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11 魔法の言葉

150 恐怖

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「話しはそろそろ終わりよ。魔法は知識も重要だけど、それ以上に実践が重要なんだから」

 なんてケントニスが言うが、正直なところ、魔法をどうやって使うのかについては一切話を聞いていないことに僕は気が付いた。
 確かに実践は重要だけど、知識も重要なはずだ。

「あのう……」
「なに?」

 僕の声に対してぶっきらぼうな風にケントニスは返答する。
 今日はずっと彼女に対して恐怖を感じていたが、この時は、これまで以上に強い恐怖を感じた。畏れにも近いかもしれない。自分とは違う存在と邂逅した時の様なそんな感情を抱いた。
 それで僕は思わず声が詰まる。

「ま、まだ魔法の使い方について、願いを込めるという事以外聞いてないんですけど?」

 するとまたケントニスはその幼げな顔をさらにしかめる。
 僕は何か彼女を怒らせることを言っただろうか。いいや、別に普通のことを言っただけだ。

「言ったでしょ、『実戦』が重要だって!」

 ケントニスは両手で握りこぶしを作って、自身の顔の前に構えた。
 何とも見覚えのある光景だ。
 僕は思わぬ勘違いをしていた。彼女の口にした『実践』とは、つまり『実戦』をさしていたらしい。思い返せば、最初からそうだった。彼女に恐怖は抱いていたものの、まだ彼女の優しさを信じすぎていた。
 本当にイチゴはケントニスのどこを見て優しいと言ったのだろう。甚だ疑問だ。

「ちょっと、待ってくださいっ!!」

 そう口にしてみたものの、ケントニスが待ったに応じることなどありえない。それは、短くとも長い訓練期間の内に学んだ少ない事の一つだ。
 ケントニスは僕の言葉に耳を傾けることもなく、目にも留まらぬ速さで僕の懐に入る。
 あれだけ魔法の話をしておいて、今回の実戦においても肉体の強化以外は行わないつもりらしい。これでどうやって魔法について学べと言うのだろう。

「待ってくださいって!」

 僕は足に魔力を集中させる。だが恐怖の感情があまりにも強すぎて、うまく足に魔力が集まらない。
 このままじゃ、またいつものように吹き飛ばされて気絶して終わりだ。
 そんなことを考えている間にも、ケントニスの拳は少しずつではあるが僕のみぞおちに近づいてきている。駄目だ……もう終わりだ!

『また諦めるのか?』

 その瞬間、どこかで聞いたことがある声が頭の中で響いた。
 その声と共に、抑えていた恐怖が一気に膨れ上がる。

『やはり、お前は出来損ないだ……我が一族の恥だ。大学にすら入学することが出来ないなんてな』

 ちがう、僕は大学には入学できた。

『お前の入学する場所は大学を名乗れるものではない。所詮、お前は木偶の坊だ』

 そうやっていつも人のことを馬鹿にする。
 だから僕は……父さん、あんたのことが嫌いだった。それを思い出した瞬間に、僕の頭の中で走馬灯が流れ始める――

「――いつも投げ出してばかりなお前が、逃げ癖を治すいい機会だとは思わないのか?」

 父は一瞬たりともこちらを見ることもなく、ずっと手元の資料を見つめながら僕に問いかける。
 いつも何を考えているのかわからない父だが、今回ばかりはその心の内が透けて見えるような気がした。たぶん、父は僕が二流大学に入ることを認めたくないのだろう。一族の恥だと。それもそのはずで、祖父も父も兄も姉も世界でもトップクラスのセンター大学に入学し、そしてMBAを取得している。
 歳の離れた僕は、進学校に入学しながらも落ちこぼれて授業についていけない始末だった。そんな僕が恥ずかしいのだろう。

「浪人しても、センター大学に行けるだけの実力はありません」

 僕の様な凡才が、天才の集う大学に入学することはおろか、万が一、入学できたとしても講義についていくことすら出来ないだろう。
 それを父は理解していない。天才は凡才の苦悩に気が付かない。

「そうか、だったらこれ以上は何も言わん。だがな、私に逆らうわけだ。大学を卒業した後のことは自分で何とかするんだな!」

 手に持っていた資料を机にたたきつけて、僕から顔をそむける。しかしやはり一切僕の顔を見ることはない。
 やっぱり、僕は父が苦手だ。恐ろしい、恐怖の対象だ。父の前に立つだけで手は震えるし、これはどこか上ずってしまう。思わず、父の言葉がすべて正しいと感じてしまう程に脳が硬直してしまう。

「分かっています……」

 だが今思えは、大学を卒業した後、父のもとを離れるというのは当然のことだ。それは罰になり得ない。
 それなのに、父がそれをあたかも罰のように口にしたのはどういう意図があったのだろうか……転生してしまった今となっては分からないことだ。
 
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