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2 プロフェッサー
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◇ ◇ ◇
非常に厄介な事態になった。と、ジョン・ウィリアムズは考えていた。
あらかじめ知っていた情報だとはいえ、その全てを止めるつもりでいた彼にとっては、やはり今の状況は想定外の出来事なのだ。
「まさか彼にそれほど正義感があるとは……」
正義感は時に悪にもなりえる。
正義の反対はまた正義であり、それゆえに、自分を正義と信じてやまない人間ほど暗闇に心を奪われやすい。誰しもが心に闇を抱え、誰もが信じる神によって定められた一つ正義など存在はしない。幾万幾億の人々が、己のすることを正義と信じて疑うこともない。人々によって正義などはばらばらで、まさに十人十色なのだ。
だからこそ彼は正義を持たない。
ジョンはただ自分の好きなことをし、その結果としてヒーロー『プロフェッサー』と呼ばれるようになった。彼は正義の万人ではなく、法の番人でしかない。しかし、それも少し語弊がある。法の番人とは国によって認められた代表であり、彼は方によって定められた法の番人ではない。
法を破るものにとっての恐怖の対象であり、法を守る者にとっては正義の味方……つまるところのヒーローである。
彼は自ら正義の味方、『ヒーロー』を名乗ったことは一度もない。それは自分の正義を信じていないからだ。正義ではなく、法。法を守っているからこそ、ヒーローたりえるのだ。
それがアッシュには理解できていない。実のところ、ジョンはそのことを悪いとは思っていない。誰がどのようにして、自らの正義を振り回そうと知ったことではないし、それが完全な悪であるとは思っていない。それこそ人によって考え方が違うだろう。その考え方を捨てさせるなんてことは不可能だ。人の意思を捻じ曲げることなどできはしない。
ただ、ジョンにとってアッシュは生徒であり、心配するべき人間の一人でもある。
正義を振りかざした先に待っているのは、いつも栄光であるとは限らない。それは法の番人であったとしても同じことだ。最悪の場合は死すらもあり得るだろう。若いアッシュにはそれが理解できていない。特に彼らの相手はその最悪の場合をかなりの可能性で引き出すことになるだろう。
別の世界からの侵略者は、かなりの力を持ったFAだ。プロフェッサーですら勝てるかどうか分からない相手に、なりたてのFAが勝てる相手ではない。
だからこそジョンは悩んでいた。出来るならば、アッシュがこの件に関わるのを止めたいのだが、それは出来そうにもない。それは、アッシュにも自分の考えというものが存在するからだ。彼は彼なりに考え、その考えのもと動いている。
解決策があるとすれば、ジョン自身が問題を解決することにある。だが、それこそ非常にシビアな問題であることも確かだろう。教授は一人しかいないが、相手は複数人、それも彼と同等か、もしくはそれ以上の力を持ち合わせている。つまるところ、時間をかけて一人ずつ確実に倒して行くしかないのだが、それでも彼の法を破ることは確実である。
私刑によって人を傷つけることが、どれほど罪なことかは知っている。
しかし、闇によって支配された人間を暴力なしに救うことは出来ない。
それを考慮したうえで、彼は政府に要請を出していた。
返答はこうだ。『異世界の住民に国家として危害を加えることは出来ない』と。そしてこう続く、『異世界の人間には我が国の法律は適用されない』。異世界人に一般人が私刑を下しても法律には反しないという意味だ。だからそちらで処理をしろという意味でもある。
非常に厄介な事態になった。と、ジョン・ウィリアムズは考えていた。
あらかじめ知っていた情報だとはいえ、その全てを止めるつもりでいた彼にとっては、やはり今の状況は想定外の出来事なのだ。
「まさか彼にそれほど正義感があるとは……」
正義感は時に悪にもなりえる。
正義の反対はまた正義であり、それゆえに、自分を正義と信じてやまない人間ほど暗闇に心を奪われやすい。誰しもが心に闇を抱え、誰もが信じる神によって定められた一つ正義など存在はしない。幾万幾億の人々が、己のすることを正義と信じて疑うこともない。人々によって正義などはばらばらで、まさに十人十色なのだ。
だからこそ彼は正義を持たない。
ジョンはただ自分の好きなことをし、その結果としてヒーロー『プロフェッサー』と呼ばれるようになった。彼は正義の万人ではなく、法の番人でしかない。しかし、それも少し語弊がある。法の番人とは国によって認められた代表であり、彼は方によって定められた法の番人ではない。
法を破るものにとっての恐怖の対象であり、法を守る者にとっては正義の味方……つまるところのヒーローである。
彼は自ら正義の味方、『ヒーロー』を名乗ったことは一度もない。それは自分の正義を信じていないからだ。正義ではなく、法。法を守っているからこそ、ヒーローたりえるのだ。
それがアッシュには理解できていない。実のところ、ジョンはそのことを悪いとは思っていない。誰がどのようにして、自らの正義を振り回そうと知ったことではないし、それが完全な悪であるとは思っていない。それこそ人によって考え方が違うだろう。その考え方を捨てさせるなんてことは不可能だ。人の意思を捻じ曲げることなどできはしない。
ただ、ジョンにとってアッシュは生徒であり、心配するべき人間の一人でもある。
正義を振りかざした先に待っているのは、いつも栄光であるとは限らない。それは法の番人であったとしても同じことだ。最悪の場合は死すらもあり得るだろう。若いアッシュにはそれが理解できていない。特に彼らの相手はその最悪の場合をかなりの可能性で引き出すことになるだろう。
別の世界からの侵略者は、かなりの力を持ったFAだ。プロフェッサーですら勝てるかどうか分からない相手に、なりたてのFAが勝てる相手ではない。
だからこそジョンは悩んでいた。出来るならば、アッシュがこの件に関わるのを止めたいのだが、それは出来そうにもない。それは、アッシュにも自分の考えというものが存在するからだ。彼は彼なりに考え、その考えのもと動いている。
解決策があるとすれば、ジョン自身が問題を解決することにある。だが、それこそ非常にシビアな問題であることも確かだろう。教授は一人しかいないが、相手は複数人、それも彼と同等か、もしくはそれ以上の力を持ち合わせている。つまるところ、時間をかけて一人ずつ確実に倒して行くしかないのだが、それでも彼の法を破ることは確実である。
私刑によって人を傷つけることが、どれほど罪なことかは知っている。
しかし、闇によって支配された人間を暴力なしに救うことは出来ない。
それを考慮したうえで、彼は政府に要請を出していた。
返答はこうだ。『異世界の住民に国家として危害を加えることは出来ない』と。そしてこう続く、『異世界の人間には我が国の法律は適用されない』。異世界人に一般人が私刑を下しても法律には反しないという意味だ。だからそちらで処理をしろという意味でもある。
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