先生と僕

１９

仲裁者

　意気消沈気味だった恋次れんじは再び、彩錦あかねにかみついた。
　２人の喧嘩？　は終わることなく続く。

　そんな中、１人だけ沈黙を決め込んでいる女性がいた。彩錦の姉である梓あずさだ。
　２人の喧嘩なんて意にも返さないようにじっと、特に何をするでもなく黙って椅子に座って２人を見つめている。
　正直なところ、僕は彼女のことが苦手なのだが、この状況を打破できるのは彼女だけで、彼女を動かすことが出来るのは蚊帳の外である僕だけだろう。
　僕は意を決して彼女に話しかける。

「あ、あのう……」

　彼女はゆっくりとこちらを見た。
　先日のことがあったからだろうか、僕はいつも以上に緊張していて息を飲んだ。

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。この前のことはあたしも言いすぎました……すみませんでした」

　彼女の口から出た予想外の言葉に、僕は動揺する。

「い、いえいえ。もとをたどれば僕が悪いんですから……謝るのはこちらの方ですよ。それより……」
「あの２人ですか？　喧嘩するほど仲が良いっていいますよね？」

　それはそうなのかもしれない。そもそも本当に仲が悪ければ、喧嘩なんてする気にもなれないだろうし……でも僕が言いたいのはそういう話ではない。

「止めなくていいんですか？」
「そうですね。無許可で使用している教室で騒いでいるのは問題ですしね」

　そう言うと梓は立ち上がり、喧嘩している２人の方へゆっくりと歩いていく。つもりだったのだろうが、そのまま躓いて喧嘩中の２人を巻き込んで盛大に転んだ。