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1 ファンタズマ
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「でもその怪我じゃ……」
どう考えても助からない。
彼の失血量は失血死する危険がある30%にかなり近い。量を測れるわけではないが、目測で甘く見積もっても五百ミリリットルはすでに流れ出ているだろう。
「わかってる。多分助からないだろう……僕はもうじき死ぬ。それは救急車を呼んだところで変わらないだろう。到着まで持ちそうもない」
「だけど……」
それでも僕はエフェルを救いたい。
失われていく命を救うなんて傲慢かもしれないが、親友の命を救いたいと思うのは当然のことだ。
なのに彼はそれを望んでいない。
「情けないやつだ。だけどそれでも、僕は君に託す他ない……僕と同じ境遇を持つ君にね」
「同じ境遇?」
言葉の意味がわからない。
同じ境遇? 僕とエフェルは生まれも育ちもまるで違う。それは彼自身から聞かされた話だ。なのに今度はまるで反対のことを言い始めた。しかし、死を間近にした彼の口から放たれた言葉は真意なのだろう。
「親友の君には本当はもっときちんとしたタイミングで言いたかった。だがもう時間がない……痛み止めの効果が聞いているとは言っても、話せるのもあと数分のことだろう。だから話す。今ここで――僕は、僕の本当の名前はアッシュ・ユーティティア」
どういうことだ。
「僕と全くの同姓同名……」
「当然さ、僕はこの世界とは別の世界……第二世界と呼ばれる世界から来た君自身なのだから」
別の世界? 第二世界? 彼は一体何を言っているんだ。平行世界なるものが存在するとでも言うのか?
これを空想だと切り捨てることだってできるが、満身創痍の彼の目は嘘をつく人の目ではない。だがそれと同時に、僕が今まで親友として一緒に過ごしてきたエフェルの目でもない。
何かを信じ、そして覚悟を決めた人間の目を彼はしている。
「わかった。話は信じるよ……だから救急車を呼ばせてくれ」
「だめだ。そんなことをしても君の単なるいたずらになる。この世界の人間ではない僕が……この世界で死ねば当然だが、世界に僕と言う存在は残らない。生命の力を使ってこっちの世界に来ているからね……生命力を失えば自ずともとの世界に戻されるってわけだ」
「生命力?」
「悪いがその話をしている暇はない……時は刻一刻と刻まれている。だから……これを受け取ってくれ……僕と同じ遺伝子構造を持つ君になら使えるはずだ」
そう言ってエフェルは僕に黒いサイコロ状の石を手渡した。
僕はそれを無言で受け取っては見たが、それが特別なものには到底思えなかった。
「それはハーデスの隠れ兜と呼ばれているものだ。君が強く意識すれば自ずと力を貸してくれるはずだ」
「隠れ兜……まさか! 神話の中に出てくる」
「そうだ。それで君の正義を示してみればいい……そうすれば……自ずと予言の日を逃れることが……できるだろう」
エフェルは何度も血の混じった咳をしながら、息苦しそうに語った。
どう考えても助からない。
彼の失血量は失血死する危険がある30%にかなり近い。量を測れるわけではないが、目測で甘く見積もっても五百ミリリットルはすでに流れ出ているだろう。
「わかってる。多分助からないだろう……僕はもうじき死ぬ。それは救急車を呼んだところで変わらないだろう。到着まで持ちそうもない」
「だけど……」
それでも僕はエフェルを救いたい。
失われていく命を救うなんて傲慢かもしれないが、親友の命を救いたいと思うのは当然のことだ。
なのに彼はそれを望んでいない。
「情けないやつだ。だけどそれでも、僕は君に託す他ない……僕と同じ境遇を持つ君にね」
「同じ境遇?」
言葉の意味がわからない。
同じ境遇? 僕とエフェルは生まれも育ちもまるで違う。それは彼自身から聞かされた話だ。なのに今度はまるで反対のことを言い始めた。しかし、死を間近にした彼の口から放たれた言葉は真意なのだろう。
「親友の君には本当はもっときちんとしたタイミングで言いたかった。だがもう時間がない……痛み止めの効果が聞いているとは言っても、話せるのもあと数分のことだろう。だから話す。今ここで――僕は、僕の本当の名前はアッシュ・ユーティティア」
どういうことだ。
「僕と全くの同姓同名……」
「当然さ、僕はこの世界とは別の世界……第二世界と呼ばれる世界から来た君自身なのだから」
別の世界? 第二世界? 彼は一体何を言っているんだ。平行世界なるものが存在するとでも言うのか?
これを空想だと切り捨てることだってできるが、満身創痍の彼の目は嘘をつく人の目ではない。だがそれと同時に、僕が今まで親友として一緒に過ごしてきたエフェルの目でもない。
何かを信じ、そして覚悟を決めた人間の目を彼はしている。
「わかった。話は信じるよ……だから救急車を呼ばせてくれ」
「だめだ。そんなことをしても君の単なるいたずらになる。この世界の人間ではない僕が……この世界で死ねば当然だが、世界に僕と言う存在は残らない。生命の力を使ってこっちの世界に来ているからね……生命力を失えば自ずともとの世界に戻されるってわけだ」
「生命力?」
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そう言ってエフェルは僕に黒いサイコロ状の石を手渡した。
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「それはハーデスの隠れ兜と呼ばれているものだ。君が強く意識すれば自ずと力を貸してくれるはずだ」
「隠れ兜……まさか! 神話の中に出てくる」
「そうだ。それで君の正義を示してみればいい……そうすれば……自ずと予言の日を逃れることが……できるだろう」
エフェルは何度も血の混じった咳をしながら、息苦しそうに語った。
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