最強の勇者は、死にたがり

真白 悟

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勇者は死ねない

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「多分いる……」

 ニケが僕を制止する。
 そんなことは言われなくても、百も承知だが、それだけ彼女が警戒する力の持ち主だということだ。

「強いのか?」
「かなりね……本気でまずいかもしれない」

 僕には何も感じられないが、それはいつものことで、だれかの気配に気づいたことすらない。
 そういった才能がないのだろう。

「それで? どこにいるんだ?」

 道は一つしかない……だけど、距離ぐらいは知っておきたい。

「もういるわ」
「はぁ!? どこに?」
「そこに……」

 ニケが指差したのは、洞窟の奥にある岩影。
 僕が見た感じでは何もいない。姿をくらます魔法でも使っているというのだろうか?
 だがしかし、竜人レベルになると、そんな小細工は必要ないはずだ。
 一体どうしたというのだろう。

「なるほど、では早速戦うことにするか」

 僕は腰にかけた剣を引き抜こうとした。だがその前に、ニケは背中に背負っていた剣を僕に差し出す。

「それじゃなくてこっちでしょ?」
「ばれたか……」

 剣を受け取り、ため息を大きく吐いた。
 ひさびさに僕と同等以上の相手と戦えるというのに、卑怯極まりないヘカテーの入れ知恵によってそんなわずかな楽しみすら消え去ったかもしれない。
 
「あなたがどれだけ強くても、勝ち負けは終わるまでわからない。油断すると死ぬかもしれないわ……って言ってもあなたはそれを望んでいるんでしょうけど……」
「いや、そうでもないさ、自分から死ぬのはごめんだからね」

 自ら命を絶つことは出来ない。だけど、戦いの中で死にたいとは思っている。
 だから僕は死に場所を求め、より強い相手との戦いを求めている。

「それで、もういいのだろうか?」

 今回の相手は言葉がわかるらしい。
 まあ、竜人かそれに準ずるなにかなら、言葉を扱えることは当たり前だ。
――だけど、話す相手を殺すというのは嫌な気分になる。
 僕は勇者で、殺人鬼ではないからだ。
 沢山の魔物を殺しておいて、いまさらいい子ぶりたいわけじゃない。
 ただ、僕がもつ唯一の流儀として、命乞いする相手は殺せない。
 言葉がわからなければ、命乞いのしようもないけどね。

「君が……村を滅ぼした存在かな?」

 僕は躊躇うこともなく尋ねた。
 相手は思いのほか戸惑っている様子だ。暗い中で、姿は依然として見えないが、なんとなくそんな雰囲気がする。

「……滅ぼした? 滅んだの間違いだと思うけど、まあいい。あんたはあたしを滅ぼしに来たんだろ?」
「まだ確定ではないけど、多分そうなんだろうね」
「嫌に人ごとだね? まあいいか、それよりあんた勇者だろう?」
「元、な」
「だったら、あたしにとっては滅ぼす相手だ。あんたにとって私がどうだろうとね」

 どうやら、相手は僕に恨みを抱いているらしい。
 魔物の知り合いがいるのであれば、その中に僕の殺した相手がいるかもしれない。
 恨みをかわれるのは最もだろう。
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