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勇者は死ねない
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長い道のりを超えて、山の麓までやって来た。
僕、大男、そして話を盗み聞きしていたニケの三人でだ。
「悪いな、馬車まで準備してもらっちゃって」
男が準備した馬車によって、時間がかなり短縮された。
もともと、歩いて行くつもりは、無かったが、彼の準備がいいことには驚いた。
「いえ、村がピンチなので、出来るだけ早く来ていただきたかったものですから……」
「それほどドラゴンの被害は大きいんですか?」
男の言葉に、ニケが険しそうな表情をする。
もともとニケは、ドラゴンの血を引く人間である龍人で、人間とドラゴンの和平を取り持つために、魔王として僕に話を持ちかけた。
だからこそ、ドラゴンが人を襲ったとなると黙ってはいれないのだろう。
僕はつくづく選択を間違え続けているらしい。こうなるなら、無理にでも、酒場で依頼内容を聞いておくべきだった。
「まあ、どっちにしろ、盟約を破ったドラゴンは盟約によって裁くしかないだろう?」
「そんなつもりないくせに……」
彼女はそういうが、僕は本気でドラゴンを倒すつもりではある。
ただ、ドラゴンと本気で戦って、死んでしまったのなら誰も文句は言えないだろう。
勇者だって人間だ。ドラゴンに勝てるなんて誰も思っているはずがない。
「いやいや、全力でやるよ」
「あらそう。だったら伝説の聖剣コキュートスを使うってことね」
「残念だが、僕はこれしかもってないよ」
僕は腰の剣を見せる。
誰が打ったものかすらわからないような無名の剣だが、なかなかにいい鉄を使っていて、おおよそ3キロ程度のロングソードだ。
錆びてなければそれなりに使えたことだろう。
全く、嘆かわしいことだ。
「それはそれは……でも安心して、ちゃんと持ってきてあるから」
ニケはそう言って、背負った聖剣を僕に見せつける。
「おいどうやって取り出したんだ! 誰にもさわれない場所に置いておいたのに……っ!」
僕が全財産を費やした、誰も入ることが出来ない武器庫の奥にしまっていたはずだ。
入るには何重にもかけた保護魔法を解かなければならない。
――おおよそ、王国に存在する魔法使いの中でも、一握り中の一握りだけしか解けないだろう。
「ヘカテーに出してもらった」
あの野郎……いや、野郎ではないけど、いつも僕の予想を超えていきやがる。
どれだけ僕のことが嫌いなんだ。
「そんなもん使って、ドラゴンが弱かったらどうするんだ?」
「その心配は意味がわからないわよ……簡単に勝てるならいいじゃない! だって勝つつもりなんでしょ」
ニケはにやけ顔でそう言った。
簡単に勝ててしまっては意味がないんだよ。なんてこと、口にできるはずもない。
依頼を受けている手前、失敗するつもりだと知られるわけには行かないしな。
もちろん、僕は全力でやるつもりだ。――ただし、僕が携えている伝説のサビ剣を使ってだ。
だが、それの計画もニケのせいで全ておじゃんだ。
「はぁ、ドラゴンが本気の僕より強いことを祈るしかないな……」
僕は誰にも聞こえないぐらいこの声でポツンと呟いた。
僕、大男、そして話を盗み聞きしていたニケの三人でだ。
「悪いな、馬車まで準備してもらっちゃって」
男が準備した馬車によって、時間がかなり短縮された。
もともと、歩いて行くつもりは、無かったが、彼の準備がいいことには驚いた。
「いえ、村がピンチなので、出来るだけ早く来ていただきたかったものですから……」
「それほどドラゴンの被害は大きいんですか?」
男の言葉に、ニケが険しそうな表情をする。
もともとニケは、ドラゴンの血を引く人間である龍人で、人間とドラゴンの和平を取り持つために、魔王として僕に話を持ちかけた。
だからこそ、ドラゴンが人を襲ったとなると黙ってはいれないのだろう。
僕はつくづく選択を間違え続けているらしい。こうなるなら、無理にでも、酒場で依頼内容を聞いておくべきだった。
「まあ、どっちにしろ、盟約を破ったドラゴンは盟約によって裁くしかないだろう?」
「そんなつもりないくせに……」
彼女はそういうが、僕は本気でドラゴンを倒すつもりではある。
ただ、ドラゴンと本気で戦って、死んでしまったのなら誰も文句は言えないだろう。
勇者だって人間だ。ドラゴンに勝てるなんて誰も思っているはずがない。
「いやいや、全力でやるよ」
「あらそう。だったら伝説の聖剣コキュートスを使うってことね」
「残念だが、僕はこれしかもってないよ」
僕は腰の剣を見せる。
誰が打ったものかすらわからないような無名の剣だが、なかなかにいい鉄を使っていて、おおよそ3キロ程度のロングソードだ。
錆びてなければそれなりに使えたことだろう。
全く、嘆かわしいことだ。
「それはそれは……でも安心して、ちゃんと持ってきてあるから」
ニケはそう言って、背負った聖剣を僕に見せつける。
「おいどうやって取り出したんだ! 誰にもさわれない場所に置いておいたのに……っ!」
僕が全財産を費やした、誰も入ることが出来ない武器庫の奥にしまっていたはずだ。
入るには何重にもかけた保護魔法を解かなければならない。
――おおよそ、王国に存在する魔法使いの中でも、一握り中の一握りだけしか解けないだろう。
「ヘカテーに出してもらった」
あの野郎……いや、野郎ではないけど、いつも僕の予想を超えていきやがる。
どれだけ僕のことが嫌いなんだ。
「そんなもん使って、ドラゴンが弱かったらどうするんだ?」
「その心配は意味がわからないわよ……簡単に勝てるならいいじゃない! だって勝つつもりなんでしょ」
ニケはにやけ顔でそう言った。
簡単に勝ててしまっては意味がないんだよ。なんてこと、口にできるはずもない。
依頼を受けている手前、失敗するつもりだと知られるわけには行かないしな。
もちろん、僕は全力でやるつもりだ。――ただし、僕が携えている伝説のサビ剣を使ってだ。
だが、それの計画もニケのせいで全ておじゃんだ。
「はぁ、ドラゴンが本気の僕より強いことを祈るしかないな……」
僕は誰にも聞こえないぐらいこの声でポツンと呟いた。
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