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57 隠し方

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 喫茶店のカレーライスはどうしてこんなにもおいしいのだろうか……なんてことを考えながら、僕はスプーンを口に運ぶ。それを見て、メリーも同じようにカレーを食べる。
 あんなことがあった後だというのに、妹は僕を変に意識することもなく普通に接してくれる。さすがは僕の愛しい妹だ。まあ、『愛しい』とは言っても未だ恋愛的な感情があるというわけではなく、兄妹愛というやつに戻ったらしい。やはりリグミダスからもらった指輪のおかげなのだろう。
 僕は右手の中指にはめられている指輪を見つめる。

「やっぱり、僕には不釣り合いだ……」
 ただでさえ、犬種ということだけで絡まれることが多いのに、宝石のついた指輪なんて面倒事に巻き込まれる確率が上がってしまう。それだけは何としても避けたいところだが……指輪を隠すいい方法がまるで思いつかない。
 そもそも、指輪なんてものは見せびらかすためにつけるものであって、隠す意味なんてほとんどなかったわけだ。僕の経験上でも隠したことなんてない。いいや、もし隠すとするならば指から外すのが一番だということはよくわかっているが、外せないのでは隠しようもないということだ。
 何とかならない者だろうか……
 考えてもわからず、思わずため息が出る。

「指輪をどう隠すか悩んでいるのか?」
 そんなタイミングで背後から声をかけられる。
 それを予想すらしていなかった僕はのけぞった。
「何をそんなに驚く?」
 声をかけてきたのはイチゴだった。

「――ってことなんですよ……」
 僕はイチゴに先ほどまで考えていた指輪に関することのすべてを説明する。
 それを黙って聞いていたイチゴだったが、話が終わるとすぐに僕のもとから去っていく。
 あまりにも情けない話に失望したのか、彼女はどこか面倒くさそうな顔をしていたような気がしなくもない。自分でアイデアを一つも思いつかない間に相談するべきではなかった。普通の人ならまずは自分で考えてみて、それでもだめだったら誰か信用できる人に相談するのが基本だ。
 それなのに僕ときたら、なんという体たらく……きっとメリーにもあきれられたことだろう。
 丁度その時、妹が僕に声をかけてくる。
「なんで肩を落としているの?」
 いや、なんでと言われても、さっき説明したとおりなのだが……ってそうか、僕は別に口に出して話していたわけではなかった。
「だってイチゴさんに失望されただろう?」

「失望?」
 何を言っているのだ……こいつは、と言わんばかりの表情をしながらメリーは聞き返す。
「だって何も言わずにどっか行っちゃったじゃないか」
「そんなことないと思うけど……確かにイチゴさんはどっか行っちゃったけど、たぶん――ほら戻ってきたよ」
 メリーの視線が向く方角を見る。
 確かにイチゴが戻って来たらしい、それも何やらチェーンのようなものを持って。
「またせたな。これを探していたんだ」
 そう言ってイチゴが差し出したのは、銀色の金属でつくられたネックレスらしきものだ。しかし、チェーンしかない。だからネックレスというよりはチェーンだ。
 彼女がなぜそんなものを持ってきたのかよくわからないが、よかった、メリーの言うとおり失望されていたというわけじゃなかったみたいだ。メリーが僕にウィンクしているのが視界の端に見えた。
 僕はイチゴの親切をふいにしないように、チェーンを彼女の手から受け取った。
「これは?」
「指輪は必ずしも指にはめる必要はない。肌身離さず身に着けておけば効力はあるからな」
 なるほど、それでネックレスなのか。
 確かにネックレスなら首元を隠すだけで誰にも気づかれることはない。
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