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4 相違
宮下
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家の中に入ってみると、違和感など大した問題ではなかったということを思い知らされた。というのも彼女の家にはものというものが一切ないどころか、靴すらも一足あるだけで、ほかの家族の気配などみじんも感じられない。ここにあるのは異様な空気とでも言うのだろうか、暮らしの形跡が一切感じられない。
一つの違和感を上げるなら薄暗い廊下の一番奥にあった扉にたたきつけられたままの板だろうか、釘で何重にも打ち付けられているが、それ以外はきれいなまま手付かずといったとこだ。
「質素なところでごめんなさい」
あたりをじろじろ見渡していた僕を気にしてか、宮下は少しだけ嫌そうな顔でそう言った。彼女がそんな表情をするのも当たり前だろう。自分の家をじろじろと見られていい気な人なんてそうはいないだろう。いるとしたら、よっぽどの自己顕示欲の塊か、家の内部に恥ずべきところがない人ぐらいだ。僕だって家の中は見られたくない。
まあそんなことはどうでもいい。
今重要なことは、ストーカー事件について話を聞くことだ。彼女が嘘をついていることがわかるかどうかということだ。それがわからないというのであれば、僕たちは一気に不利になる。宮下が犯人だとするならだが……。
「いいや、それより話を聞かせてもらってもいいかな?」
流石にこれ以上家の奥に入れてもらうというのもはばかられる。
玄関先まで入れてもらえたことを有難く思うのとはべつに、僕は彼女に対して疑いの目を向けなればならないことを少なからず悪いと思っているからこそ、今ここで話を聞きたい。
しかし、宮下はそうではないらしい。
「お茶も用意するから奥へどうぞ」
彼女は僕たちにさらに中へと入るようにジェスチャーする。
若干だが、僕はいやな予感がした。それは先輩も同じようで、中に入ることを少しためらっている様子だ。だが先生はそうでもない。
「ああ」
先生は二つ返事で靴を脱ぎ始めた。やはり、先生の中には生徒を疑うという心が一ミリたりともないのだろう。
実際のところ僕だってクラスメートを疑うのは快くない。むしろ気分が悪いといえるだろうが、それでも僕たちは仕事でここまで来たのだから怪しくなかろうと怪しまないというわけにはいかない。それに、僕はもともと彼女が犯人だと決めつけてここまで来たのだから心苦しかろうが、そうでなかろうが、最後まで責任を持って彼女を疑い続けなければならないのだ。
だからこそ、僕は靴を脱ぐときだって彼女から少しも目線を離さない。少しのまばたきすらしなかったかもしれない。目を離した隙に何をされるかわからないからだ。
「じゃあ、上がらせてもらうよ」
宮下に案内された先は客間なんていう大層な所ではない。いたって普通の家族が過ごすようなリビングだ。真ん中に机があり、その周りに椅子が4つ並んでいて僕たちはそこに座るように言われた。机と椅子以外にあるのはテレビぐらいで、飾りとかの置物も一切ない。
ここから見えるキッチンも収納の中はわからないけど、冷蔵庫も調理器具も見当たらない。ポットだけ置かれているのが逆に異様さを醸し出していた。
部屋は防音対策がされているのか、外からの音はまるで入ってこないが、それがさらに異質さを増していて不安になる。
先ほどから黙っている先輩は別としても、先生さえ今は静かにしていてそれがさらに僕の不安をあおる。
宮下が注ぐお茶の音が聞こえ始めたぐらいで、僕の緊張感は最高潮へと達した。だからこそ僕は彼女に声をかけようと思ったのだ。
「あの……」
だが言葉が出ない。声を出して気がついたが、下手なことを言って、相手を警戒させるというのは僕たちがもっとも避けなければならないことだ。
僕たちは探偵でも警察でもない。だからこそ、彼女から言葉を引き出すような話術も持ち合わせてはいない。
自分自身の力に頼って宮下アヤメから言葉ではなく、心を引き出さなければならないのだ。それだけに下手なことは言えない。
「どうしたの、皐月君。友達なんだから何でも遠慮せずに聞いてくれていいんだよ?」
「えっ……! あ、そうだね」
ちょうどお茶を持ってきた彼女の声に驚いて、しどろもどろになってしまったわけではない。
