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1巻
1-2
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『元いた娘は神に仕え、毎日を厳粛に過ごしている』って周囲に説明した方が家名を守るためにもいいはずだ。
それなのに、父も母も弟もどうして反対するのだろう?
そんなことを考えていた私は、ノックの音で我に返った。何だろう、こんな時に。引っ越し用の段ボール箱が届いたのかしら……なんてね。この世界に引っ越し業者なんてもちろんいない。
「どうぞ」
入って来たのは侍女のマーガレットだった。彼女は若いけれど気が利くし、とても美人だ。私はいつも親しみを込めてマーゴと愛称で呼んでいる。
「お嬢様。下に来てお客様にご挨拶をと、旦那様からのお言付けです」
「この時期に来客? いったい誰かしら」
マーゴの言葉に、私は一瞬ドキッとする。まさか、セルジュが先日のことを謝りにでも来たんじゃないでしょうね?
私への悪口は、そう簡単に許せるものではない。夜会での振る舞いや浮気についても同様だ。
あの後、友人達からもセルジュの黒い噂を教えられた。もうすぐ修道院に行く予定だと、お別れの挨拶をして回った時に彼の話が出たのだ。
セルジュに現在も複数の交際相手がいることは、一部では有名なんだそう。婚約中にそんな話を私の耳に入れる者はほとんどいなかったけれど、もう解禁とでも思ったのか、友人達は堰を切ったように次々と彼の悪行を披露してくれた。
あ、思い出したらなんだかムカムカしてきた。やっぱり土下座されたって、セルジュを許すわけにはいかない。
階段を下り、ドキドキしながら応接室の扉を開ける。セルジュはどんな言い訳をしてくるだろう。あんなことをしておきながら、何食わぬ顔で私を丸め込もうとしたりして。
ところが、ドアを開けた途端目に飛び込んできたのは元婚約者のセルジュではなく、一人の見知らぬ男性だった。
「……どなた?」
驚いて本音を呟いてしまう。
父と語らっていた青年は、私が部屋に入ると礼儀正しく立ち上がった。かなり背が高く、しっかりした体躯を持ち、青い上着がよく似合う。これがいわゆる細マッチョというものだろうか?
その青年は、少し癖のある鳶色の髪に、ハッとするほど綺麗な灰青色の目をしていた。灰色に近いその虹彩の奥にあるのは、空色の瞳。さらに光や角度によって微妙に色を変えるそれは神秘的で、吸い込まれそうなほど美しい。他にも陽に灼けた肌と彫りが深く精悍な顔立ちは、セルジュとは違った意味でかなり女性にモテそうだ。
私と目が合うと、青年は目を細めて口元をふっと緩める。途端に硬かった印象が一気に和らいだ。穏やかな笑顔はとても素敵だと思う。
いけない。独身を貫くと決めたのに、ついうっかり見惚れてしまった。男性はもう懲り懲り。自分勝手な婚約者に嫌な思いをさせられたばかりでしょう?
前世と今世、合わせて二回も失敗したんだから、いい加減に学習しなければ。イケメンに近づいてはいけない。
それにしても、全く知らない相手に挨拶しろだなんて。父もどういうつもりなんだろう。
「フィリア、久しぶりだな。元気……なわけはないか。でも、落ち込んでなさそうで良かった」
青年が親しげに話しかけてきた。何だか私を知っているような口ぶりだ。よく響くいい声だけど、聞き覚えはない。
誰だろう? いくら考えても思い出せない。こんなに素敵な人なら、一度会えば忘れるはずがないのに。
直接尋ねるのは失礼だし、マナー違反になるので、本人に名前を聞くことはできない。かといって、名刺交換なんて制度もこの世界にはないから、相手が名乗ってくれるまでじりじり待つしかないようだ。それともさっきの挨拶が、説明代わりなのかしら。
彼の視線を感じて私は焦った。ひょっとして、私が思い出すのを待っている?
ごめんなさい。どこかの夜会でちょこっと会っただけなら記憶にないわ……
私は困って父を見た。知っているなら、彼を紹介してもらいたい。
「フィリア、彼が誰だかわからないのかい?」
うわ、お父様ったらそんなにはっきり言わなくても。
「立派になったからな。そうか、久しぶりだし、お互い自己紹介をしてみてはどうかね」
父は気安い口調で笑って青年に声をかける。こんなに楽しそうな様子は、私が婚約破棄をする前以来だ。
「そうですね。自己紹介をした方がいいかもしれません」
青年の声を聞き、私は彼に意識を戻す。父が笑顔で応対する相手だ。きっとただ者ではないに違いない。
「五年ぶりです、フィリア=レガート嬢。私はレギウス=バルトーク。現在、飛竜騎士団第一部隊に所属する王国騎士です。お忘れですか?」
「レギウス? え、だって……」
私の記憶にある姿とは大きくかけ離れていて驚いてしまう。私の知るレギウスは、セルジュの弟で私より一つ上。当時はもっと線が細くて背も私とあまり変わらないくらいだったし、目の前の彼のように精悍、というよりは少年っぽさが残る綺麗な顔立ちをしていた。
「フィリア、俺を忘れるなんてひどいな」
けれど、こぶしを口元に当てて笑いを噛み殺す癖――その仕草を見た途端、懐かしい思いが一気に溢れ出してくる。
「レギウス!」
笑顔も以前と変わらない。印象的な灰青色の瞳を、私はどうして忘れることができたのだろう? そうだ、彼は確かに私のよく知るレギウスだ。まさかこんなに立派に、たくましく育っていたなんて!
