ファンタズマ

真白 悟

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 午後からの授業がないとなると、帰るという選択もあるわけだが……バイトの時間までそれほどの時間があるわけでもない。だとすれば、図書館で勉強するという選択せんたくもある。

「勉強はいくらしても足りないぐらいだからなぁ……」

 空を見上げながらウィリアムズ教授に言われたことを思いだす。
 このままでは研究室を追い出されることになるかもしれない。成績がそれほどよろしくないという事が原因だ。ドイツの卒業率は70パーセントほど……難しい大学では一度も留年りゅうねんせずに卒業そつぎょうすることが出来る確率は一桁だと聞く。
 この国ではドイツほど大学卒業が困難ではないが、それでも僕程度の凡人ぼんじんにはかなり難関なんかんなことである。

考古学者インディージョーンズへの道は遠いな」

 昔見たどこかの国の映画は衝撃的しょうげきてきだった。
 もちろんむちで悪党と戦う考古学者なんて、現実世界では決してありえない存在だ。なぞの聖者が守るかくれた聖遺物せいいぶつなどあるはずもないし、宇宙人の頭がい骨なんてものも存在するはずがない。そんな非現実的なことだからこそ子供たちはあこがれた。
 僕もその一人だった。

 しかし、しかしだ。その夢も今まさに、僕自身の努力不足によってついえようとしている。までとは言わないが、そんな僕の夢である考古学者として最も優れた若手の教授、ジョン・ウィリアムズ教授のもとをはなれなければならないことになる。
 研究室を追い出されたからと言って退学になるわけではないが、追い出された研究室に戻るのはかなり困難こんなんなことだろう。特にウィリアム教授はそれをみとめない。

「そんな状況でデートとかかれている自分が情けない……」

 夢への真剣さがまるで足りていない。
 だがわからない。レポートの評価が悪いというわけでもなく、授業を欠席しているわけでもないのにどうして評価が悪いのか……どうして問題児と呼ぶのかがどうしてもわからない。
 理由がわからなければ対策の打ちようもない。
 ないないづくしだ。
 だけどそれでも何もしないであきらめるのは嫌だ。夢というのはそれほど簡単にあきらめることが出来ないからこそ、人は夢見てそしていつか絶望する。だからこそ、僕はギリギリまで夢見ていたい。ギリギリまで眠る祝福しゅくふくの時間と同じで、眠りの中にあるわずかな幸福に身を置いておきたい。
 そのためには努力をしなければならないというのは当然のことだ。

つらくても……しんどくても……それがあのヒーローと同じになれるなら」

 たええられる。
 たええなければならない。
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