先生と僕

２

正式

「『さま』はやめてくれ」
　今ですら、頭のネジが外れてるなんて言われているのに、後輩に『さま』づけさせてるなんて思われたら、学生生活は灰色だ。いや先生がいたら灰色でもないけど、なんか一生友達が出来ない気がする。

「だったら、仕方ないです。恋次れんじ先輩……妥協しましょう。ですので私を正式な部員に格上げしてください！」
　今度は土下座までする彩錦あかねだ。
　僕に謝ったことも、それが目的だったということなんだろうけど、なんというか、いっそのことすがすがしいな。
　ちょうどそんなタイミングで、部室の外を別の部活女生徒達が通りかかる。
　ドアが全開のままだったから、彼女たちの顔ははっきり見えた。明らかにドン引きしている顔だった。

「何あれ？　後輩に土下座さしてたよ……」
「あの人あれでしょ？　頭のネジが外れてるって噂の」
「マジ！？　女の子に土下座させるなんてマジで引くんだけど」

　楽しそうな彼女たちの声が、静かな部室に響き渡る。
　これで、僕は『後輩の女の子に土下座させる奴』という称号を手に入れたわけだ。そのあともどんどん部活棟を訪れた生徒たちが、部室の前を通りがかる。
「わかった！　わかったからやめてくれぇ～！！　いいですよね、先生！」
「まあ、私にべたべたしないのなら別にかまわないけど……」
「しませんよ」
「なら、いいよ。入部届を出してくれたら正式に入部を認めてあげる」
　一体何なんだこの茶番は……。僕だけが損している気がする。