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6 結末

仲間

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――終わってみると、他愛のない話になるというのが常だろう。
 一之瀬雫は、確実な証拠がないことから捕まえることは出来なかったが、より強固な監視がつくことになった。結局中にいる宮下アヤメの能力から生まれた人格を取り除くすべはなく、元の人格が戻ってくることもないらしい。
 まあどのみち、元の人格は今中にいるものよりも数段上の人格破綻者らしい、だから別段同情するようなこともない。とはいっても少しぐらいは可哀想な気もする。それは僕がある意味人格破綻者だからだろうか……。
 誰かが人を傷つけただとか、傷つけられただとか、そんなことは遠い人間には関係ないということだ。誰も気にも留めないし、それによって誰かが損するということもない。それが当たり前だ。
 ましてや、自分とは違う世界に生きる人間に対して、共感できる人間などいない。
 だけど、僕にはそうは思えなかった。

「これも一つの結末ってやつか……」

 僕は何となくやるせなくなって、一人でつぶやいてみる。
 いつもなら、教室に一人なんて状況はありえないが、いつもより早く家を出た僕は教室にただ一人で、静寂を楽しんでいた。
 静寂の中にも音はあり、自然界にあふれる音や、生活音、人がいきづく音がたまに僕の耳に入ると生きているということが実感できた。
 しかし、そんな楽しい時間も長くは続かない。
 廊下の方から聞こえてくる足音に、僕は現実に引き戻された。
 昨日起こったことは現実だということを思いだしてしまったからだ。

「おはよう」

 宮下アヤメ、それが声の主がもつ名前だ。
 あれから色々あったけれど、アヤメは結局罪に問われることがなかった。それは証拠不十分だったということもあるが、先生が口添えしてくれたおかげらしい。

「おう……」

 僕は小さなあくびとともに、囁くように返事をした。
 アヤメは申し訳なさそうにうつむきながら、ちょうど僕の後ろの席に座った。
 何となく、申し訳ないことをしたと思った僕は、後ろを振り返り一つだけ質問を投げかけた。

「心ってどこにあると思う?」

 思えば、最初に彼女の口から出た言葉はこれだった。
 何も考えずに毎日を過ごしてきた僕にとっては、その質問だって他愛のない生活に訪れた他愛のない質問だとしか感じることができなかった。もう少し深く考えることができていたなら、彼女が無理をすることもなかったかもしれない。まあ仮定の話に過ぎないが、それでもちょっとは考えてしまう。
 もし、あの時僕がきちんと話を聞いていれば、宮下アヤメは人を傷つけることなんてなかったかもしれない。
 そう考えただけで、僕はいたたまれない気持ちでいっぱいになった。
「私は脳にあると思う」
 彼女は髪をかき分けながら、静かに口にした。
 だけどその答えは僕の答えとは違う。
「僕は違うと思う……」
「だったらどこにあるの?」
 僕の返答に、彼女は興味深そうに耳を傾けた。
 だからだろうか、僕は答えを口にするその瞬間まで、何となく深く緊張してしまった。

「――心はどこにでもあるのさ」

 自分でもキザだとはわかっている。だけど、それが僕がこの数日の中で感じたことだ。
「何それ……ずるい」
 彼女はほっぺたを膨らませて、僕の方から顔をそむけた。
 昨日までの宮下を見ていた僕にとっては、とても新鮮で、それでいて不自然さが取り払われたきれいな少女に見えた。

「ようこそFA保護部へ」

 新しい仲間を歓迎するとともに、これからのことを考えると、嫌いだった能力も仲間のために使えるのならば捨てたものではないと感じた。
 まだまだ、冷たい空気が肌にあたる教室で、僕は少しだけ自分の人生が好きになれたような気がする。これは嘘ではない僕の力がそう言っている。
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