レギウスは、五年前の私とセルジュの婚約発表直後に家を出た。
この国の貴族制度では、家督を継ぐ者以外の取り分が少ない。財産分与による家の弱体化を防ぐためだとも、相続手続きが煩雑にならないようにするためだとも言われており、ゆえに次男や三男は、お金持ちの令嬢と結婚するのが一般的だ。彼らは舞踏会や夜会に頻繁に出席し、相手を探す。うまくいけば逆玉の輿で、もれなく爵位までついてくる。そうでなくても、相手が裕福であれば生活に困ることはない。
最近は、そういった婿入り男性を探す良家の一人娘も増えたと聞く。だから、彼のように恵まれた容姿と家柄にありながら、騎士を志す者はそう多くない。
見習いから王国騎士に昇格したレギウスは、現在この国で最も栄えある飛竜騎士団に所属している。本人の口から聞くのは初めてだから、感慨深いものがあった。
「わ、忘れたわけじゃないわ。思っていたより大きくなってびっくりしただけよ」
慌てて返事をしたせいで、思わず昔の気安い口調が出てしまった。
「変わらないな、君は。桃色の髪も澄んだ緑色の瞳も、あの頃のままだ」
目を細め、思い出の中よりもずっと低い声で彼が言う。
体形は変わったはずだけど……。あえて触れないでくれていると思うので、私も言及しないことにする。先日の夜会の件もあり、私は今さらながらに自分の姿が気になった。
レギウスは成長して素敵になったのに、私は太って醜くなっている。正直、今の姿は過去十九年で一番悪い。修道院に入ればもう会わないだろうレギウスには、小さな頃のほっそりした私を記憶に留めておいてほしかった。
ともかく、凛々しい彼――レギウスは元婚約者セルジュの弟だ。会うなり元気なわけはないかと声をかけてきたくらいだから、兄と私が婚約を破棄したことなど、とうに知っているはず。
彼の訪問の理由は知らないけれど、荷造りに忙しい私は、この辺で失礼させてもらおうかな。
衣類の仕分けがまだ途中だし、本の整理も残っている。所持品のうち不要な物は孤児院などに寄付するつもりなのだ。質素倹約を心がけ、地味な物を選んでカバンに詰め込まなければ。
「父にご用があるのでしょう? 私は荷造りもあるし、この辺で」
部屋を出ようとした私を、しかし父は呼び止めた。
「ああ、フィリア。すまないが、私は書斎に仕事を残してきている。仕上げる間、レギウス君の相手を頼む」
「えっ、私が?」
急にどうしたんだろう? さっきまでのんびり話していたように見えたのに。お客様を後回しにするほど忙しいのだろうか。
そう思って父を見るけれど、笑って肩を竦めるだけだった。父はこうなると口を割らない。
それより、長く会わずにいたレギウスと話を続けられる自信がなかった。見た目もすっかり変わっているし、何だか知らない人みたい。それに私達の間に、共通の話題なんてあったかな。
父も忙しいなら、別の日に会えばいいのに……
「公爵閣下、どうぞお構いなく。フィリアと旧交を温めておきますから」
私の都合はいいのかな。しれっと答えるレギウスにツッコミたくなる気持ちを、咳払いでごまかした。
こちらを見たレギウスは、なぜか楽しそうに笑っている。認めよう、人懐っこい笑顔は以前のレギウスのままだ。だけど、優しく笑う彼は、あのセルジュの弟でもある。おおかた彼に言われて、私の様子を探りにでも来たのだろう。
父が部屋を出るのを待って、私は彼に直接聞いてみることにした。
「それで、本当は何のご用事? 飛竜騎士はお忙しいのでしょう。こんな所で私を相手にしていていいの?」
「久しぶりに長い休暇を取ったから平気だ。それに俺は、公爵ではなく君に会いに来た」
射抜くような彼の視線に、思わずドキッとしてしまう。私は目を逸らそうととっさにうつむき、己の悲しい現実を知ってがっかりした。
三段腹が、服の上からでもよくわかる。私の魅力的な容姿に惹かれたレギウスが、私目当てで我が家を訪れた、という理由ではないだろう。うん、まあわかってはいたけれど。
「何かしら。セルジュに言われて、代わりに謝りに来たの?」
「まさか。あいつもいい大人なんだから、自分のことは自分で何とかすればいい」
顔を歪める彼は、兄のことを良く思っていないようだ。セルジュも弟のことは今までほとんど口にしなかったから、お互い様というところかな。だから私も、現在のレギウスの活躍を知る術がなかったのだ。聞いていたのは飛竜騎士にまで上り詰めたという話だけ。
やっぱりセルジュとレギウスは、最近仲が良くないのかも。
「じゃあどうして?」
「君が女性のための修道院に入るつもりだと聞いて。あそこがどんな場所なのか知っているのか」
「ええ。男子禁制の環境で、神に仕える場所でしょう?」
自分の行く所なのだから、もちろん調べてある。空気が澄んで景色の綺麗な高台にある上、施設自体も新しく清潔だと聞いているから、楽しみだ。
「それだけじゃない。一度入ったら二度と出られない。君が行こうとしている修道院は特に戒律が厳しく、家族といえども異性とは面会できない」
「……え?」