彼女は僕に対して嘘をついた。それが僕にはわかったということに驚いたのだ。
『彼女、宮下は僕のことを友達だとは思っていない』
それが事実であり、それ自体には驚くようなことなどなにもない。だってそうだろう? 誰だって少し親しいくらいのクラスメートと友達だと口にするのはおかしなことではないはずだ。それは友達のいない僕にだってわかることだ。
だからそのことはどうでもよかったし、やっぱり重要なのはつまらない嘘でも見破れたということに限る。これなら多少下手なことを言っても返事さえもらえれば答えは簡単に分かる。
「だったら、直接聞かせてもらうとするよ」
僕が真剣に彼女に向き合うと、彼女は茶化したように言う。
「そんな風に言われると何だか緊張するね」
彼女がみせた表情からわかるが、緊張しているというのが嘘だということは簡単に分かる。もちろんそれは彼女のついた嘘である。ちょっと無意味な嘘に対して過剰に反応することもないだろう。
僕は早速本題に入る。
「宮下は、僕たちの学校の生徒がストーカー被害にあったってことは知ってる?」
「ストーカー? うーん、そういえば先生がそんなことを言ってたような気がするね。それでそれがどうかしたの?」
彼女はさも今思い出したかのように言う。
もし本当に彼女が犯人だとするなら、彼女はものすごく頭が切れるのかもしれない。あくまで自分が知っているかどうかをぼやかして、聞いたような気がするぐらいのあいまいな言い方をされると、僕は嘘どうか見破ることは非常に困難だ。
あくまで僕の能力の中での話だが、嘘というのは確信をもって口にするからこそ嘘であって、『もしかしたら』くらいのニュアンスだと間違っていたとしても嘘にならない。
つまり僕の脳力では、彼女の頭には勝てないということだ。能力では負けているつもりはないし、実際に嘘を見破ることは出来るみたいだから、実際負けていない。だからこそ、ここから先は先輩に任せるのが吉だろうが……先ほどから先輩は一言も話さない。
礼を大事にしているのかもしれないが、僕はすでにお手上げ状態だ。僕が何を聞いたところでぬらりくらりと交わされることだろう。
それを何とか先輩に伝えるように目で合図する。
普段から合図を決めていれば別だが、僕たちはそこまで用意周到ではない。むしろこと今回に限っては準備不足が否めない。
それでも先輩は何とか察してくれたようだ。
一つの違和感を上げるなら薄暗い廊下の一番奥にあった扉にたたきつけられたままの板だろうか、釘で何重にも打ち付けられているが、それ以外はきれいなまま手付かずといったとこだ。
「質素なところでごめんなさい」
あたりをじろじろ見渡していた僕を気にしてか、宮下は少しだけ嫌そうな顔でそう言った。彼女がそんな表情をするのも当たり前だろう。自分の家をじろじろと見られていい気な人なんてそうはいないだろう。いるとしたら、よっぽどの自己顕示欲の塊か、家の内部に恥ずべきところがない人ぐらいだ。僕だって家の中は見られたくない。
まあそんなことはどうでもいい。
今重要なことは、ストーカー事件について話を聞くことだ。彼女が嘘をついていることがわかるかどうかということだ。それがわからないというのであれば、僕たちは一気に不利になる。宮下が犯人だとするならだが……。
「いいや、それより話を聞かせてもらってもいいかな?」
流石にこれ以上家の奥に入れてもらうというのもはばかられる。
玄関先まで入れてもらえたことを有難く思うのとはべつに、僕は彼女に対して疑いの目を向けなればならないことを少なからず悪いと思っているからこそ、今ここで話を聞きたい。
しかし、宮下はそうではないらしい。
「お茶も用意するから奥へどうぞ」
彼女は僕たちにさらに中へと入るようにジェスチャーする。
若干だが、僕はいやな予感がした。それは先輩も同じようで、中に入ることを少しためらっている様子だ。だが先生はそうでもない。
「ああ」
先生は二つ返事で靴を脱ぎ始めた。やはり、先生の中には生徒を疑うという心が一ミリたりともないのだろう。
実際のところ僕だってクラスメートを疑うのは快くない。むしろ気分が悪いといえるだろうが、それでも僕たちは仕事でここまで来たのだから怪しくなかろうと怪しまないというわけにはいかない。それに、僕はもともと彼女が犯人だと決めつけてここまで来たのだから心苦しかろうが、そうでなかろうが、最後まで責任を持って彼女を疑い続けなければならないのだ。
