よみがえりの一族

真白 悟

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1.5 失ったもの

8.秘密

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 だがそれに関して言うのであれば、大きな疑問が生まれるのも言うまでもないだろう。そう彼が僕のことを知っているはずがないのだ。もちろん僕に合う前の彼はというわけであるが、僕は彼のことを知らなかったわけだから彼が僕を知っているわけはない。
 そもそもの話になるが、僕は死ぬよりも前はこの世界のことすら知らなかったわけであるし、彼は僕の世界のことを知らなかったのだから考えるまでもない。

「おいおい、俺の嘘が読めないって顔をしてるな? だがそれはお前が思っているよりも遥かに簡単なことだ。俺がお前のことをお前というように今から俺は一切お前に対して嘘はつけないし、嘘を付くつもりはない。だが以前あった俺は違うわけだ簡単だろう?」

 そう、僕が真実だと思っていたそれらは全てが嘘だったのだ。だからこそ僕は火山の嘘に気が付かなかったわけであるが、だがそれがそもそもの失敗だといえるのかもしれない。
「だが、それはおかしくないか?」
 僕は思わずその言葉、考えが口に出てしまっていたことに気がついた。しかし、時すでに遅し、火山はその2つの目玉でこちらを射殺す。
「おかしいことはないだろう? 例えばだがどこがおかしいというのだ?」
「だってお前は嘘ばかり付くんだろう? だったらお前が僕を知っていたということで、僕の言葉を知っていたというわけだ。なら僕を今まで生かした理由がわからない……」
「情けないな……誰も俺が行った行動そのものまで全てが嘘だなんて言っていないし、そこまで器用な人間ではない。いや悪魔ではないというべきか? つまるところ、俺は言葉以外では一つたりとも自分の行動理念に反したことはない。なんだ? それじゃ矛盾が出るのではないかという顔をしているな? だが俺が行った本当と口にした嘘は驚くべきほどに辻褄が合うはずだぜ」

 そう、今考えると火山の行った行動、火山の行動理念はどれも火山が僕、すなわち『ソル』を殺すためのものだった。
 火山が僕に近づいた理由は僕を殺すためではなく、悪魔で警察官としてだ。僕の言葉を聞いて僕を殺さなかったのは僕を『ルナ』だと勘違いしたから、僕を連行した理由はその勘違いに気がつけなかったからだ。
 そして再び僕の目の前に現れたのは、僕の正体が『ソル』であるかもしれないと思ったからで、僕に闇討ちを仕掛けたのは最終手段としてだった。結局、彼は僕の正体に気が付かなかったみたいだが、もはや彼にとっては僕が『ルナ』でも『ソル』でも関係ないらしい。
 嘘をつかないということこそが、彼にとって最後の行動、つまりチェックというわけだ。ここからチェックメイトになろうがどうでもいい。重要なのは追い詰めたという事実だけであり、あとは死のうが生きようがどうでもいいというわけだ。
 それほどまでに僕の正体のほうが重要だと言うことなのだろうか?

「あまり自惚れるもんじゃ無いぜ、俺にとっては魔法士が死のうが生きようがどうでもいいんだよ。それと同じように俺が死のうが生きようがどうでもいいわけだ。なら、俺の命と情報を引き換えにできるのであればそうするのはあたりまえだろう?」
 無情にもそう吐き捨てる彼の言動にはやはり理解できない部分が多い。なんというか彼の人間性が見えてこない。悪魔だから当たり前だろうと言われればそれまでであるのは確かなことであるが、そういうことではない。
 もし、彼が今言ったように僕が死のうが生きようがどうでもいいのであれば最初の段階から殺しにかかってきてもおかしなところはどこにもないはずだ。
 それにもかかわらず今までは僕を監視していたわけだ。その理由が見えない。だからこそ僕は彼と雌雄を決することがやぶさかなわけである。
 だがその理由自体彼が言葉にした中に答えがあったわけであるが、この時の僕はそんなことは露程にも気にかけていなかった。ただ、目の前の殺意に対しいかに対応するべきかを考えることで手一杯だったのだ。

「お前が悪魔だったとしても、僕にとってはかけがえのない命の恩人にほかならない。出来れば話し合いに抑えることは出来ないだろうか?」

 それが無理なことは僕が一番わかっているはずであるのに、どうしてだかそう言わずにはいられなかった。もちろん火山はそれをあっさりと否定する。

「そんな必要はないし、お前が俺に感謝する必要もない。お前は今回の戦いで自身の手の内を晒し、その正体を晒す。そして俺を殺して終わりだ。どうだ? 簡単だろう? お前にとっても今まで殺してきた悪魔が一体増えるということだけだ。いや、俺が人間だとするのなら1000人のうちの1人となるだけなのだから気に病むことはないだろう? 特に俺の推理が間違っていなければ、いや一度は間違えたわけだが、今回は99%間違いはないだろう……。つまりお前は大切な人を殺したわけなのだから、恩人を1人殺したところでどんな罪悪感も感じないだろう?」

 彼の長いセリフは僕の心に半分ほどしか届いていないが、それでも彼がどれほどまでに覚悟を決めたのかだけは伝わった。ある意味でこの状況は詰みであり罪なわけだ。
 僕が犯した罪であるならば僕はそれ相応の罰を受けるべきなのだ。たとえそれが殺人というこの世で最も罪深い罰だとしてもそれを受けないという選択肢は存在しない。その行動にどれだけ重要な情報が含まれようとも僕は受け入れざるを負えない。

「いいだろう、この勝負受けよう……」
 この勝負というよりも半分処刑と言ってもおかしくはない状況をあえて勝負と呼ぶのは、僕の心がまだ人間でありたいという甘えからなのかもしれない。多分火山もそのことには気がついていたのだろう。表情を変えない火山と僕その二人の衝突が今まさに始まろうとしていた。
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