先生と僕

１９

喧嘩

「変態って言う方が変態だ！」

　彩錦あかねの言葉を皮切りに……と言うよりも、恋次れんじの返しを皮切りに二人の言い争いが始まった。

「私が先輩より変態なわけないじゃないですか？　人のこといやらしい目で見るし」

　いやらしい目で見られるほど、発達した体系じゃないと思うけどな……なんてことは思っても口にしてはいけない。僕も一応は常識をわきまえている。

「お前をどう見たらいやらしい目で見られるんだよ……僕は先生のようなグラマラスな体系が好きなんだ！」

　恋次はそんな常識すら学んでこなかったのだろう。そう考えると、先輩は現代社会の被害者だ。僕なら口が裂けても言えないことをあたりまえに言ってのける。そこにしびれも憧れもしないけど。
　当然のことだけど先輩は彩錦に思いっきり殴られた。人間の頬って殴られるとあんな音がするんだって、ほんの少しだけ勉強になった。

「お前なぁ！」
「うるさいですよ……人の下着を見て鼻血を流す人は黙っててもらえますか？」

　予期せず始まった喧嘩であったが、結果は悩む必要すらないぐらいに彩錦の圧勝であった。
　そして僕がさっき口にしたことはなんか知らない間にうやむやになった。ただ、下着を見たという言葉は聞き捨てならない言葉だ。そこに僕が口を挟む余地はないけど。