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勇者は死ねない
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「私は、地球の日本という国より、召喚された。異世界人とあなたたちが呼ぶ存在。神の力より与えられたのは不可視化で、魔王を討伐するべく、四人パーティーを組んでいた。勇者……あなたが私たちの前に現れるまでは…………どうして!? どうして、私の仲間を殺した!?」
激情に駆られたせいか、相手の姿がちらりと見えた。
女性だ。それも人間種の中でも最弱であろう小柄の種族だ。綺麗な黒髪を足首の近くまで伸ばし、前髪は整えられていて、茶色がかった瞳が僕を睨み付けている。
端整な顔とは裏腹に、体はやせ細り、身なりはまるで浮浪者を彷彿とさせる。
「女か……」
少しががっかりした。
異世界人とはいえ、最弱の種族で、貧弱な女……おそらく力もたかが知れているだろう。
期待するだけ損というやつだ。もしかしたら、その貧相な体の奥にとてつもない力を宿しているのかもしれないが、ともかく、病的に痩せた体では力の半分も出せないだろう。
そんな彼女が、ふもとの村を壊滅に追い込むことなどできるはずもないし、何より竜や竜人じゃないのなら、犯人であるはずもない。
つまるところ、僕が今の彼女と戦う理由が一つたりとも見当たらない。
だから、僕は彼女の問いにすら答えることもなく、その場を去ろうと思った。
「どこに行く!?」
血気迫る女は、僕の背中に切りかかった。
僕はよける必要性すら感じず、彼女の剣をそのまま背中に当てた。
背中にあたった剣ははじけ飛び、地面に突き刺さる。攻撃力不足だ。僕の背中よりも、彼女の剣は劣っている。そんなものでは戦いにすらならないだろう。
本当に白けた。
今まで、あまたの魔物と戦ってきたが、こんな不毛な戦いは初めてだ。
何の役にも立たない鉄くずを、何の策も立てずに振り下ろすとは……魔物だってもっとまともな攻撃をしてくるだろう。
やはり平和な世界から来た異世界人といったところだ。僕を殺すなんて夢物語に近い。
「わかっただろう。僕は忙しい、お遊びなら他を探してくれないかな? 僕は無害な人間は殺さない主義なんでね」
「無害だと……?」
武器を失った彼女はうなだれて、地面に座り込んだ。
「ダメだよ。女の子には優しくしなきゃ! 大丈夫、異世界人なら鍛えさえすればいつか勇者を殺せるかもしれないよ!」
ニケが少女を慰めている。
確かに彼女の言うとおりだ。何年待っても、僕を殺せる生物は現れなかった。というよりも、本気を出して戦ったのだって、ニケと戦った時以来だろう。
これから先もきっと強い生物は現れないかもしれない。いいや、現れたとしてもずっと先の未来かもしれない。
だったら、僕が作り上げるというのは名案だ。
「確かにそうだっ! 君、僕のもとで修行でもしてみないか!?」
あまりにもテンションが上がりすぎて、僕は若干意味不明なことを言っている気がする。
だけど、我慢できなかった。
進化の袋小路とはよく言ったもので、今の世界には強敵というものがあまりいない。つまり、このままではいずれ訪れる脅威までに、生物が進化することすら出来ず、滅ぼされる可能性があるということだ。
だったら、僕が進化を促してやればいい。
こんなにいい気分は久しぶりだ。
今すぐに試したいことがいっぱいある。
「何を馬鹿なことを……どうして、敵の元で修行しなければならないんだ!」
彼女が怒るのももっともなことだ。
僕だって、いきなりそんなことを敵に言われたら怒髪天を衝くだろう。
激情に駆られたせいか、相手の姿がちらりと見えた。
女性だ。それも人間種の中でも最弱であろう小柄の種族だ。綺麗な黒髪を足首の近くまで伸ばし、前髪は整えられていて、茶色がかった瞳が僕を睨み付けている。
端整な顔とは裏腹に、体はやせ細り、身なりはまるで浮浪者を彷彿とさせる。
「女か……」
少しががっかりした。
異世界人とはいえ、最弱の種族で、貧弱な女……おそらく力もたかが知れているだろう。
期待するだけ損というやつだ。もしかしたら、その貧相な体の奥にとてつもない力を宿しているのかもしれないが、ともかく、病的に痩せた体では力の半分も出せないだろう。
そんな彼女が、ふもとの村を壊滅に追い込むことなどできるはずもないし、何より竜や竜人じゃないのなら、犯人であるはずもない。
つまるところ、僕が今の彼女と戦う理由が一つたりとも見当たらない。
だから、僕は彼女の問いにすら答えることもなく、その場を去ろうと思った。
「どこに行く!?」
血気迫る女は、僕の背中に切りかかった。
僕はよける必要性すら感じず、彼女の剣をそのまま背中に当てた。
背中にあたった剣ははじけ飛び、地面に突き刺さる。攻撃力不足だ。僕の背中よりも、彼女の剣は劣っている。そんなものでは戦いにすらならないだろう。
本当に白けた。
今まで、あまたの魔物と戦ってきたが、こんな不毛な戦いは初めてだ。
何の役にも立たない鉄くずを、何の策も立てずに振り下ろすとは……魔物だってもっとまともな攻撃をしてくるだろう。
やはり平和な世界から来た異世界人といったところだ。僕を殺すなんて夢物語に近い。
「わかっただろう。僕は忙しい、お遊びなら他を探してくれないかな? 僕は無害な人間は殺さない主義なんでね」
「無害だと……?」
武器を失った彼女はうなだれて、地面に座り込んだ。
「ダメだよ。女の子には優しくしなきゃ! 大丈夫、異世界人なら鍛えさえすればいつか勇者を殺せるかもしれないよ!」
ニケが少女を慰めている。
確かに彼女の言うとおりだ。何年待っても、僕を殺せる生物は現れなかった。というよりも、本気を出して戦ったのだって、ニケと戦った時以来だろう。
これから先もきっと強い生物は現れないかもしれない。いいや、現れたとしてもずっと先の未来かもしれない。
だったら、僕が作り上げるというのは名案だ。
「確かにそうだっ! 君、僕のもとで修行でもしてみないか!?」
あまりにもテンションが上がりすぎて、僕は若干意味不明なことを言っている気がする。
だけど、我慢できなかった。
進化の袋小路とはよく言ったもので、今の世界には強敵というものがあまりいない。つまり、このままではいずれ訪れる脅威までに、生物が進化することすら出来ず、滅ぼされる可能性があるということだ。
だったら、僕が進化を促してやればいい。
こんなにいい気分は久しぶりだ。
今すぐに試したいことがいっぱいある。
「何を馬鹿なことを……どうして、敵の元で修行しなければならないんだ!」
彼女が怒るのももっともなことだ。
僕だって、いきなりそんなことを敵に言われたら怒髪天を衝くだろう。
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