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11 魔法の言葉

167 決意

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 ◇ 


「大分感覚をつかんできたな……」

 体内での魔力のコントロールは、どんな場所に居たって出来る。
 だから僕は、ケントニスとの訓練が終わった後も自室に戻って訓練を続けて、それを数日間続けた。その甲斐も会って、魔力の放出もずいぶんと絞れるようになり、1度しか放てなかった魔法も今では2度放っても問題ないぐらいには成長した。
 だからたぶん、魔法の訓練は何の問題もないんだと思う。
 問題は――

「メリーとどう話そう……」

 まだメリーと話張っていないことだろう。
 家族と真剣に話すなんてことをこれまでの人生でしてこなかった僕にとって、これはとてつもなく大きな問題だ。きちんと話し合えるだろうか……ものすごく不安だ。
 しかし、時間とは残酷なもので、メリーが仕事を終えて戻ってくる時間は刻一刻と迫っている。むしろもう戻ってきてもおかしくない時間だ。
 よくよく考えれば、僕は妹に働かせておいて、自分は好きなことをしているヒモの様な兄だ。妹を守ってやるなんて言っておいて、ずいぶんと情けない。
 僕はベッドに静かに座り込む。
 こんなメンタルでは、魔力のコントロールもうまくいかない。早くメリーと話し合うべきだろう。

「兄ちゃん……」

 突然の声に驚き、僕は声のする方を向く。
 いつの間にかドアが開いて、その前にメリーが立っていた。

「メリー……」

 いつも同じ部屋で寝食を共にいてきたが、いざ真剣に話をするとなると、とても緊張する。
 メリーも僕と同じようで、どこかそわそわとした態度を隠せていない。
 そのまま、無言のまま少しの時が流れる。兄である僕の方から話を切り出すのは当然のことだ。それは分かっているのだが、どうしても第一声が出ない。

「兄ちゃん、私……」

 ずっと黙り込んでいる僕に気を使ってか、メリーはそうぽつりと話し始めた。

「私ね。勇者として世界を救いたい……ううん。勇者としてじゃなくても、困っている人を助けたい!」

 力強く、そして優しい言葉だ。
 僕はずっとメリーを守っているつもりだった。妹の将来を考えて世界を自分に都合の方向へと世界を動かすつもりだった。
 自分の目的が達成不可能だと知って、目的を果たせなくなった新たな目的となったのが、『妹のために、犬種が生きやすい世界を作る』と言うものだ。だけどそれは、生きる目的を失った僕の自己満足にすぎない。それを今になって強く思い知らされることになる。
 妹の望みは、僕の願望とは違う。そんなことは当然だ。だけど、僕はそれを知ろうともなかった。
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