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10 伝説の魔法

112 才能と使い方11

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 しかし、死が僕のもとに訪れることはなかった。

「寸止め……?」

 ケントニスの拳は、かなり弱弱しく僕にぶつかって止まったらしい。
 ぶつかった感覚すらほとんどないほどだ。

「追い込まれた君になら出来るはずだった……君の限界を超えた魔力コントロール。でもやっぱり君は途中で集中力をとぎらせた。守るべき者のために戦いを放棄したんだ。そうさせるほどの家族愛。だけどそのために家族を危険にさらした……体では理解できていも、心はそれを理解できていない。だから」
「そんなこと――」

『――ありませんよ』とは口に出来ない。
 現に、僕は何度も妹のために死にかけた。
 妹を守るということを優先して、戦うことを放棄したことも事実だ。前世で得られなかった家族愛と言うやつに足を引っ張られているのも事実だ。
 そして、その『家族愛』によって命を捨てようとした。
 愛する者を生かすために自分の命を捨てて、その先に何が待っているのかを深く考えようともしなかった。

「君が死ねば……君の妹は勇者になるしかなくなる。世界に……国に命をささげる存在になるという事だ。その果てに何が待っているか君にわかるか?」

 ケントニスに言われてようやく気が付いた。
 勇者は家族や大切な人だけではなく、獣人という種族そのもののために命を懸けなければならない。そしてその結果が、今回起こった勇者アルタの大怪我だ。
 アルタは僕という他人を救って、結果として大怪我を負うことになった。

「僕が強くならないと……」

 誰も救えない。
 たった1人の家族さえも救うことは出来ない。
 ケントニスはそのことを僕に教えようとしていた。

「もし、私が君を殺すことをいとわない存在だったら……君は死んでいたかもしれない。たとえ防御が間に合っていたとしても大怪我を負っていたことだろう。それが厳しいようだが、冒険者の世界と言うものだよ。私が守るものを失ってやめて行った世界だ」
「……どなたか亡くなったんですか?」
「うん。私にとっては唯一の家族だった……私は見ての通り、体格にも恵まれていない。魔力だって、努力で何とかしているけれど、それほど持ち合わせていない。君のような鼻のよさだってないし、そもそも獣人としての特有の力を持っていない……そんな私に守れるものなんてなかったんだよ。妹を守る力なんてなかったんだよ」

 そうか、彼女も僕と同じで守る立場の獣人だったんだ。
 碌な才能も持ち合わせず、それでも守るべき存在のために持ち合わせた数少ない才能を頼りにして努力を重ねて天才と呼ばれるようにまで自分を高めた。

「あなたに比べると、僕は神から与えられたものを持っている分ぐらいはマシってことですね……」
 僕はもっと努力しなくちゃいけなかった。
 誰かに助けてもらうだけじゃなくて、もっと自分自身で努力を重ねなければならなかった。努力していたつも利で、僕は怠っていた。彼女に比べると僕の努力は努力と呼べるものですらなかったという事だ。
 感動した。彼女に修行してもらえてよかった。
 そう思っていた。この時までは。
「いやいや、それはないわ! 君が神とかいう意味不明な存在からもらった力って、武器の使い方がわかる恩恵だろ? むしろ、私よりも才能ないんだから、もっと努力しろって話をしているんだけど?」
「な、なるほど……」
 僕はあまりにも驚きすぎて返す言葉も出てこなかった。
 彼女のどこが優しいのかを教えてくださいイザベラさん。

 
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