そんな話は初耳だ。いえ、一生そこで過ごすことになるとはチラッと聞いていたけれど、面会もダメだなんて知らなかった。それだと、大好きな父や弟に会えなくなってしまうじゃない。
レギウスの話をよく聞こうと思った私は、彼にソファを勧めた。私の向かいに腰を下ろした彼は、長い足を組んで話を続ける。
「ああ、それから。あそこは朝暗いうちから起き出して水汲みをし、夜遅くまで繕い物や聖典の暗唱をしなければならない。作業が多くてなかなか休めず、寝不足の者が多いという話では有名だな」
「……あれ?」
そ、そんなに厳しいの? 朝も夜も早いって話はどうなったんだろう。貴族の女性も受け入れている場所だから、もっと緩いのかと思っていたのに。
「でも、私の意志は固いもの」
睡眠不足くらいなんだ。そんなの、会社員時代にいくらでも経験している。それに家族と会えなくなると言ったって、どこかにきっと抜け道はあるはず――年に一回祭りの日に会えるとか、許可を取れば面会できるとか。
しかしレギウスは、どういうつもりでこんな話をするのだろう。私の今後なんて、彼には全く関係がないのに。
修道院に入ると言って、友人達とのお別れも済ませてある。今になってきつそうだからやめる、とはどうにも言いづらい。結婚の約束を取りやめただけでなく、修道女になる決意まで変えるのでは、かっこ悪いし、私が自分の考えをころころ変える意志の弱い情けない人間みたいだ。
口を引き結ぶ私を見て、レギウスが髪をかき上げる。
「北端の地にあるので冬も厳しい。石造りの建物らしいから、なおさら冷えるだろう。寒さに震えながら水垢離をするのは、かなりつらそうだ」
「ええっ⁉」
そんな話、全然聞いてないんだけど。修道院が北にあることは知っていたけど、水垢離ってあれでしょ? 冷たい水を被って穢れを取るってやつ。修道女って、そんな荒行をしなくちゃいけないの?
この世界にも日本と同じく四季がある。でも、扇風機やエアコン、ガスストーブはないため、夏は暑く冬は寒い。私は人一倍寒がりのため、特に冬は応える。暖炉の前にかじりつき、そのまま眠ってしまうこともしばしばだ。
そんな私に水を被れというの? すぐに風邪を引きそうだし、しもやけで痒い思いをするのも嫌だなあ。
私の迷う気持ちを読み取ったのか、レギウスが畳みかけてくる。
「婚約を破棄したから修道院に入る――フィリアは本当にそれでいいのか? 一度入ってしまえば戻れない。だったらその前に、兄のセルジュを見返してやる気はないか」
「見返すって……どうやって?」
考える前に、言葉が勝手に口から出ていた。実は私も、そんなことを思わないでもなかったから。
婚約を破棄したのはいいけれど、セルジュがそのことを何とも思っていないようでは悔しい。バカにされっ放しで修道院へ行くなんて、尻尾を巻いて逃げ出すみたいだ。幾度となく自問自答していたことを、レギウスにあっさり言い当てられてしまうなんて。
「そうだな。たとえば今より痩せて、別れたことを後悔させてやるとか」
彼は言い、反応を探るように私を見てきた。
なるほど、その案は悪くない。セルジュにぶら下がっていた女性達のような、ほっそりした体形になれたらどんなにいいだろう。その時になって初めてセルジュは、私と別れたことを後悔するのだ。悪口を言ってすまなかった、君にふさわしい男でなくて申し訳ないと、謝罪だってしてくれるかもしれない。
「そうね、それも悪くはないかしら」
小さな声で呟いた。あ、別に、寒いのが嫌だから考えを改めたわけではないのよ? まあ、全然ないと言ったら嘘になるけれど。
その声を聞き漏らさなかったのか、レギウスが腰かけていたソファから身を乗り出した。彼はそのまま腕を伸ばすと、私の手を包み込むように握ってくる。彼の手は大きくて、丸ぽちゃな私の両手がすっぽり収まった。
「よかった。俺ももちろん協力するから」
ダイエットに? いやいやいや、何をおっしゃるウサギさん。貴方、全く関係ないでしょう。
でも、助言して励ましてくれたことは純粋に嬉しい。自分の兄ではなく、私の味方をしてくれたことも。彼の態度に安心し、私はようやく肩の力を抜いた。
「だから、修道院へ行くのは急がなくてもいいと思う。ここを離れる前に思い残すことがないよう、きちんとしていた方が神も喜ぶ」
「そう……なのかしら。でも私、痩せられるのかな」
レギウスの言葉がだんだんもっともらしく聞こえてきた。特に修道院の話は、自分で調べたことと全く違っていたので不安が残る。彼は飛竜に乗って各地を飛び回っているから、国内外の情報に、私よりはるかに詳しいのだろう。
セルジュの差し金なんじゃないかと、レギウスを疑って悪かった。よく考えれば、兄の味方をするのなら、私を修道院に入れた方が得策なのだ。一度入ってしまえば出られない施設であれば、下手に騒ぎ立てられなくて済むし、兄への苦情も今後一切防ぐことができる。
なのに修道院行きを阻止してダイエットの協力まで申し出てくれるってことは、レギウスは私の味方と思っていいんだよね?
