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8 新たなる武器
77 実戦にて 7
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「さて、それで我から奪った魔力で、一体どれだけ耐えられるだろうな」
魔王は魔王らしくいやらしく笑う。
世界のことを考える魔王というのは笑いものだが、その力が向けられる対象が自分だとあまり笑ってもいられない。
「僕は世界なんてどうでもいい。利便さだってどうでもいいし……それは僕だけじゃないはずだ」
相手の攻撃に防戦一方な僕は、魔王の心に働きかけるほかないと考えて、苦しいながらも何とか言葉を発する。
「そうかもしれない……だがそんなことは分かりようがない。生物はいつも自分という個のためではなく、種のために自らの考えを覆す。人間が数多の生物を犠牲にし、増殖し続けてきたように……ほとんどの生物がそうしている。だが、頭がよくないが故にそれは限界を知る。だがどうだ? 人間に限界などあったか? そんなものは存在しなかった。人類の終わりを見てきた我だからこそそれを知る。貴様はどうだ? 人類の終わりを見て、それでも絶望しないと言い切れるのか? 無理だ。そうなれば、救いたいものは救いがたいものへと変わり、英雄もどきは怪物へと変わる。世界が……神が何を望もうが……個人が何を思おうが! ――世界は破滅へと向かう。絶望だ。新人類にはそれが理解できない。それが理解できるのは一度滅びたことがある旧人類だけだ……」
「滅びた? 旧人類……?」
奴は何を言っている。
まるで理解が追いつかない。どういうことだ。人類が滅びた? この世界には人間など存在していないはずだ。だが、人間という種族を知っている存在が奴以外にもいた。
神はなぜすべてを僕に話さなかった? 世界は何を隠している?
「お話は終わりだ。残念だが、そろそろ終わりの時を迎えるだろう。魔力は切れ、そして我の攻撃に耐え切れず貴様は死に至る。死は平等だ。誰にでも平等に訪れる。神にも……天使にも……魔王にも……誰だって死を止めることは出来ない。出来るのは受け入れることだけだ! さあ、受け入れるといい。大丈夫だ。お前の大好きな家族も……友人も……すべての犬種はお前のもとに送ってやる。それが私の使命だからな……それじゃあ救いがないか。いいだろう、お前たちの希望である勇者もお前たちのもとへと送ってやる。どうだ? これで世界は救われるだろう?」
「いきなり出てきて……」
「なんだ。まだ話したりないのか?」
「いきなりわけのわからない話をして……」
僕には何の関係のない話で殺されてたまるか。
「確かにお前にとってはわけのわからない話だろうが、罪というのは大体が本人のあずかり知らぬところで起きる。わけがわからなくても知る権利はあるが、それを覆す権利はない」
「あるさ。獣人はみんな同じ獣人だ。種族が違うだとか……才能の善し悪しだとか……そんなものは関係ない。そんなことで滅ぶ世界があるのなら勝手に滅びたらいい。それは僕にも僕の家族にも関係のないことだ!」
さらに魔王の攻撃が熾烈になる
「関係ないだと? 確かにそうだ。だが、自分の家族が死んでも同じことが言えるのか? 自分の血筋が途絶える憂き目にあっても……それが他の誰かが未来を顧みなかったことによるものだと知ったとしても! お前はそれを仕方のない自分には関係のないことだと言い切ることが出来るのか!?」
「っぐ……! そんなことは知らない。未来の誰が何と言おうと、世界はいつか滅びる。それは今日かもしれないし、1万年も先のことかもしれない。誰だってそれは分からない。もしかしたら神にだってわからないのかもしれない。ただ一つだけは分かる。それは僕やお前が決めることじゃないってことは! 例え何度、世界が滅びようとも、人類が自らの手で終末を迎えようとも……それは運命だ。責任は誰にも押し付けることは出来ないし、背負うことも出来ない。お前がいくら努力して先延ばしにしようとも、そのためにどれだけ汚れようとも、結果は変わらないし、それがいい方に流れるのか、そうじゃないのかはわからない。もしかしたら、お前の言っていることは正しいのかもしれない……それでも。それでも――」
懐かしい気持ちだ。そういえば怒りってこういう物だった。魔王が妹の……家族の死を口にしてから、胸の奥底にあった何かが爆発的に体中に広がったような気がする。たぶん純粋な怒りだ。僕は僕の手で家族を守りたい。誰かに任せて、そいつが守れなかったからって責めるような男にはなりたくない。
