22 / 97
勇者は死にたい
6
しおりを挟む
「――ここか……」
長い道のり、というほどでもないが、約束の地まで何とかたどり着けた。
道中は大したイベントもなく、誰もわがまま言うことなくついてきたし、特に見せ場というものもない。
「いつの間にこんなところが……」
ニケが驚くのも仕方がない。僕だって、こんなものがあるなんて初めて知った。というか、数か月前に通った時はこんなものはなかったはずだ。
――こんな場所に村なんて。それもかなり栄えているし、農業も盛んらしい。あちらこちらに農夫の姿が見える。
「いいところですよね」
ヴラスカはまるで驚いていない。それどころか、以前から知っていたようだ。
一体どんな仕事をしているのだろう。まさか、僕と同じで冒険者的な何かをしているわけでもあるまい。
こんな辺鄙なところに来ることなんてそうそうないだろう。
「来たことあるのか?」
「……」
まさかの無視だ。
家で過ごしていた時は、何かしら返事をしてくれたのだが、まさかの無視。少しだけ死にたくなった。いつものことだけど。
「来たことあるの?」
今度はニケが尋ねた。
僕と違って、ニケはヴラスカと中がいい。だからいつも二人で何かを話しては、笑ったりしていた。その間僕はというと一人で本を読んでいる。
まるで、冷え切った家庭の中で、妻と思春期の娘に無視されている夫のようなさみしさはあった。だが、別に他人だし仕方のないことだとも思っている。ヴラスカにしてみれば敵らしいし。
「はい、仕事で何回か。お野菜はおいしいし空気はきれいだし、ヴァルトヴィーゼとは違った良さがありますよ」
とてもうれしそうにヴラスカが答える。
僕と喋っているときは、表面上は笑っていたが、目だけは笑っていなかった。それに比べると今は、とても楽しそうだ。
僕が殺したという仲間、相当中の良かった人たちなのだろう。身に覚えは……ないこともないのだが、なんだかとても申し訳ない。仲間が殺されていなければ、彼女はこの世界でも幸せに暮らすことができたのだろう。
「ようやく来られましたか、勇者様」
突然、背後から意地悪そうな声が聞こえる。依頼主の男だ。依然としてスーツを身にまとっていて、この村においては不自然だ。
「背後をとるのが好きなんだな? もしかして僕よりも強いんじゃないか?」
「お戯れを私は元盗賊でして……あ、と言ってもギルドに所属する正規の盗賊ですけど、それで気配を絶つのが癖になっているだけで、魔力・力ともに勇者様を傷つけるほどはありませんよ。突然背後からの出現、お客様方には不快でしょうが、癖なのでご了承ください」
やっぱり怪しい男だ。
僕の背後をとれるほどの盗賊が、ギルドにいたなんてことは聞いたことがない。
そんなやつがいたら、すぐ僕の耳に入るだろうに……
長い道のり、というほどでもないが、約束の地まで何とかたどり着けた。
道中は大したイベントもなく、誰もわがまま言うことなくついてきたし、特に見せ場というものもない。
「いつの間にこんなところが……」
ニケが驚くのも仕方がない。僕だって、こんなものがあるなんて初めて知った。というか、数か月前に通った時はこんなものはなかったはずだ。
――こんな場所に村なんて。それもかなり栄えているし、農業も盛んらしい。あちらこちらに農夫の姿が見える。
「いいところですよね」
ヴラスカはまるで驚いていない。それどころか、以前から知っていたようだ。
一体どんな仕事をしているのだろう。まさか、僕と同じで冒険者的な何かをしているわけでもあるまい。
こんな辺鄙なところに来ることなんてそうそうないだろう。
「来たことあるのか?」
「……」
まさかの無視だ。
家で過ごしていた時は、何かしら返事をしてくれたのだが、まさかの無視。少しだけ死にたくなった。いつものことだけど。
「来たことあるの?」
今度はニケが尋ねた。
僕と違って、ニケはヴラスカと中がいい。だからいつも二人で何かを話しては、笑ったりしていた。その間僕はというと一人で本を読んでいる。
まるで、冷え切った家庭の中で、妻と思春期の娘に無視されている夫のようなさみしさはあった。だが、別に他人だし仕方のないことだとも思っている。ヴラスカにしてみれば敵らしいし。
「はい、仕事で何回か。お野菜はおいしいし空気はきれいだし、ヴァルトヴィーゼとは違った良さがありますよ」
とてもうれしそうにヴラスカが答える。
僕と喋っているときは、表面上は笑っていたが、目だけは笑っていなかった。それに比べると今は、とても楽しそうだ。
僕が殺したという仲間、相当中の良かった人たちなのだろう。身に覚えは……ないこともないのだが、なんだかとても申し訳ない。仲間が殺されていなければ、彼女はこの世界でも幸せに暮らすことができたのだろう。
「ようやく来られましたか、勇者様」
突然、背後から意地悪そうな声が聞こえる。依頼主の男だ。依然としてスーツを身にまとっていて、この村においては不自然だ。
「背後をとるのが好きなんだな? もしかして僕よりも強いんじゃないか?」
「お戯れを私は元盗賊でして……あ、と言ってもギルドに所属する正規の盗賊ですけど、それで気配を絶つのが癖になっているだけで、魔力・力ともに勇者様を傷つけるほどはありませんよ。突然背後からの出現、お客様方には不快でしょうが、癖なのでご了承ください」
やっぱり怪しい男だ。
僕の背後をとれるほどの盗賊が、ギルドにいたなんてことは聞いたことがない。
そんなやつがいたら、すぐ僕の耳に入るだろうに……
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
リアンの白い雪
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。
いつもの日常の、些細な出来事。
仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。
だがその後、二人の関係は一変してしまう。
辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。
記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。
二人の未来は?
※全15話
※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。
(全話投稿完了後、開ける予定です)
※1/29 完結しました。
感想欄を開けさせていただきます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
例によって例の如く異世界転生を果たし最強に。けど普通に無双するのは単純だから最弱の”人類国家”を裏方からこっそり最強にする。超能力でな!
ガブガブ
ファンタジー
※人気低迷の為、第一章を以って連載を打ち切りといたします※
俺はある日、横断歩道に飛び出した幼女を庇い、ポックリと逝った。
けど、なんということでしょう。何故か俺は死んでいなかった模様。
どうやら俺も、巷で話題の<異世界転生>とやらをさせて貰えるらしい。役得役得♪
で、どの<異世界転生>の作品でも見られる豪華特典――まぁ、俗に言うチート能力って奴な――を得て、無事<異世界転生>を果たす俺。
ちなみに、俺が得たチート能力は”超能力”な訳だが、これを得たのには深い訳があるんよ。
実は、小さい頃からずっと好きだった特撮アニメの主人公が超能力者でな、俺はずっとその人みたいになりたいと願ってたんだわ。
そんな憧れの人と同じ力を得た俺は、アニメ上の彼と同じく、弱き人を『影のヒーロー』として裏からこっそり救おうと思う。
こうして俺は、憧れのヒーローである彼……超能寺 才己(ちょうのうじ さいこ)の名を勝手に貰い受け、異世界に爆誕!
まっ、どうなるかわからないが、なるようになるっしょ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる