綺麗になるから見てなさいっ!

きゃる

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番外編

フィリアのハロウィン幸せ料理

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 ――愛するお父様へ

 吹く風が涼しく、本格的な秋となってきました。変わらずお元気ですか? お仕事に没頭するあまりお身体を壊していないかと心配です。熱中するのは、ほどほどになさって下さいね。
 私はもちろん、夫のレギウスも元気です。彼と共に過ごす南方の街、タロスは穏やかで良いところ。我が家の窓から望む山並みも日を追うごとに色づいてきました。綺麗な景色をお父様にも見ていただきたいと、二人でよく話しているの。休みの日に、近くの森をレギウスと散策しました。その時の葉っぱを同封しておきますので、雰囲気だけでも楽しんで下さいね。

 秋は収穫の季節。タロスの街や近隣の街や村も活気づいてきました。今年は麦が豊作で、もうすぐ大規模な祭が開催されるため、私はすごく楽しみです。だけど、警備に当たる飛竜騎士団のメンバーは楽しむどころではないみたい。一緒に祭りに行きたかったと、私よりレギウスの方ががっかりしていました。責任者なのに、おかしいでしょう?



「さてと。手紙はこの辺にして、夕食を作ろうかしら」

 私、フィリアは微笑みながら羽ペンを置く。そろそろ取り掛からないと、お腹を空かせたレギウスが帰って来るから。夫のレギウスは飛竜騎士。今日も飛竜の背中に乗って、各地を飛び回っていることだろう。
 我が家にももちろん料理をしてくれる人はいる。街の女性に通いで来てもらっているのだ。こう見えても私は公爵家の出身だし、夫は飛竜騎士団副団長で次期侯爵だから、田舎にいても快適な暮らしをしている。

 けれど私の趣味は料理で、作るのも食べるのもとっても好き。貴族女性が台所に立つことを嫌う人もいるけれど、我が公爵家はその点甘かった。そして結婚して間もない夫も、私には甘い。どのくらいかといえば、夜中にふと目覚めると灰青色の瞳が私を優しく見つめていて、慌てて目を閉じた私のおでこに彼がキスを落とし、その後引き寄せられるということがよくあって……
 ま、まあそれはここでは関係のない話だ。要するにレギウスは、カッコいいだけじゃなくすごく優しい。

 通いの女性の手を借りて、夕食の支度にとりかかろうと思う。せっかくならハロウィンにちなんで、かぼちゃの料理にしましょうか。

「ごめんなさい、今日は私に作らせて」
「フィリアさん!」
「収穫を祝う時期だから、ハロウィン料理でいいわよね」

 私は転生者で、前世は日本の会社で働いていた。その時も婚約者に裏切られてひどい目にあったけど、言いたいのはそこじゃない。通勤途中に目にするデコレーションやハロウィンで盛り上がる人達を見て、いいなあ~と感じたことを覚えている。私? その頃の私は必死で残業していたから、ハロウィンどころではなかったのだ。

 この世界にハロウィンの習慣はないけれど、元々は収穫を祝い先祖の霊を迎えて悪霊を追い払う祭りだったはず。だったらお料理だけでも雰囲気を味わいたいし、何より私がかぼちゃを食べたい。

「それにしても、この世界は何かと便利よね。おかげで存分に味わえるわ」

 野菜というよりお芋に近いかぼちゃは、こちらではそこまで太らないはず。だから今日は、かぼちゃづくしだ。

 かぼちゃのポタージュ、かぼちゃコロッケ、パンもかぼちゃの形にしてみよう。それから、甘いパウンドケーキには、かぼちゃとくるみを入れて焼き上げる。綺麗になろうと努力したため、お料理の腕が上がって好きな物を自分で作ることができるのだ。
 ちなみにレギウスには、好き嫌いはない。私の作った物なら何でも美味しいと褒めて、喜んで食べてくれる。本当によくできた夫で……って、思い出してにんまりしている場合ではなかった。続きを作ろう。
 ハロウィンにラーメンは無理だから、パスタにしようかしら? 生地にかぼちゃを練り込むのはどう? 簡単に、ニョッキがいいわね。

 でたかぼちゃと小麦粉を同量で、ここに塩と卵を入れる。それに水を少しずつ加えてこね、耳たぶの固さに。ひとまとめにした生地を転がして棒状に、親指の爪くらいに小さく切っていく。コロンとしたものを親指で押し潰したら、ニョッキの完成だ。あとはこれを、塩を入れたお湯でゆでてればいい。