期待を込めて顔を上げた私を、彼が覗き込んできた。
「大丈夫。じゃあ、修道院へ行くのはいったん取りやめ。俺が痩せる手伝いをするってことでいいな」
「ええ、お願いするわね」
修道院に入った後で後悔したくない。それなら入る時期を遅らせて、身辺も体形もスッキリさせた方が精神的にも良さそうだ。うん、何だか元気が出てきたぞ。
休暇中にもかかわらず、我が家を訪ねてくれたレギウスのおかげで自分の目標が見えてきた。彼には感謝をしなければ。
「久しぶりに話せて良かったわ。ところで、貴方の休暇はどのくらいあるの?」
「二ヶ月半だ。今まで休みなく働いていた分、今回まとめて取った」
それってブラック企業並みの労働環境なんじゃあ……
一瞬そう思ったが、さすがに口には出さなかった。代わりにお礼を言っておく。
「元気な姿が見られて安心したわ。いろいろありがとう。持つべきものは幼なじみね」
彼の手から握られたままの自分の手を引き抜きながら、私はニッコリ笑った。
すると、真剣な表情のレギウスが自分の顔をさらに近づけてくる。灰青色の瞳に映る自分を見るのは、何だか不思議な感じがした。
「フィリア、もし俺が……」
「すまない、待たせたようだな」
どことなく張り詰めた空気を破ったのは、父の声だった。私達は慌てて離れると、声の方を振り向く。扉を大きく開けて部屋に入って来た父はようやく仕事を終えたらしいから、この後はレギウスとゆっくり話でもするつもりなのかも。そろそろ私も戻らなくっちゃ。荷造りを途中で放り出して来たから、部屋を片付けないといけない。
私は立ち上がり、応接室を後にする。振り返ってチラッとレギウスを見たところ、彼は元の落ち着いた表情に戻っていた。思い詰めたような感じがしたのは、私の気のせい?
「さっきのはいったい何だったんだろう?」
自分の部屋に戻った私は、それきりそのことを忘れてしまった。
その日の夜、私は修道院行きをいったん白紙に戻すと家族に報告した。飛び上がって喜ぶ両親と弟の姿に、ずいぶん心配をかけていたんだなあと少しだけ罪悪感を覚える。
「良かったわ、フィリア。結婚を諦めたからと言って、必ずしも修道院に入る必要はないのだからね」
お母様、わかっちゃいるけど、自分なりのけじめですので。
「そうだぞ。お前一人くらい何とかなる。何なら一生この家にいたっていいんだ」
いえ、お父様。それはちょっと……っていうか、弟にまで迷惑かけるし、かなり嫌です。
「姉さんくらい養えるよ。頼りにしてくれていい」
弟よ、気持ちは嬉しいけれど、私を養う前に、まずは自分が大きくなろうか。
それに、予定を先延ばしにしただけで、修道院に行かないと決めたわけではない。セルジュから謝罪の言葉を引き出したら、その時改めてという方向に変わっただけだ。
婚約破棄には理由と覚悟があったのだと、セルジュに思い知らせたい。心から悪かったと反省して謝ってくれたなら、そのうち許せる時が来るかもしれないし。
そうして初めて、私は前に進めると思うのだ。
それからの一週間はあっと言う間だった。
修道院に行くはずだった日に、私は伯爵令嬢のカトリーヌを訪ねた。赤い巻き髪で茶色い瞳の彼女は小柄で可愛く、性格もいい。私の自慢の友人だ。
「あらフィリア、いらっしゃい。忙しいはずなのに、わざわざうちに寄ってくれるなんて嬉しいわ。なんだかサッパリした顔をしているわね」
そう言って優しく迎え入れてくれる。急な訪問だったのに、香り高い紅茶とタルトやサブレまで運ばれてきたのを見て、頬が綻んでしまう。
あの夜会の日、セルジュの噂を教えてくれたのは彼女だ。
『フィリア、大丈夫? 貴女の婚約者、今も複数の女性と付き合っているって噂になってるわよ』
他の友人が遠慮して沈黙を貫く中、カトリーヌは私にはっきり忠告してくれた。あの言葉のおかげで私はセルジュの居場所を探す気になり、彼が私の悪口を言っている場所に出くわしたのだ。そういう意味で、カトリーヌには感謝している。セルジュに結婚の日取りを決めてもらおうと、うっかり迫らなくてよかった。
一つ年下のカトリーヌとは気が合うので、いろんなことが話せる。私はさっそく、修道院の件を伝えることにした。
「あのね、先日修道院に行くと話したけれど、保留にしたの。まだ早いというか、セルジュにきちんと謝らせてからにしたくて。私が痩せて綺麗になれば、彼も浮気して悪かったと反省すると思うの」
けれど、私の話を聞いた彼女は顔を曇らせる。
「どうしたの?」
私は尋ねた。お菓子を食べながら痩せようと宣言するのは、説得力がないとツッコむつもりだろうか。それとも、セルジュにこだわる私を笑い飛ばすのかな。
ところがカトリーヌは、『実は……』と前置きすると、とんでもない話を教えてくれた。
「貴女が修道院に行くと言っていたから、黙っていようと思ったんだけど。セルジュ様、いえ、あの男は懲りもせず、貴女や貴女の家の悪口を今も周囲に言いふらしているわよ」
「何ですって!」
婚約を破棄して以降、私は人の集まる場所には顔を出していない。醜態を晒したことを反省しているし、自分にはそんな場所に行く資格がないとわかっているから。
けれど、セルジュは違うらしい。取り巻きや浮気相手を引き連れて、以前と変わらず……いえ、むしろ生き生きと舞踏会に参加しているみたい。
