最強の勇者は、死にたがり

真白 悟

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勇者は死ねない

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「それで、僕に何の用だ?」

 一年もこの仕事を続けていればわかるが、強そうな見た目のやつが持ってくる仕事はだいたい面倒くさい。
 だけど、報酬金がかなりいい。

「実は――」
「――ここはギルドじゃない! 依頼するなら、ギルドを通しな」

 大男が話し始める前に、ヘカテーは二人を締め出した。

 放り出された二人は、唖然とする。

「……あいつの言う通り、ギルドで話すってのはないよな?」
「まあ……そうですね」

 だいたい、僕の元を訪れる人間は、大抵、ギルドから断られた人間だ。
 犯罪歴があるだとか、厄介すぎる依頼を持ってくるとか、ともかく、普通の人間が受けるには割に合わないことが多い。
 きっと、この男もそうなのだろう。
 面倒だが、いつもの場所へ連れていくとしよう。

 街の外れの、そのまた外れ。
 おおよそ人が住みつかないような崖の上、そこには僕達の家がある。
 社会に追われ、世界から疎まれてやむなく、そこに住むしかなかった二人の人間……それが僕と魔王だ。

「――あら、帰ってきたのね?」

 僕の気配を察知して、一人の女性が家から出てきた。
 背丈は小さく、まるで少女のような娘、彼女こそが、魔王その人だ。

「……は?」

 大男が固まっている。
 そりゃそうだ。魔王が勇者に挨拶なんてしていたなら、普通の人間は驚くに決まっている。
 僕は大きくため息をついて、彼女に家の中に入っているように促した。

「気にするな……」

「……いや、あれ魔王ニケさんですよね?」

 男は正気を取り戻したようで、すぐさま痛いところをついてくる。
 まあ、ここに彼を連れてきたのは僕なんだけど、段階ってものは踏んでおきたかった。

「ああ、だけど――」
「――すごい! 三大英雄全員に一日で会えるなんて……まさに奇跡だ!」

 こればかりはいつも面倒くさい。
 僕達三人、僕とニケ、そしてヘカテーは真実を知らない一般市民の間で、三大英雄なんていうイコンとして扱われているらしい。
 腐った国が考えそうなことだ。
 だから、だいたいの奴は、ここにきた時点で同じような反応をとる。
 僕達はそんなに素晴らしいものじゃない。

「ちょっと静かにしてくれないかな?」

 僕は苦笑いで、男に言った。
 男は途端に申し訳なさそうに顔を下げる。

「すんません……」

 この時ばかりは、なんとなく申し訳なく思う。

「それで……俺への用というのは?」
「はい、ギルドでも断られてしまって、勇者様なら直接依頼を聞いて頂けると紹介してもらったので……」

 ギルドの連中は、僕のことを便利屋かなにかと勘違いしているらしい。
 しかし、ギルドが僕を紹介する依頼となると、かなり難しい依頼なのだろう。この前のようなゴブリン百体狩りでなければいいけど。

「その依頼というのは?」
「申し上げにくいのですが……ドラゴン討伐です」

 僕は思わずにやりと笑う。
 世界の頂点に君臨する大いなる力、ドラゴンとはその一角を担う。すなわち、この世界においてかなり上位にある存在だ。
 人間が千人いても勝てないとまで言われている。
――ようやく、死に場所を得られそうだ。
 しかし、ドラゴン討伐など、するメリットが存在しないはずだ。
 ドラゴンは人間社会には関わらず、お互いに不干渉を原則としている。

 つまるところ、相手から手を出さない限りはお互いに手を出すことは出来ない。

「まさか、ドラゴンが攻めてきたのか?」
「はい……村の住民は逃しましたが、このザマで……」

 男は自身の服をめくりあげ、痛々しい傷跡を見せた。
 見た目からもわかるとおり、王国の兵士よりも屈強な彼が、これほどの傷を負わされる相手、かなりの手練れということだ。

「知能が高いドラゴンが人間を攻めて来るか……いよいよ、腐りきった人間社会に嫌気がさしたかな?」
「それなら、もっとはえぇはずです。革命後からは治安も良くなりましたし……ドラゴンにだって少なからず恩恵はあるでしょう」

 まあ、どうしてドラゴンが攻めて来たのかなんてどうでもいい。

「じゃあ行くか?」

 僕は地面に転がっていたボロボロの剣を拾って鞘に収めた。

「え?」

 男は意外そうな顔をして硬直している。

「どうした……行かないのか?」
「いや、契約金は? それよりも、その剣はどうするつもりで?」

 困惑しているのか、きちんと話すことができていない。
 一体なにがそんなにおかしいというのだろう。

「金の話は終わってからの方がいいだろう? 俺の実力も知らず、契約てのもおかしな話だ。ドラゴンってやつがどれだけ強いかもわからないしな……」

 万が一、ドラゴンが弱いという可能性も十分あり得る。
 ここにある中で、もっとも弱い剣だが、いい勝負になればいいけど。

 
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