「キノコのソースはカロリーが高いから、今日はお肉にしましょう」
 
 オリーブオイルに唐辛子とにんにくを入れたフライパンを温め、細かく刻んだ肉――いわゆるひき肉を入れて炒める。潰したトマトにダシの素を加えて煮込み、塩こしょうで整えればソースの完成だ。簡単だけど手抜きではない。その分愛情をたっぷり込めておいた。

「どう? 自分ではまずまずの出来だと思うのだけど」
「美味しい! さすがはフィリアさん。素敵な旦那様を胃袋で掴んだんですね」
「いえ、ええっと……どうだったかしら」

 レギウスとは幼なじみだ。
 あえて否定はしなかったけれど、彼はその頃からだと言っていたから、少なくともお料理の腕ではない。じゃあ容姿かというと、それも違うような。夫が帰ってきたら、詳しく聞いてみないと。



 教会の鐘が一日の終わりを告げる。
 何事もなければ、レギウスがもうすぐ帰ってくるはずだ。
 鐘の音を耳にするたび、私は修道院に行かなくて良かったと胸を撫で下ろす。愛する人の隣で目覚め、その日に起こったことや感じたことを、互いに語った後で眠りにつく幸せ。そんな毎日は貴重で、何物にも代えがたい。ただでさえレギウスは、私を綺麗で可愛いといつも褒めてくれるし。

 修道院の壁の中で一生を終えようとしていた私。婚約破棄したことで、早まらなくて本当に良かったと思う。だって私は今、愛と幸福に包まれて毎日を元気に過ごしているから。

「ただいまフィリア。美味しそうな匂いだ。さては、今日もご馳走かな?」

 笑みを含んだ低い声は、いつ聞いても魅力的。背の高い、鳶色とびいろの髪と灰青色の瞳をした私の飛竜騎士――

「お帰りなさい……ギィ!」

 私は愛しい人の腕の中へ、満面の笑みで飛び込んだ。
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感想 4

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みんなの感想(4件)

うろこmax
2018.08.02 うろこmax

こんにちは❗️
ご無沙汰しております。

今回のお話やっと読み終わりました❗️

いつも買っている電子書籍サイトで購入しました。

リアとギィのやり取りに焦りました。
どうなっちゃうの➰😱

でも持つものはよき友人ですね。
とても良かったです。

次回作を楽しみにしています。

今夜からはこちらのサイトに戻って読み漁りま~す。

2018.08.05 きゃる

1031max様、いつもありがとうございます\(^ω^)/。
ギッシリ書いてしまったので、読むのが大変だったのでは!?
おっしゃる通り、リアもギィも友人には恵まれていました。

次回作もお届けできるよう、頑張りますね♪

解除
はなまる
2018.07.03 はなまる
ネタバレ含む
2018.07.03 きゃる

はなまる様、書籍購入ありがとうございます(о´∀`о)ヾ(・ω・*)ナデナデ。

確かに、色んな伏線を入れてしまいました。読めば読むほどわかる仕掛け。最後までいくと、細かな仕草の意味がわかるように……。もちろん、サラッと読んでも楽しんでいただけると思っています。
タイトルも他の方に比べたら短めですよね? 
読み取って下さった通り、色んな意味を込めました。

ほどよくプレッシャーをかけられたような。
本を持っていても後悔されないよう、これからも頑張りたいと思います。
「先生」と呼ぶのはもう少し先で……
偉くなってから(?)お願いします。

(ちなみに可愛い表紙と色合いなので、私は部屋に飾ってますよ~☆彡)

解除
naturalsoft
2018.07.02 naturalsoft
ネタバレ含む
2018.07.03 きゃる

naturalsoft様、最後までご覧いただきありがとうございます。
ダイエット食や第二王子、もし見て下さる方がいるのなら番外編で書いてみるのもいいかもしれませんね~(^◇^)。
イラストすごかったでしょう? 私も見ているだけでドキドキしました。
おっしゃる通り、かき氷にシロップかけて練乳足して、さらにシロップかけて粉砂糖ふった感じ……あれ、違った? ちなみにトッピングは『溺愛』です。

ハッピーエンドを褒めて下さって嬉しいです。
これからも頑張りますのでよろしくお願い致します♪

解除

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