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10 伝説の魔法
113 才能と使い方12
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「君はおそらく勘違いしているんだろうけど、全ての武器の使い方がわかるってことは、全ての武器を使いこなせるって意味ではないんだよ?」
彼女は得意げな表情でそういう。
僕はというと、彼女の言葉の意味を理解は出来ても納得は出来そうにない。確かに今は使いこなせなかったとしても、使い方を理解できればそのうちに使いこなせるようになるはずだと心の中では思いながらも、一応は教えてもらう立場であることをわきまえて表面上は話を聞くことにする。
「は、はあ……」
しかし、その返事がよくなかったのだろう。僕が納得していないという事を瞬時に見抜かれることとなる。
「いいよ……本当はこんなことを口で説明してもしょうがないんだけど、納得していないようだから説明してあげる」
「ありがとうございます」
なんだかよくわからないが、僕は彼女の少しだけストレスを抱えたような表情に対して空気を読んでお礼の言葉を述べてみる。
「よろしい。それじゃあひとまずね、君がどうして魔力を武器として使おうと考えたのかを教えてもらってもいいかな?」
彼女の問いかけに僕は少しだけ頭をひねらせる。
「えーっと……」なんて頭を抱えて昔のことを思いだそうというそぶりだけを見せてはみたが、正直な話、特に理由はない。よくよく考えてみれば、僕はどうして剣とか銃とかを使わなかったのだろう。しかし、それは考えてもみれば当たり前の理由だった。
「わかったでしょう。獣人にとって武器なんて、五体で十分なのよ! わざわざ重い武具を抱えるなんて、自らの利点を捨てるのと同じ……それこそハンデに他ならないわ!」
「ではどうして武器なんて存在しているんですか?」
「それは獣人によっては、その五体の力を引き出すものもあるからよ。例えるなら、君の相棒はかなり視力・聴力が共に優れていて、それを利用して狙撃をしている。でも君は……犬種はそれほど視力に優れてはいないでしょ? 狙撃なんてできっこない。剣は使えないことはないけど、でも君の体格からして扱えるほどの才能はないでしょうね……」
「つまり、僕には使う能力はあっても、使いこなす能力がないと?」
「平たく言えばそう言う事ね。女神も弱い犬種のことを理解できていなかったから、そんな能力を素晴らしいものだと思って君に与えたんでしょうね。やはり神という存在は、驚くほどに世間知らずで恐ろしいほどに滑稽な存在ね」
彼女の言葉を簡単にまとめると、つまりはこういうことだ。『僕の能力はチートでも何でもない。』と。普通の人間(獣人)ならここでがっくりと肩を落とすところだろうが、僕にとってこれほどまでにうれしいことはない。望まない能力を与えられなかったという事なのだから。しかし、しかしだ。それは同時に、女神様が約束してくれた犬に囲まれた生活と言うのが、守られない可能性が出てきてしまったという事に気が付いた。
女神様が世間知らずで愚か者だとすれば、この世界に犬が存在していなくて、そしてそれを知らなかったとしてもおかしい話ではない。
もしや、僕が発見できていないだけではなく、実際にこの世界には犬が存在していないとなると、僕の第二の人生における計画は破綻する。犬がいないのであれば、僕は妹以外にはこの世界には大切にするべき存在がいないことになり、そして、そうであるならば、妹だけは絶対に守らなければならないし、妹のためであればどんな無謀な戦いにも挑まなければならない。
そのことを踏まえて、今のこの状況は最後の希望でもある。妹を守るためには、僕は死を乗り越えなければならない。死を乗り越えるとは、死ぬための覚悟を決めるという意味ではなく、死なないための努力を重ねるという事だ。
「つまり、僕は妹のために少ない才能を伸ばさなければならないという事ですか?」
「そうだ。君という存在は、かつて、才能がまるでないと言われた私よりも遥かに才能がない存在だ。女神から与えられた力は才能とは言い難いが、さっきの武器の話と同じように、君の五体……いいや、第六の力を引き出すためのきっかけではある。才能をつかむチャンスともいえるわけだ。そして、私がそのチャンスを確実な物にしてやろうと……そう言っているんだよ? なのに、君はただ死ねばいいと思っている。確かに死が救済になることもあるだろうが、今回はそうじゃない。君にとってはそうじゃない。それとも、私の勘違いで、君にとってはそうなのかな?」
「違います。僕は妹の未来を妹の手で決めてほしい……でも僕が死ねばその願いはかなわない。だから……僕は死なないための……生きて行くための力が欲しい!」
誰かのために努力するなんて馬鹿らしいと思っていた。
親が言うから、教師が『そう』言ったから『そう』しなければならない。そんなことだけを考えて、最後には自分の意志すら持たずに、『誰かのため』に何かをすることもなく生きて行くと信じていた。でも、僕の友達が教えてくれた。誰かのために生きるという意味を……選択を誤るという事の意味を教えてくれた。
次は、僕が誰かに返す番だ。『彼』から与えられた愛を誰かに返す番だ。そして、僕はその『愛』をこっちの世界での唯一の家族であるメリーに返したい。もちろん、メリーが僕の妹だからというだけではない。メリーからも『彼』と同じぐらいに色々なことを与えてもらったからだ。だからこそ、僕はここで、この場所で彼らに恩を返す力をつけなければならない。
