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10 伝説の魔法
116 才能と使い方15
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「それはダメだ……」
メリーの道はメリーのものだ。
それは僕の夢、計画がとん挫しようとも変わらない。いいや、むしろ僕の夢のために犠牲になっていいものではない。僕の親友が僕を守ってくれたように、僕は妹を守らなければならない。それが僕に出来る唯一の恩返しなのだから。
視線をゆっくりとケントニスの方に向ける。
妹を人質に取られたようなものなのだから、普通なら怒り狂いたくなっても仕方がないはずなのに、不思議と怒りは湧いてこない。むしろ、何か力が体の奥底からあふれてくるようなそんな感じだ。今までに何ほどに集中力が高まって、ケントニスが次にどう動くかがわかるような気がした。
次に彼女は口角を少しだけ上げて、そしてこちらに飛び出してくるだろう。
そう頭が警告した時、それと全く同じことが起きた。
それに対応すべく、僕の体は僕の意識よりも早く行動を開始する。
伸びる彼女の右腕を軽く紙一重でかわし、そして間髪入れずに襲いくる左手の一撃を右手でつかむ。その間が一体どれぐらいの時間だったのかはわからないが、非常に長い時間だったようにも感じられる。
そして再び彼女が笑う。
「魔力の循環を高めるのは、怒りでも悲しみでもなく。愛なんだよ」
実際にそう彼女が口にしたのかどうかは分からないが、確かにそう頭の中に声が響き渡った。
愛というものが、人の精神に力を与えるというのはどこかで聞いたことがある。愛ゆえに人は戦い、愛ゆえに人は勝利を収めてきた。だがそれは、あくまで人間の中に流れている博愛の心によるものではなく、もっとエゴ的なものによる欲望の産物だと僕は考えてきた。
人類は金を欲を愛し、そして人を愛してきたが故に世界を救い、そして他の生命をおろそかにしてきた。それ故に結果として人類は絶滅してしまったのだと考えてきた。でもそれは違ったのかもしれない。
愛で世界が滅びることはない……そう言い切ることは出来ないが、愛が人類を滅亡させたわけではないのかもしれない。
出来るだけ集中を解くために、僕はそんな余計なことをひたすらに考え続けた。
時間はかかったが、体が自由を取り戻し、そしてその途端に体中の力が抜ける。
「これが『気づき』ですか?」
そう口にしたつもりだったが、自分で出そうと思った声量を遥かに下回り、かすれた声で人の耳に聞こえるかどうか微妙な程度の声しか出なかった。
だがやはり、ケントニスも獣人であるのだろう。そんな小さな声ですら聞き逃すことはない。
「もちろん。でもそれは数多ある『気づき』の一つでしかない。それに、やっぱり集中力が高まりすぎてもいいことはなかったでしょう?」
「はい。一気に疲れました」
「緊張の糸が切れたんだろうね……でもまさか、二発目も止められるとは思ってなかったから驚いたよ」
そうくすくすと笑って、そして「さっきはごめんね」と彼女は謝罪する。
おそらく、妹を協会に売るという話のことだろう。僕は何となくそれを冗談だと思っていたので、別段起こる気にもなれなかったが、彼女の意外と律儀らしい。
「獣人って言うのは変な生き物で、魔物のように愛を直情的に訴えることも出来ないし、集中しようと思えば思う程に集中できない生き物なんだ。もしかしたら、旧人類の性質を運悪く……いいや、運よく引き継いでしまったのかもしれないね」
『運よく』と言いなおした彼女の言葉には、どこかはかなげさを感じさせるものがあったが、それ以上に気になることもある。
「ケントニスさんも人間を?」
「うん、魔力の根源は旧人類、つまるとこの『人間』に由来しているからね……もちろん調べたさ。ネコのばあ様にも色々教えてもらったしね」
やっぱり、この世界は人間が滅亡した後の世界なんだ。
ケントニスは女神の存在も知っているし、もしかしたら、僕と同じ転生者なのかもしれない。そんな考えが浮かんだが、リグダミスの件もあるので今はそれを口にしないことにした。
しかし、もし仮にこの世界が僕がいた世界の果てしないぐらいの未来だとするなら、どうして女神は異世界だなんて嘘を吐いたのだろう。その点がよくわからない。
そんなことを考えていると、ケントニスが思考を邪魔するように僕の肩を何度かたたく。
「まま、余計なことは考えずに修業を続けようよ。せっかくいいところなんだからさ……」
「え、いや、でも……もう魔力を操れるだけの集中力が……」
「魔物だって、獣人だって……敵は君がどんな状況であったとしても待ってはくれないよ? むしろ、虫の息の時にこそ殺してやろうって、そう考えるとは思わない?」
確かにその通りだし、僕だってそう思うのだが……実のところ、さっき彼女の攻撃を受け止めた右手がちぎれんばかりに悲鳴を上げている。それだけで、もはや集中力を高めるなんてことは不可能に近い。でもそれを口にしたところで、『戦いに痛みはつきものだし、攻撃されただけで戦えなくならなくなるように修行するべきじゃない?』とかなんとか言って、やっぱり修行に持ち込まれることだろう。