「フィリアが婚約破棄をした後、別の舞踏会で見かけたんだけど、あの男は相変わらずだったわ。女性達を引き連れて楽しそうにしていて、婚約者はどうしたのかと周りに尋ねられたら、偉そうにこう言い返していたわ」
『ブスもブスの家族もとんでもない奴だ。権威をかさに威張るけれど、たいしたことはない。ほとぼりが冷めたら、頭を下げてくるだろう』
『僕は絶対に悪くない。悪いのはすぐに騒ぐあの女とあの家だ。婚約中、僕は彼女に合わせようと努力をした。だけどどうだ? 彼女は何もしていない。だからあんなにぶくぶく太っているんだ』
セルジュは酔っていたらしく、大声でそんなことを喚いていたのだとか。カトリーヌがオブラートに包んで話してくれたため、実際に聞かされたのはもっと優しい表現だ。でも、大体これで合っているはず。だって、親友のカトリーヌがめちゃくちゃ怒っているんだもの。
「あんなにひどいことを言うなんて、本当に信じられないわ! 貴女を蔑ろにしていたことといい、しつこく浮気を繰り返していることといい、本当に顔だけの最低男ね」
「そ、そうね。私の気持ちを代弁してくれてありがとう。貴女がそこまでセルジュを嫌っていたなんて知らなかったわ。私が傷つくと思って、きっと忠告するのを我慢してくれていたのよね」
「それもあるけど、名前を口にするのも嫌だっただけよ。まあ今だから言うけれど、実は私も貴女の婚約者に口説かれたことがあるの。フィリア、あんな男は袖にして正解よ!」
最悪だ。婚約中、セルジュがカトリーヌにまで迫っていたとは。……そうか、だから彼女はセルジュのことを嫌っていたのね。
「ごめんね、カトリーヌ。知らなくて嫌な思いをさせていたわね」
「フィリアが謝ることじゃないわよ。傷ついたとは思うけど、見切りをつけたのはよかったわ。そうでないと、これからも安心して貴女の家に遊びに行けないもの」
その言葉に、思わずほろっときてしまう。カトリーヌは、今後も私と友達でありたいと言ってくれているのだ。傷物として扱われ、社交界から見向きもされなくなった私と。そんな親友の心遣いが嬉しくて、心が温かくなる。
「ありがとう、心の友よ」
潤んだ瞳を見られたくなくて、私は前世で覚えたあの名台詞でごまかすことにした。彼女は当然きょとんとしている。まあいいか。彼女は真実心の友だし。
その後はいつものように、気軽な話題に終始した。カトリーヌも、そろそろ結婚しなさいと親からせっつかれているらしい。毎日のように見合いを勧められ、ほとほと困っているのだとか。
「あっ、私ったら余計な話を。貴女の気持ちも考えずにごめんなさい」
彼女がいきなり自分の口に手を当てる。いや別に。そんなこと、気にしなくていいのよ?
「どうして? 別にいいじゃない。友人の縁談を妬むほど私の心は狭くないつもりよ。独身貴族の現状で満足しているし」
「独身貴族?」
カトリーヌが首を傾げる。いけない、こっちの世界にそんな言葉はなかった。紅茶のカップを皿に戻した私は、ごまかすように優雅に微笑む。と、そこでふと疑問を覚える。
「そうか。今の私は貴族だから、本物の独身貴族よね? でも、修道院に入ったら何て言うんだろう。独身修道女?」
「何それ。修道女はみんな独身だから、『修道女』だけでいいと思うわ」
「あ、そうか」
それなのに、父も母も弟もどうして反対するのだろう?
そんなことを考えていた私は、ノックの音で我に返った。何だろう、こんな時に。引っ越し用の段ボール箱が届いたのかしら……なんてね。この世界に引っ越し業者なんてもちろんいない。
「どうぞ」
入って来たのは侍女のマーガレットだった。彼女は若いけれど気が利くし、とても美人だ。私はいつも親しみを込めてマーゴと愛称で呼んでいる。
「お嬢様。下に来てお客様にご挨拶をと、旦那様からのお言付けです」
「この時期に来客? いったい誰かしら」
マーゴの言葉に、私は一瞬ドキッとする。まさか、セルジュが先日のことを謝りにでも来たんじゃないでしょうね?
私への悪口は、そう簡単に許せるものではない。夜会での振る舞いや浮気についても同様だ。
あの後、友人達からもセルジュの黒い噂を教えられた。もうすぐ修道院に行く予定だと、お別れの挨拶をして回った時に彼の話が出たのだ。
セルジュに現在も複数の交際相手がいることは、一部では有名なんだそう。婚約中にそんな話を私の耳に入れる者はほとんどいなかったけれど、もう解禁とでも思ったのか、友人達は堰を切ったように次々と彼の悪行を披露してくれた。
あ、思い出したらなんだかムカムカしてきた。やっぱり土下座されたって、セルジュを許すわけにはいかない。
階段を下り、ドキドキしながら応接室の扉を開ける。セルジュはどんな言い訳をしてくるだろう。あんなことをしておきながら、何食わぬ顔で私を丸め込もうとしたりして。
ところが、ドアを開けた途端目に飛び込んできたのは元婚約者のセルジュではなく、一人の見知らぬ男性だった。
「……どなた?」
驚いて本音を呟いてしまう。
父と語らっていた青年は、私が部屋に入ると礼儀正しく立ち上がった。かなり背が高く、しっかりした体躯を持ち、青い上着がよく似合う。これがいわゆる細マッチョというものだろうか?