彼女は得意げな表情でそういう。
僕はというと、彼女の言葉の意味を理解は出来ても納得は出来そうにない。確かに今は使いこなせなかったとしても、使い方を理解できればそのうちに使いこなせるようになるはずだと心の中では思いながらも、一応は教えてもらう立場であることをわきまえて表面上は話を聞くことにする。
「は、はあ……」
しかし、その返事がよくなかったのだろう。僕が納得していないという事を瞬時に見抜かれることとなる。
「いいよ……本当はこんなことを口で説明してもしょうがないんだけど、納得していないようだから説明してあげる」
「ありがとうございます」
なんだかよくわからないが、僕は彼女の少しだけストレスを抱えたような表情に対して空気を読んでお礼の言葉を述べてみる。
「よろしい。それじゃあひとまずね、君がどうして魔力を武器として使おうと考えたのかを教えてもらってもいいかな?」
彼女の問いかけに僕は少しだけ頭をひねらせる。
「えーっと……」なんて頭を抱えて昔のことを思いだそうというそぶりだけを見せてはみたが、正直な話、特に理由はない。よくよく考えてみれば、僕はどうして剣とか銃とかを使わなかったのだろう。しかし、それは考えてもみれば当たり前の理由だった。
「わかったでしょう。獣人にとって武器なんて、五体で十分なのよ! わざわざ重い武具を抱えるなんて、自らの利点を捨てるのと同じ……それこそハンデに他ならないわ!」
「ではどうして武器なんて存在しているんですか?」
「それは獣人によっては、その五体の力を引き出すものもあるからよ。例えるなら、君の相棒はかなり視力・聴力が共に優れていて、それを利用して狙撃をしている。でも君は……犬種はそれほど視力に優れてはいないでしょ? 狙撃なんてできっこない。剣は使えないことはないけど、でも君の体格からして扱えるほどの才能はないでしょうね……」
「つまり、僕には使う能力はあっても、使いこなす能力がないと?」
「平たく言えばそう言う事ね。女神も弱い犬種のことを理解できていなかったから、そんな能力を素晴らしいものだと思って君に与えたんでしょうね。やはり神という存在は、驚くほどに世間知らずで恐ろしいほどに滑稽な存在ね」
彼女の言葉を簡単にまとめると、つまりはこういうことだ。『僕の能力はチートでも何でもない。』と。普通の人間(獣人)ならここでがっくりと肩を落とすところだろうが、僕にとってこれほどまでにうれしいことはない。望まない能力を与えられなかったという事なのだから。しかし、しかしだ。それは同時に、女神様が約束してくれた犬に囲まれた生活と言うのが、守られない可能性が出てきてしまったという事に気が付いた。
女神様が世間知らずで愚か者だとすれば、この世界に犬が存在していなくて、そしてそれを知らなかったとしてもおかしい話ではない。
もしや、僕が発見できていないだけではなく、実際にこの世界には犬が存在していないとなると、僕の第二の人生における計画は破綻する。犬がいないのであれば、僕は妹以外にはこの世界には大切にするべき存在がいないことになり、そして、そうであるならば、妹だけは絶対に守らなければならないし、妹のためであればどんな無謀な戦いにも挑まなければならない。
そのことを踏まえて、今のこの状況は最後の希望でもある。妹を守るためには、僕は死を乗り越えなければならない。死を乗り越えるとは、死ぬための覚悟を決めるという意味ではなく、死なないための努力を重ねるという事だ。
「つまり、僕は妹のために少ない才能を伸ばさなければならないという事ですか?」
「そうだ。君という存在は、かつて、才能がまるでないと言われた私よりも遥かに才能がない存在だ。女神から与えられた力は才能とは言い難いが、さっきの武器の話と同じように、君の五体……いいや、第六の力を引き出すためのきっかけではある。才能をつかむチャンスともいえるわけだ。そして、私がそのチャンスを確実な物にしてやろうと……そう言っているんだよ? なのに、君はただ死ねばいいと思っている。確かに死が救済になることもあるだろうが、今回はそうじゃない。君にとってはそうじゃない。それとも、私の勘違いで、君にとってはそうなのかな?」
「違います。僕は妹の未来を妹の手で決めてほしい……でも僕が死ねばその願いはかなわない。だから……僕は死なないための……生きて行くための力が欲しい!」
誰かのために努力するなんて馬鹿らしいと思っていた。
親が言うから、教師が『そう』言ったから『そう』しなければならない。そんなことだけを考えて、最後には自分の意志すら持たずに、『誰かのため』に何かをすることもなく生きて行くと信じていた。でも、僕の友達が教えてくれた。誰かのために生きるという意味を……選択を誤るという事の意味を教えてくれた。
次は、僕が誰かに返す番だ。『彼』から与えられた愛を誰かに返す番だ。そして、僕はその『愛』をこっちの世界での唯一の家族であるメリーに返したい。もちろん、メリーが僕の妹だからというだけではない。メリーからも『彼』と同じぐらいに色々なことを与えてもらったからだ。だからこそ、僕はここで、この場所で彼らに恩を返す力をつけなければならない。
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