つまり、今の時点ですでに僕は詰んでいるという事だ。
メリーの道はメリーのものだ。
それは僕の夢、計画がとん挫しようとも変わらない。いいや、むしろ僕の夢のために犠牲になっていいものではない。僕の親友が僕を守ってくれたように、僕は妹を守らなければならない。それが僕に出来る唯一の恩返しなのだから。
視線をゆっくりとケントニスの方に向ける。
妹を人質に取られたようなものなのだから、普通なら怒り狂いたくなっても仕方がないはずなのに、不思議と怒りは湧いてこない。むしろ、何か力が体の奥底からあふれてくるようなそんな感じだ。今までに何ほどに集中力が高まって、ケントニスが次にどう動くかがわかるような気がした。
次に彼女は口角を少しだけ上げて、そしてこちらに飛び出してくるだろう。
そう頭が警告した時、それと全く同じことが起きた。
それに対応すべく、僕の体は僕の意識よりも早く行動を開始する。
伸びる彼女の右腕を軽く紙一重でかわし、そして間髪入れずに襲いくる左手の一撃を右手でつかむ。その間が一体どれぐらいの時間だったのかはわからないが、非常に長い時間だったようにも感じられる。
そして再び彼女が笑う。
「魔力の循環を高めるのは、怒りでも悲しみでもなく。愛なんだよ」
実際にそう彼女が口にしたのかどうかは分からないが、確かにそう頭の中に声が響き渡った。
愛というものが、人の精神に力を与えるというのはどこかで聞いたことがある。愛ゆえに人は戦い、愛ゆえに人は勝利を収めてきた。だがそれは、あくまで人間の中に流れている博愛の心によるものではなく、もっとエゴ的なものによる欲望の産物だと僕は考えてきた。
人類は金を欲を愛し、そして人を愛してきたが故に世界を救い、そして他の生命をおろそかにしてきた。それ故に結果として人類は絶滅してしまったのだと考えてきた。でもそれは違ったのかもしれない。
愛で世界が滅びることはない……そう言い切ることは出来ないが、愛が人類を滅亡させたわけではないのかもしれない。
出来るだけ集中を解くために、僕はそんな余計なことをひたすらに考え続けた。
時間はかかったが、体が自由を取り戻し、そしてその途端に体中の力が抜ける。
「これが『気づき』ですか?」
そう口にしたつもりだったが、自分で出そうと思った声量を遥かに下回り、かすれた声で人の耳に聞こえるかどうか微妙な程度の声しか出なかった。
だがやはり、ケントニスも獣人であるのだろう。そんな小さな声ですら聞き逃すことはない。
「もちろん。でもそれは数多ある『気づき』の一つでしかない。それに、やっぱり集中力が高まりすぎてもいいことはなかったでしょう?」
「はい。一気に疲れました」
「緊張の糸が切れたんだろうね……でもまさか、二発目も止められるとは思ってなかったから驚いたよ」
そうくすくすと笑って、そして「さっきはごめんね」と彼女は謝罪する。
おそらく、妹を協会に売るという話のことだろう。僕は何となくそれを冗談だと思っていたので、別段起こる気にもなれなかったが、彼女の意外と律儀らしい。
「獣人って言うのは変な生き物で、魔物のように愛を直情的に訴えることも出来ないし、集中しようと思えば思う程に集中できない生き物なんだ。もしかしたら、旧人類の性質を運悪く……いいや、運よく引き継いでしまったのかもしれないね」
『運よく』と言いなおした彼女の言葉には、どこかはかなげさを感じさせるものがあったが、それ以上に気になることもある。
「ケントニスさんも人間を?」
「うん、魔力の根源は旧人類、つまるとこの『人間』に由来しているからね……もちろん調べたさ。ネコのばあ様にも色々教えてもらったしね」
やっぱり、この世界は人間が滅亡した後の世界なんだ。
ケントニスは女神の存在も知っているし、もしかしたら、僕と同じ転生者なのかもしれない。そんな考えが浮かんだが、リグダミスの件もあるので今はそれを口にしないことにした。
しかし、もし仮にこの世界が僕がいた世界の果てしないぐらいの未来だとするなら、どうして女神は異世界だなんて嘘を吐いたのだろう。その点がよくわからない。
そんなことを考えていると、ケントニスが思考を邪魔するように僕の肩を何度かたたく。
「まま、余計なことは考えずに修業を続けようよ。せっかくいいところなんだからさ……」
「え、いや、でも……もう魔力を操れるだけの集中力が……」
「魔物だって、獣人だって……敵は君がどんな状況であったとしても待ってはくれないよ? むしろ、虫の息の時にこそ殺してやろうって、そう考えるとは思わない?」
確かにその通りだし、僕だってそう思うのだが……実のところ、さっき彼女の攻撃を受け止めた右手がちぎれんばかりに悲鳴を上げている。それだけで、もはや集中力を高めるなんてことは不可能に近い。でもそれを口にしたところで、『戦いに痛みはつきものだし、攻撃されただけで戦えなくならなくなるように修行するべきじゃない?』とかなんとか言って、やっぱり修行に持ち込まれることだろう。
つまり、今の時点ですでに僕は詰んでいるという事だ。
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