その青年は、少し癖のある鳶色の髪に、ハッとするほど綺麗な灰青色の目をしていた。灰色に近いその虹彩の奥にあるのは、空色の瞳。さらに光や角度によって微妙に色を変えるそれは神秘的で、吸い込まれそうなほど美しい。他にも陽に灼けた肌と彫りが深く精悍な顔立ちは、セルジュとは違った意味でかなり女性にモテそうだ。
私と目が合うと、青年は目を細めて口元をふっと緩める。途端に硬かった印象が一気に和らいだ。穏やかな笑顔はとても素敵だと思う。
いけない。独身を貫くと決めたのに、ついうっかり見惚れてしまった。男性はもう懲り懲り。自分勝手な婚約者に嫌な思いをさせられたばかりでしょう?
前世と今世、合わせて二回も失敗したんだから、いい加減に学習しなければ。イケメンに近づいてはいけない。
それにしても、全く知らない相手に挨拶しろだなんて。父もどういうつもりなんだろう。
「フィリア、久しぶりだな。元気……なわけはないか。でも、落ち込んでなさそうで良かった」
青年が親しげに話しかけてきた。何だか私を知っているような口ぶりだ。よく響くいい声だけど、聞き覚えはない。
誰だろう? いくら考えても思い出せない。こんなに素敵な人なら、一度会えば忘れるはずがないのに。
直接尋ねるのは失礼だし、マナー違反になるので、本人に名前を聞くことはできない。かといって、名刺交換なんて制度もこの世界にはないから、相手が名乗ってくれるまでじりじり待つしかないようだ。それともさっきの挨拶が、説明代わりなのかしら。
彼の視線を感じて私は焦った。ひょっとして、私が思い出すのを待っている?
ごめんなさい。どこかの夜会でちょこっと会っただけなら記憶にないわ……
私は困って父を見た。知っているなら、彼を紹介してもらいたい。
「フィリア、彼が誰だかわからないのかい?」
うわ、お父様ったらそんなにはっきり言わなくても。
「立派になったからな。そうか、久しぶりだし、お互い自己紹介をしてみてはどうかね」
父は気安い口調で笑って青年に声をかける。こんなに楽しそうな様子は、私が婚約破棄をする前以来だ。
「そうですね。自己紹介をした方がいいかもしれません」
青年の声を聞き、私は彼に意識を戻す。父が笑顔で応対する相手だ。きっとただ者ではないに違いない。
「五年ぶりです、フィリア=レガート嬢。私はレギウス=バルトーク。現在、飛竜騎士団第一部隊に所属する王国騎士です。お忘れですか?」
「レギウス? え、だって……」
私の記憶にある姿とは大きくかけ離れていて驚いてしまう。私の知るレギウスは、セルジュの弟で私より一つ上。当時はもっと線が細くて背も私とあまり変わらないくらいだったし、目の前の彼のように精悍、というよりは少年っぽさが残る綺麗な顔立ちをしていた。
「フィリア、俺を忘れるなんてひどいな」
けれど、こぶしを口元に当てて笑いを噛み殺す癖――その仕草を見た途端、懐かしい思いが一気に溢れ出してくる。
「レギウス!」
笑顔も以前と変わらない。印象的な灰青色の瞳を、私はどうして忘れることができたのだろう? そうだ、彼は確かに私のよく知るレギウスだ。まさかこんなに立派に、たくましく育っていたなんて!
レギウスは、五年前の私とセルジュの婚約発表直後に家を出た。
この国の貴族制度では、家督を継ぐ者以外の取り分が少ない。財産分与による家の弱体化を防ぐためだとも、相続手続きが煩雑にならないようにするためだとも言われており、ゆえに次男や三男は、お金持ちの令嬢と結婚するのが一般的だ。彼らは舞踏会や夜会に頻繁に出席し、相手を探す。うまくいけば逆玉の輿で、もれなく爵位までついてくる。そうでなくても、相手が裕福であれば生活に困ることはない。
最近は、そういった婿入り男性を探す良家の一人娘も増えたと聞く。だから、彼のように恵まれた容姿と家柄にありながら、騎士を志す者はそう多くない。
見習いから王国騎士に昇格したレギウスは、現在この国で最も栄えある飛竜騎士団に所属している。本人の口から聞くのは初めてだから、感慨深いものがあった。
「わ、忘れたわけじゃないわ。思っていたより大きくなってびっくりしただけよ」
慌てて返事をしたせいで、思わず昔の気安い口調が出てしまった。
「変わらないな、君は。桃色の髪も澄んだ緑色の瞳も、あの頃のままだ」
目を細め、思い出の中よりもずっと低い声で彼が言う。
体形は変わったはずだけど……。あえて触れないでくれていると思うので、私も言及しないことにする。先日の夜会の件もあり、私は今さらながらに自分の姿が気になった。
レギウスは成長して素敵になったのに、私は太って醜くなっている。正直、今の姿は過去十九年で一番悪い。修道院に入ればもう会わないだろうレギウスには、小さな頃のほっそりした私を記憶に留めておいてほしかった。
ともかく、凛々しい彼――レギウスは元婚約者セルジュの弟だ。会うなり元気なわけはないかと声をかけてきたくらいだから、兄と私が婚約を破棄したことなど、とうに知っているはず。
彼の訪問の理由は知らないけれど、荷造りに忙しい私は、この辺で失礼させてもらおうかな。
