綺麗になるから見てなさいっ!

きゃる

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番外編

飛竜騎士の願いごと

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*レギウスが、フィリアにダイエットの指導をしている時の話。初めて二人で遠乗りをし、郊外に出かけた後のこと。


 それは偶然、目に留まった。
 街を歩いていた俺――レギウスは、一軒の店の前でふと足を止める。可愛らしい小物の店で、女性用の装飾品を扱っているようだ。窓際の目立つ所に、その髪飾りは置いてあった。

「緑色とは……随分ずいぶん珍しい」

 ガラス越しだが、フィリアの瞳の色にも似ているような気がする。印象的な緑は、俺の一番好きな色だ。もっとよく見ようと、意を決して店内に入ることにする。

 中には多くの客がいた。人気があるようで、品揃しなぞろえも良くにぎわっている。女性客に引っ張られて来た男性も何人かいるらしい。俺の近くの男性は、隣の女性と夫婦なのだろうか? 繊細な飾りの付いた、いかにも高価そうな扇を奥さんにねだられて困った顔をしていた。

 男一人で場違いなのか、多くの視線を感じる。飛竜騎士の制服を着ていたことも、あだとなったようだ。王国の騎士が、日中こんな場所に一人でいるから珍しいと思われたのだろう。
 けれど、本来俺は休暇中だ。そうと知りながら容赦ようしゃなく呼び出す親友のせいで、こんな恰好かっこうをしている。急な依頼でもあるのかと、今朝早く制服を着て家を出た。結局大した用事ではなく、早々に解放されることに。
 今は城から帰る途中で、たまたま見かけた髪飾りが気になり、この店に立ち寄っているところだ。

 上空では目立たない服の色も、地上ではよく目立つ。しかも王国騎士の中でも飛竜騎士は特に数が少なく、名誉ある立場とされていた。そのために男女問わず憧れる者が多いと聞くし、時々声をかけられることも。今もまた、店にいた女性達に話かけられる。

「あの……飛竜騎士様ですよね? お手伝いできることはありますか?」
「プレゼントをお探しですか? でしたら私、お役に立てると思うのですけれど」

 店員のような口ぶりだが、服装が明らかに違う。一人は街に住む若い娘といった感じで、もう一人は先ほど夫に扇をねだっていた貴族のご婦人だ。初めて訪れた店だが、手伝いを頼むまでもない。
 俺は形ばかりの笑みを浮かべると、首を振って断った。

「ありがとう。気持ちだけいただいておきます」
「あら」
「まあ……」

 ため息をつかれてしまう。
 残念そうな顔をされるが、友人や連れの男性を放ってまで俺の相手をする必要はないと思う。

『……もちろん素敵よ。そんなこと、言われ慣れているくせに』

 君がこの状況を目にしたら、制服のせいだと俺をからかうのだろうか? フィリアの言葉を思い出した俺は、苦笑しながら目当ての物に近づく。すると、接客を終えた店員が走り寄って来た。俺はすぐに、窓際の髪飾りを見せてほしいと頼む。

「さすがにお目が高い。本日入荷したばかりの一点ものですよ」

 間近で目にした途端、心惹かれた。手渡された緑は鮮やかで、色が同じだ……桃色の髪のフィリアの、澄んだ瞳と。小さな頃から大好きな、俺の唯一。緑色なら、彼女の髪にも映えるだろう。
 知らないうちに頬がほころんでんでいたらしい。店員が再び声をかけてきた。

「あの……奥様や恋人への贈り物なら、きちんと包装することもできますが」

 恋人ではない、けれど――
 フィリアのいる公爵家には、ほとんど毎日通っている。彼女がくれた小さな緑のお礼だと言ってさり気なく渡せば、受け取ってくれるだろうか?
 
「では、これを。贈り物として包んで下さい」

 髪飾りは繊細なデザインで、花の周りに羽や宝飾品が付いている。高価な品を値段も交渉せずに即決してしまったせいか、店員の方が驚いているらしい。まさか購入の決め手が、『恋人』の一言だとは思ってもいないだろうが。

 フィリアの喜ぶ顔が見たい。
 昔、緑色のリボンを贈った時のように、笑ってくれればいいなと思う。
 髪飾りを入れた白くて丸い箱。表には金文字で店の名前が刻まれ、さらに金色のリボンがかかっている。
 店員が花言葉を教えてくれた。元々知ってはいたが、改めて聞くとこの髪飾りは俺の願望でもあるようだ。込められた意味に気づいた時、君は何を思うのだろうか?

 今日もこの後、公爵家に向かう予定だ。乗馬のレッスンを頼まれているから、一度戻って着替える必要がある。
 フィリアの役に立てることが嬉しい。共に語らう毎日は、充実している。今はまだ、ただの幼なじみでも構わないから。一日も早くセルジュを忘れて、前を向いてほしいと思う。

 ――そして願わくば、君がいつか俺の想いに気づくことを。
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