ファンタズマ

真白 悟

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2 プロフェッサー

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  ◇


 教授に言われるがまま僕は研究室を去り、その足で自宅へと帰宅した。大切な友を失った喪失感と、非日常から脱した後の虚無感が混ざり合い、混沌とした後ろめたさが頭の中を巡り続ける。
 覚悟があろうとなかろうと、僕が教授の人生に無理やり介入する権利は存在しない。

「僕には僕のやるべきことがある」

 おそらくだが、ウィリアムズ教授はかなり大きなストレスを抱えている。
 だからこそ、普段の彼なら絶対に犯すはずのないミスがいくつもあった。その最たるものが、ヒーロー『プロフェッサー』の正体が自分であることを示唆する言葉を口にしたことだ。
 プロフェッサーを直接見たという人物はいない。僕も噂でしか聞いたことがなく、それも都市伝説としか思えないような噂ばかりだ。悪者を更生させるために奔走しているだとか、人々が安全に暮らせるために常識を教えまわっているとか、プロフェッサーに勝てる存在はいないだとか……どれも目撃者がいなければありえない噂ばかりだ。

 それなのに、その姿を見た者は誰もいない。
 噂だけが1人歩きし、誰も見たことがないのに、悪人は彼を恐れて日の昇っているうちはあまり行動しなくなった。昼間の犯罪が激減しただけに、その存在が実在していようがいまいが、プロフェッサーは偉大なヒーロー足りえるわけだ。

 プロフェッサーは噂だけですでに幾たびも世界を救っていることになっているが……ウィリアムズ教授とはイメージが重ならない。
 教授が見ず知らずの悪人を更生させようとするはずもなければ、世界を救うために動くわけがない。彼は噂のヒーローである『プロフェッサー』のように他人に優しくはない。他人に厳しいというわけでもない。教授は自分が興味のある人物以外には目を向けることすらない。それ故に、彼は自分の研究を成功させた。
 それがほんの数か月ではあるが、彼のことを近くで見てきた僕が感じた印象だ。
 同時に面倒見のいい教授でもある。自らの講義に出席している生徒と、研究室の生徒たちを教育することだけにおいては他の教授よりも熱心な教育を施すことでも有名だ。

「責任感は人一倍強い……ような気もしなくはないけど」

『責任』……その言葉に着目して考えてみると、プロフェッサーの行動と、教授の性格がまるで一致しないというわけでもない。
 教授は何らかの方法で『別の世界を作りだした』、そして『その結果として不幸になった人がいる』……つまり、教授が『自分の過ちによって、不幸になった人への償いをしている』と仮定すれば辻褄が合う。

「やっぱり、教授がプロフェッサーなのかな?」

 ここで考えていても答えは出ない。それに、教授の正体などはそれほど重要なことでもない。
 今考えるべきなのは、暴行犯を追うのかどうかだ。

 答えは簡単だ。
 教授に何を言われようが、僕はエフェルとの約束を守る。友の敵を討つのを諦めたとしても、最後の約束だけは絶対に守ってみせる。
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