衣類の仕分けがまだ途中だし、本の整理も残っている。所持品のうち不要な物は孤児院などに寄付するつもりなのだ。質素倹約を心がけ、地味な物を選んでカバンに詰め込まなければ。
「父にご用があるのでしょう? 私は荷造りもあるし、この辺で」
部屋を出ようとした私を、しかし父は呼び止めた。
「ああ、フィリア。すまないが、私は書斎に仕事を残してきている。仕上げる間、レギウス君の相手を頼む」
「えっ、私が?」
急にどうしたんだろう? さっきまでのんびり話していたように見えたのに。お客様を後回しにするほど忙しいのだろうか。
そう思って父を見るけれど、笑って肩を竦めるだけだった。父はこうなると口を割らない。
それより、長く会わずにいたレギウスと話を続けられる自信がなかった。見た目もすっかり変わっているし、何だか知らない人みたい。それに私達の間に、共通の話題なんてあったかな。
父も忙しいなら、別の日に会えばいいのに……
「公爵閣下、どうぞお構いなく。フィリアと旧交を温めておきますから」
私の都合はいいのかな。しれっと答えるレギウスにツッコミたくなる気持ちを、咳払いでごまかした。
こちらを見たレギウスは、なぜか楽しそうに笑っている。認めよう、人懐っこい笑顔は以前のレギウスのままだ。だけど、優しく笑う彼は、あのセルジュの弟でもある。おおかた彼に言われて、私の様子を探りにでも来たのだろう。
父が部屋を出るのを待って、私は彼に直接聞いてみることにした。
「それで、本当は何のご用事? 飛竜騎士はお忙しいのでしょう。こんな所で私を相手にしていていいの?」
「久しぶりに長い休暇を取ったから平気だ。それに俺は、公爵ではなく君に会いに来た」
射抜くような彼の視線に、思わずドキッとしてしまう。私は目を逸らそうととっさにうつむき、己の悲しい現実を知ってがっかりした。
三段腹が、服の上からでもよくわかる。私の魅力的な容姿に惹かれたレギウスが、私目当てで我が家を訪れた、という理由ではないだろう。うん、まあわかってはいたけれど。
「何かしら。セルジュに言われて、代わりに謝りに来たの?」
「まさか。あいつもいい大人なんだから、自分のことは自分で何とかすればいい」
顔を歪める彼は、兄のことを良く思っていないようだ。セルジュも弟のことは今までほとんど口にしなかったから、お互い様というところかな。だから私も、現在のレギウスの活躍を知る術がなかったのだ。聞いていたのは飛竜騎士にまで上り詰めたという話だけ。
やっぱりセルジュとレギウスは、最近仲が良くないのかも。
「じゃあどうして?」
「君が女性のための修道院に入るつもりだと聞いて。あそこがどんな場所なのか知っているのか」
「ええ。男子禁制の環境で、神に仕える場所でしょう?」
自分の行く所なのだから、もちろん調べてある。空気が澄んで景色の綺麗な高台にある上、施設自体も新しく清潔だと聞いているから、楽しみだ。
「それだけじゃない。一度入ったら二度と出られない。君が行こうとしている修道院は特に戒律が厳しく、家族といえども異性とは面会できない」
「……え?」
そんな話は初耳だ。いえ、一生そこで過ごすことになるとはチラッと聞いていたけれど、面会もダメだなんて知らなかった。それだと、大好きな父や弟に会えなくなってしまうじゃない。
レギウスの話をよく聞こうと思った私は、彼にソファを勧めた。私の向かいに腰を下ろした彼は、長い足を組んで話を続ける。
「ああ、それから。あそこは朝暗いうちから起き出して水汲みをし、夜遅くまで繕い物や聖典の暗唱をしなければならない。作業が多くてなかなか休めず、寝不足の者が多いという話では有名だな」
「……あれ?」
そ、そんなに厳しいの? 朝も夜も早いって話はどうなったんだろう。貴族の女性も受け入れている場所だから、もっと緩いのかと思っていたのに。
「でも、私の意志は固いもの」
睡眠不足くらいなんだ。そんなの、会社員時代にいくらでも経験している。それに家族と会えなくなると言ったって、どこかにきっと抜け道はあるはず――年に一回祭りの日に会えるとか、許可を取れば面会できるとか。
しかしレギウスは、どういうつもりでこんな話をするのだろう。私の今後なんて、彼には全く関係がないのに。
修道院に入ると言って、友人達とのお別れも済ませてある。今になってきつそうだからやめる、とはどうにも言いづらい。結婚の約束を取りやめただけでなく、修道女になる決意まで変えるのでは、かっこ悪いし、私が自分の考えをころころ変える意志の弱い情けない人間みたいだ。
口を引き結ぶ私を見て、レギウスが髪をかき上げる。
「北端の地にあるので冬も厳しい。石造りの建物らしいから、なおさら冷えるだろう。寒さに震えながら水垢離をするのは、かなりつらそうだ」
「ええっ⁉」
そんな話、全然聞いてないんだけど。修道院が北にあることは知っていたけど、水垢離ってあれでしょ? 冷たい水を被って穢れを取るってやつ。修道女って、そんな荒行をしなくちゃいけないの?
