ファンタズマ

真白 悟

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 例の暴漢について知っているであろう教授の知識を借りることが出来ないとなると、傍観を見つけ出すのは非常に困難だ。
 教授から聞いた知識をつなぎ合わせても、僕があの暴漢について知っていることは別の世界から来たFAと呼ばれる能力者であるという事だけで、奴の名前すら知らない。つまり、何も知らないに等しいという事だ。手がかりが全くないまま、この街で人を探すという事は砂浜から一粒の砂を探し出すよりは大分マシだけど、昔から言われ続けてきたその言葉の通りかなり困難だろう。

「教授はあの調子だ……たぶん、何も教えてはくれない。どうしようか……」

 それにもっと大きな問題もある。
 あの暴漢には、僕の透明化が通用しなかった。まるで通じなかったというわけではないが、気配を察知して反撃された。正直なところ、教授の協力がなければ殺されていたかもしれない。
 おそらくだが、あの暴漢はかなり戦闘に長けた人物で、僕が攻撃する際の殺気のようなものに感づいたという事なのだろう。戦闘訓練を受けてきたわけではない僕にとっては、もし仮に奴が能力者でなかったとしてもかなりの脅威になり得るというわけだ。

 つまり力を使いこなせないままでは、奴の居場所を見つけたとしても勝てる見込みはまるでない。

 姿を消すことが出来ても、気配を完璧に消し去る技術が僕にはない。その上、格闘術も持たないと来た。そんなんでよくヒーローになろうと思ったものだと、自らのことながら大きなため息が出る。

「だけど、力をもらう前よりかははるかに動けるんだ……」

 体格が変わったとか、体重が増減したわけでもないのに体は軽くなった。一体どういう仕組みでそうなっているのかはわからないが……その点も理解できれば、もっと力を使いこなすことが出来るのだろう。
 力の全容を知っていたであろうエフェルはもうこの世にはいない。
 彼はこの力を発動させるための石を『ハーデスの隠れ兜』と呼んだ。隠れ兜と言えば、ギリシア神話ではゼウスの雷霆、ポセイドンのトリアイナ(トライデント)と並ぶ伝説の武具であり、キュプロプスによって作られたと神話ではそうなっている。ハーデスは隠れ兜を使って、ティタン神族との戦いで敵の武器を奪い取り大いに戦いに貢献したとされているが……僕が知っているのはそれ以上でも以下でもないく、詳しいことは何一つ知らない。
 なにより、その話が力の使い方と何か関係があるのかすら不明だ。
 僕の知る限りでは、ハーデスの隠れ兜に力を増幅させるような力はない。万が一、そんな力があるとするなら、ペルセウスはゴルゴン姉妹との戦いではそれほど苦労しなかっただろう。

 ダメだ。やっぱり神話から考えても答えは出ないだろう。
 例の暴漢も探さなければならないし、僕が友からもらった力については実戦の中で確かめていくしかない。
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