が人間だとするなら、僕が負けることはほぼないだろうし、心配する必要もない。だが、人間以外の上位種なら僕より強い存在だっているかもしれない。油断というのは素人のすることだ。僕は絶対に油断はしない。
 相手がいかに弱小な人間であれど、よわよわしいスライムであれど、いつも殺されることを期待している。
 特にこの男からは、死のにおいというものがぷんぷんと漂っている。
 あまり期待はしていなかったのだが、今日こそ死ねるかもしれない。

「村の北側に橋があるのはご存じで?」
「ヴィーゼ橋のことか?」
「はい。その橋の上に突如スライムが大量発生してしまい、非常に困っているのです。あの橋は商人にとっては命綱のようなところですからね」
 ますますきな臭い。そんな重要な拠点をギルドが守らないわけなどない。ヴァルトヴィーゼにとってもあの橋は命綱だ。
 周りを川や森に囲まれたこの地域にとって、あの橋がなければ、他の地方へ商品を送ることもできないし、ほかの地方からの貿易品などは届かなくなり、街そのものが崩壊しかなねない。
 しかし、それでも口車には乗ってやろう。その方が僕のためになるからだ。
「わかった。だが、また半刻も歩くことになるのは厄介だ。荷馬車でも貸してはくれないだろうか?」
「それはもちろん。私どもも全力で支援させていただきます」

 男は、幾たびも『私ども』と言った。
 しかし、この村を見た感じ、商人と呼べるような人物は彼一人だけだ。一体ほかのものはどこにいるのだろうか。不思議でならない。
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