だからこそ、僕は靴を脱ぐときだって彼女から少しも目線を離さない。少しのまばたきすらしなかったかもしれない。目を離した隙に何をされるかわからないからだ。
「じゃあ、上がらせてもらうよ」
宮下に案内された先は客間なんていう大層な所ではない。いたって普通の家族が過ごすようなリビングだ。真ん中に机があり、その周りに椅子が4つ並んでいて僕たちはそこに座るように言われた。机と椅子以外にあるのはテレビぐらいで、飾りとかの置物も一切ない。
ここから見えるキッチンも収納の中はわからないけど、冷蔵庫も調理器具も見当たらない。ポットだけ置かれているのが逆に異様さを醸し出していた。
部屋は防音対策がされているのか、外からの音はまるで入ってこないが、それがさらに異質さを増していて不安になる。
先ほどから黙っている先輩は別としても、先生さえ今は静かにしていてそれがさらに僕の不安をあおる。
宮下が注ぐお茶の音が聞こえ始めたぐらいで、僕の緊張感は最高潮へと達した。だからこそ僕は彼女に声をかけようと思ったのだ。
「あの……」
だが言葉が出ない。声を出して気がついたが、下手なことを言って、相手を警戒させるというのは僕たちがもっとも避けなければならないことだ。
僕たちは探偵でも警察でもない。だからこそ、彼女から言葉を引き出すような話術も持ち合わせてはいない。
自分自身の力に頼って宮下アヤメから言葉ではなく、心を引き出さなければならないのだ。それだけに下手なことは言えない。
「どうしたの、皐月君。友達なんだから何でも遠慮せずに聞いてくれていいんだよ?」
「えっ……! あ、そうだね」
ちょうどお茶を持ってきた彼女の声に驚いて、しどろもどろになってしまったわけではない。
彼女は僕に対して嘘をついた。それが僕にはわかったということに驚いたのだ。
『彼女、宮下は僕のことを友達だとは思っていない』
それが事実であり、それ自体には驚くようなことなどなにもない。だってそうだろう? 誰だって少し親しいくらいのクラスメートと友達だと口にするのはおかしなことではないはずだ。それは友達のいない僕にだってわかることだ。
だからそのことはどうでもよかったし、やっぱり重要なのはつまらない嘘でも見破れたということに限る。これなら多少下手なことを言っても返事さえもらえれば答えは簡単に分かる。
「だったら、直接聞かせてもらうとするよ」
僕が真剣に彼女に向き合うと、彼女は茶化したように言う。
「そんな風に言われると何だか緊張するね」
彼女がみせた表情からわかるが、緊張しているというのが嘘だということは簡単に分かる。もちろんそれは彼女のついた嘘である。ちょっと無意味な嘘に対して過剰に反応することもないだろう。
僕は早速本題に入る。
「宮下は、僕たちの学校の生徒がストーカー被害にあったってことは知ってる?」
「ストーカー? うーん、そういえば先生がそんなことを言ってたような気がするね。それでそれがどうかしたの?」
彼女はさも今思い出したかのように言う。
もし本当に彼女が犯人だとするなら、彼女はものすごく頭が切れるのかもしれない。あくまで自分が知っているかどうかをぼやかして、聞いたような気がするぐらいのあいまいな言い方をされると、僕は嘘どうか見破ることは非常に困難だ。
あくまで僕の能力の中での話だが、嘘というのは確信をもって口にするからこそ嘘であって、『もしかしたら』くらいのニュアンスだと間違っていたとしても嘘にならない。
つまり僕の脳力では、彼女の頭には勝てないということだ。能力では負けているつもりはないし、実際に嘘を見破ることは出来るみたいだから、実際負けていない。だからこそ、ここから先は先輩に任せるのが吉だろうが……先ほどから先輩は一言も話さない。
礼を大事にしているのかもしれないが、僕はすでにお手上げ状態だ。僕が何を聞いたところでぬらりくらりと交わされることだろう。
それを何とか先輩に伝えるように目で合図する。
普段から合図を決めていれば別だが、僕たちはそこまで用意周到ではない。むしろこと今回に限っては準備不足が否めない。
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