「――守りたいものは自分の手で守る。それは誰かをおとしめてではなく、変えることによってだ。人類はどこまで行っても未熟だから、僕たちの手で導いていかなければならないんだ。起こすのは革命……革命は革命でも無血革命だ!」
僕は杖を強く握りしめる。その瞬間、頭の中に様々な情報が流れ込んできた。ようやく、神が杖を武器と認めたらしい。武器とは、何も相手を傷つけるためだけにあるわけじゃない。
「無血だと? 魔物を数多殺してきた冒険者がよく言う……自分の気に食わない者は殺して、自分と同じ意見の物だけを生かすというのなら、我と何が違う?」
「僕たちは違う。魔物だって……」
「違わぬさ! 殆どの魔物に意思はない。無秩序に生み出された旧人類の贈り物……機械のようなものなのだから! だが、生物ではある。意思のない生物……それを殺すことは生命に対する侮辱を晴らすのと同じだ。だからこそ、食料としては丁度いい。動物愛護なんて思想が生まれることは決してないからな! 問題なく殺すがいい。意思のない生命など無機物に過ぎないのだからっ!」
「いいや、僕たちが魔物を殺すのは生きるためだ。それは世界が人類を滅亡させるのと同じだろう?」
「同じではない……魔物は生きるため本能で動くが、獣人は……人類は利便性を求め感情で動く。そしてありもしない理想を掲げて全てを壊す。他の生命も、地球でさえも!」
「そうかもしれない……だけど、それがなんだって言うんだ!」
獣人が何を思って生きて行こうが、何にすがって生きて行こうが僕には関係ない。
人は――いいや人だけではなく、全ての生物がそれぞれ個々の思想を持ち、ここの思想のもと生きて死んで行く。その結果が人類の滅亡というのなら、それは避けるべきではない人間の総意だ。
「それを我が止めてやるというのだ!」
「それは傲慢だ!」
僕は体中からあふれてくる魔力を力に変えて、魔王の攻撃から逃れる。
「逃げることは出来ない。それが貴様の宿命なのだから!」
「気取ったことばかりッ!」
襲いくる拳を杖で受け止め、その力を吸収する。
魔王はほんの一瞬でそれに気がついて、距離をとる。目測で10メートルほどだろう。その衝撃を受けて地面から土煙が上がった。
「ふん! ならばこちらも武器を使うまでだ!」
そう言うと魔王は虚空に右手を伸ばす。まるで太陽でも掴み取るかのように。
僕はそれに気を取られて、魔王の速度に反応することが出来なかった。
「……っう!」
背中から右わき腹あたりに衝撃が走り、まばゆいばかりに光白い何かが僕の体を素通りした。しばらくしてからもう一度じっくりとみてみると、切っ先のとがった刃物であることは分かった。剣で貫かれたらしい。
僕は刺されたのか? いつ、どうやって? 魔王はいまだに目の前にいるのに……。
「集中力を切らせるからそういうことになる」
背後から聞こえたのは魔王の声だ。それが聞こえると同時に目の前の魔王が消えた。
「残像が残るほどの……こ、高速……移動」
二度も同じ手にかかってしまった。圧倒的な経験不足だ。実戦という経験があまりにも不足している。
「実のところ、貴様を殺す手段などいくらでもあった。とはいえ、あまり長話をして痛みを、恐怖をいたずらに引き伸ばしてやる必要もない。だから、今終わらせてやる。ゲームオーバーだ」
気のせいか、僕の体を貫いている剣が先ほどよりも眩く光る。
剣が体に触れているせいだろうか、その使い方が頭に流れ込んできた。どうやらそれは魔物の血を練り込まれているらしく、魔力をため込むことが出来る武器らしい。魔力の放出は出来ないが、それ故に魔力によって凄まじい切れ味を誇る。
ため込まれた魔力が多ければ多いほど、一刀両断出来るものが増える。僕の体に突き刺さったままの剣は、獣人ですらたやすく真っ二つに出来るしろものらしい。
たぶん、僕の命はもう間に合わない。魔王が剣を上下に振れば、それだけでたやすく死に至る。そう考えていた刹那、僕の肌に突風がぶつかる。ほんの一瞬だが、白い肌と白い毛が見えたような気がした。それが錯覚出なかったことが分かったのはその直後だった。
「不浄なものを使う……いかにも魔王らしいわね」
鉄と鉄がぶつかり合う音が鳴り響いたかと思えば、次の瞬間にはわき腹に激痛が走った。魔王によって上下に振られるはずだった剣は、外部からの力によって予想外の方向、右方向に弾き飛ばされ、僕の体を切り裂いて弾き飛ばされたらしい。その直後、耳に入ったのが聞き覚えのある女性の声で放たれたそんなセリフだった。
「勇者……」
ずっと無表情を保ってきた魔王が右手を抑えながら不快そうな声でつぶやいた。
激痛で地面に倒れ伏す僕が見たのは、かつて自分を救ってくれた勇者の姿、アルタ・ロットワイラーの姿だった。
魔王は魔王らしくいやらしく笑う。
世界のことを考える魔王というのは笑いものだが、その力が向けられる対象が自分だとあまり笑ってもいられない。
「僕は世界なんてどうでもいい。利便さだってどうでもいいし……それは僕だけじゃないはずだ」
相手の攻撃に防戦一方な僕は、魔王の心に働きかけるほかないと考えて、苦しいながらも何とか言葉を発する。
「そうかもしれない……だがそんなことは分かりようがない。生物はいつも自分という個のためではなく、種のために自らの考えを覆す。人間が数多の生物を犠牲にし、増殖し続けてきたように……ほとんどの生物がそうしている。だが、頭がよくないが故にそれは限界を知る。だがどうだ? 人間に限界などあったか? そんなものは存在しなかった。人類の終わりを見てきた我だからこそそれを知る。貴様はどうだ? 人類の終わりを見て、それでも絶望しないと言い切れるのか? 無理だ。そうなれば、救いたいものは救いがたいものへと変わり、英雄もどきは怪物へと変わる。世界が……神が何を望もうが……個人が何を思おうが! ――世界は破滅へと向かう。絶望だ。新人類にはそれが理解できない。それが理解できるのは一度滅びたことがある旧人類だけだ……」
「滅びた? 旧人類……?」
奴は何を言っている。
まるで理解が追いつかない。どういうことだ。人類が滅びた? この世界には人間など存在していないはずだ。だが、人間という種族を知っている存在が奴以外にもいた。
神はなぜすべてを僕に話さなかった? 世界は何を隠している?
「お話は終わりだ。残念だが、そろそろ終わりの時を迎えるだろう。魔力は切れ、そして我の攻撃に耐え切れず貴様は死に至る。死は平等だ。誰にでも平等に訪れる。神にも……天使にも……魔王にも……誰だって死を止めることは出来ない。出来るのは受け入れることだけだ! さあ、受け入れるといい。大丈夫だ。お前の大好きな家族も……友人も……すべての犬種はお前のもとに送ってやる。それが私の使命だからな……それじゃあ救いがないか。いいだろう、お前たちの希望である勇者もお前たちのもとへと送ってやる。どうだ? これで世界は救われるだろう?」
「いきなり出てきて……」
「なんだ。まだ話したりないのか?」
「いきなりわけのわからない話をして……」
僕には何の関係のない話で殺されてたまるか。
「確かにお前にとってはわけのわからない話だろうが、罪というのは大体が本人のあずかり知らぬところで起きる。わけがわからなくても知る権利はあるが、それを覆す権利はない」
「あるさ。獣人はみんな同じ獣人だ。種族が違うだとか……才能の善し悪しだとか……そんなものは関係ない。そんなことで滅ぶ世界があるのなら勝手に滅びたらいい。それは僕にも僕の家族にも関係のないことだ!」
さらに魔王の攻撃が熾烈になる
「関係ないだと? 確かにそうだ。だが、自分の家族が死んでも同じことが言えるのか? 自分の血筋が途絶える憂き目にあっても……それが他の誰かが未来を顧みなかったことによるものだと知ったとしても! お前はそれを仕方のない自分には関係のないことだと言い切ることが出来るのか!?」
「っぐ……! そんなことは知らない。未来の誰が何と言おうと、世界はいつか滅びる。それは今日かもしれないし、1万年も先のことかもしれない。誰だってそれは分からない。もしかしたら神にだってわからないのかもしれない。ただ一つだけは分かる。それは僕やお前が決めることじゃないってことは! 例え何度、世界が滅びようとも、人類が自らの手で終末を迎えようとも……それは運命だ。責任は誰にも押し付けることは出来ないし、背負うことも出来ない。お前がいくら努力して先延ばしにしようとも、そのためにどれだけ汚れようとも、結果は変わらないし、それがいい方に流れるのか、そうじゃないのかはわからない。もしかしたら、お前の言っていることは正しいのかもしれない……それでも。それでも――」
懐かしい気持ちだ。そういえば怒りってこういう物だった。魔王が妹の……家族の死を口にしてから、胸の奥底にあった何かが爆発的に体中に広がったような気がする。たぶん純粋な怒りだ。僕は僕の手で家族を守りたい。誰かに任せて、そいつが守れなかったからって責めるような男にはなりたくない。
「――守りたいものは自分の手で守る。それは誰かをおとしめてではなく、変えることによってだ。人類はどこまで行っても未熟だから、僕たちの手で導いていかなければならないんだ。起こすのは革命……革命は革命でも無血革命だ!」
僕は杖を強く握りしめる。その瞬間、頭の中に様々な情報が流れ込んできた。ようやく、神が杖を武器と認めたらしい。武器とは、何も相手を傷つけるためだけにあるわけじゃない。
「無血だと? 魔物を数多殺してきた冒険者がよく言う……自分の気に食わない者は殺して、自分と同じ意見の物だけを生かすというのなら、我と何が違う?」
「僕たちは違う。魔物だって……」
「違わぬさ! 殆どの魔物に意思はない。無秩序に生み出された旧人類の贈り物……機械のようなものなのだから! だが、生物ではある。意思のない生物……それを殺すことは生命に対する侮辱を晴らすのと同じだ。だからこそ、食料としては丁度いい。動物愛護なんて思想が生まれることは決してないからな! 問題なく殺すがいい。意思のない生命など無機物に過ぎないのだからっ!」
「いいや、僕たちが魔物を殺すのは生きるためだ。それは世界が人類を滅亡させるのと同じだろう?」
「同じではない……魔物は生きるため本能で動くが、獣人は……人類は利便性を求め感情で動く。そしてありもしない理想を掲げて全てを壊す。他の生命も、地球でさえも!」
「そうかもしれない……だけど、それがなんだって言うんだ!」
獣人が何を思って生きて行こうが、何にすがって生きて行こうが僕には関係ない。
人は――いいや人だけではなく、全ての生物がそれぞれ個々の思想を持ち、ここの思想のもと生きて死んで行く。その結果が人類の滅亡というのなら、それは避けるべきではない人間の総意だ。
「それを我が止めてやるというのだ!」
「それは傲慢だ!」
僕は体中からあふれてくる魔力を力に変えて、魔王の攻撃から逃れる。
「逃げることは出来ない。それが貴様の宿命なのだから!」
「気取ったことばかりッ!」
襲いくる拳を杖で受け止め、その力を吸収する。
魔王はほんの一瞬でそれに気がついて、距離をとる。目測で10メートルほどだろう。その衝撃を受けて地面から土煙が上がった。
「ふん! ならばこちらも武器を使うまでだ!」
そう言うと魔王は虚空に右手を伸ばす。まるで太陽でも掴み取るかのように。
僕はそれに気を取られて、魔王の速度に反応することが出来なかった。
「……っう!」
背中から右わき腹あたりに衝撃が走り、まばゆいばかりに光白い何かが僕の体を素通りした。しばらくしてからもう一度じっくりとみてみると、切っ先のとがった刃物であることは分かった。剣で貫かれたらしい。
僕は刺されたのか? いつ、どうやって? 魔王はいまだに目の前にいるのに……。
「集中力を切らせるからそういうことになる」
背後から聞こえたのは魔王の声だ。それが聞こえると同時に目の前の魔王が消えた。
「残像が残るほどの……こ、高速……移動」
二度も同じ手にかかってしまった。圧倒的な経験不足だ。実戦という経験があまりにも不足している。
「実のところ、貴様を殺す手段などいくらでもあった。とはいえ、あまり長話をして痛みを、恐怖をいたずらに引き伸ばしてやる必要もない。だから、今終わらせてやる。ゲームオーバーだ」
気のせいか、僕の体を貫いている剣が先ほどよりも眩く光る。
剣が体に触れているせいだろうか、その使い方が頭に流れ込んできた。どうやらそれは魔物の血を練り込まれているらしく、魔力をため込むことが出来る武器らしい。魔力の放出は出来ないが、それ故に魔力によって凄まじい切れ味を誇る。
ため込まれた魔力が多ければ多いほど、一刀両断出来るものが増える。僕の体に突き刺さったままの剣は、獣人ですらたやすく真っ二つに出来るしろものらしい。
たぶん、僕の命はもう間に合わない。魔王が剣を上下に振れば、それだけでたやすく死に至る。そう考えていた刹那、僕の肌に突風がぶつかる。ほんの一瞬だが、白い肌と白い毛が見えたような気がした。それが錯覚出なかったことが分かったのはその直後だった。
「不浄なものを使う……いかにも魔王らしいわね」
鉄と鉄がぶつかり合う音が鳴り響いたかと思えば、次の瞬間にはわき腹に激痛が走った。魔王によって上下に振られるはずだった剣は、外部からの力によって予想外の方向、右方向に弾き飛ばされ、僕の体を切り裂いて弾き飛ばされたらしい。その直後、耳に入ったのが聞き覚えのある女性の声で放たれたそんなセリフだった。
「勇者……」
ずっと無表情を保ってきた魔王が右手を抑えながら不快そうな声でつぶやいた。
激痛で地面に倒れ伏す僕が見たのは、かつて自分を救ってくれた勇者の姿、アルタ・ロットワイラーの姿だった。
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