この世界にも日本と同じく四季がある。でも、扇風機やエアコン、ガスストーブはないため、夏は暑く冬は寒い。私は人一倍寒がりのため、特に冬は応える。暖炉の前にかじりつき、そのまま眠ってしまうこともしばしばだ。
そんな私に水を被れというの? すぐに風邪を引きそうだし、しもやけで痒い思いをするのも嫌だなあ。
私の迷う気持ちを読み取ったのか、レギウスが畳みかけてくる。
「婚約を破棄したから修道院に入る――フィリアは本当にそれでいいのか? 一度入ってしまえば戻れない。だったらその前に、兄のセルジュを見返してやる気はないか」
「見返すって……どうやって?」
考える前に、言葉が勝手に口から出ていた。実は私も、そんなことを思わないでもなかったから。
婚約を破棄したのはいいけれど、セルジュがそのことを何とも思っていないようでは悔しい。バカにされっ放しで修道院へ行くなんて、尻尾を巻いて逃げ出すみたいだ。幾度となく自問自答していたことを、レギウスにあっさり言い当てられてしまうなんて。
「そうだな。たとえば今より痩せて、別れたことを後悔させてやるとか」
彼は言い、反応を探るように私を見てきた。
なるほど、その案は悪くない。セルジュにぶら下がっていた女性達のような、ほっそりした体形になれたらどんなにいいだろう。その時になって初めてセルジュは、私と別れたことを後悔するのだ。悪口を言ってすまなかった、君にふさわしい男でなくて申し訳ないと、謝罪だってしてくれるかもしれない。
「そうね、それも悪くはないかしら」
小さな声で呟いた。あ、別に、寒いのが嫌だから考えを改めたわけではないのよ? まあ、全然ないと言ったら嘘になるけれど。
その声を聞き漏らさなかったのか、レギウスが腰かけていたソファから身を乗り出した。彼はそのまま腕を伸ばすと、私の手を包み込むように握ってくる。彼の手は大きくて、丸ぽちゃな私の両手がすっぽり収まった。
「よかった。俺ももちろん協力するから」
ダイエットに? いやいやいや、何をおっしゃるウサギさん。貴方、全く関係ないでしょう。
でも、助言して励ましてくれたことは純粋に嬉しい。自分の兄ではなく、私の味方をしてくれたことも。彼の態度に安心し、私はようやく肩の力を抜いた。
「だから、修道院へ行くのは急がなくてもいいと思う。ここを離れる前に思い残すことがないよう、きちんとしていた方が神も喜ぶ」
「そう……なのかしら。でも私、痩せられるのかな」
レギウスの言葉がだんだんもっともらしく聞こえてきた。特に修道院の話は、自分で調べたことと全く違っていたので不安が残る。彼は飛竜に乗って各地を飛び回っているから、国内外の情報に、私よりはるかに詳しいのだろう。
セルジュの差し金なんじゃないかと、レギウスを疑って悪かった。よく考えれば、兄の味方をするのなら、私を修道院に入れた方が得策なのだ。一度入ってしまえば出られない施設であれば、下手に騒ぎ立てられなくて済むし、兄への苦情も今後一切防ぐことができる。
なのに修道院行きを阻止してダイエットの協力まで申し出てくれるってことは、レギウスは私の味方と思っていいんだよね?
期待を込めて顔を上げた私を、彼が覗き込んできた。
「大丈夫。じゃあ、修道院へ行くのはいったん取りやめ。俺が痩せる手伝いをするってことでいいな」
「ええ、お願いするわね」
修道院に入った後で後悔したくない。それなら入る時期を遅らせて、身辺も体形もスッキリさせた方が精神的にも良さそうだ。うん、何だか元気が出てきたぞ。
休暇中にもかかわらず、我が家を訪ねてくれたレギウスのおかげで自分の目標が見えてきた。彼には感謝をしなければ。
「久しぶりに話せて良かったわ。ところで、貴方の休暇はどのくらいあるの?」
「二ヶ月半だ。今まで休みなく働いていた分、今回まとめて取った」
それってブラック企業並みの労働環境なんじゃあ……
一瞬そう思ったが、さすがに口には出さなかった。代わりにお礼を言っておく。
「元気な姿が見られて安心したわ。いろいろありがとう。持つべきものは幼なじみね」
彼の手から握られたままの自分の手を引き抜きながら、私はニッコリ笑った。
すると、真剣な表情のレギウスが自分の顔をさらに近づけてくる。灰青色の瞳に映る自分を見るのは、何だか不思議な感じがした。
「フィリア、もし俺が……」
「すまない、待たせたようだな」
どことなく張り詰めた空気を破ったのは、父の声だった。私達は慌てて離れると、声の方を振り向く。扉を大きく開けて部屋に入って来た父はようやく仕事を終えたらしいから、この後はレギウスとゆっくり話でもするつもりなのかも。そろそろ私も戻らなくっちゃ。荷造りを途中で放り出して来たから、部屋を片付けないといけない。
私は立ち上がり、応接室を後にする。振り返ってチラッとレギウスを見たところ、彼は元の落ち着いた表情に戻っていた。思い詰めたような感じがしたのは、私の気のせい?
「さっきのはいったい何だったんだろう?」
自分の部屋に戻った私は、それきりそのことを忘れてしまった。
その日の夜、私は修道院行きをいったん白紙に戻すと家族に報告した。飛び上がって喜ぶ両親と弟の姿に、ずいぶん心配をかけていたんだなあと少しだけ罪悪感を覚える。
「良かったわ、フィリア。結婚を諦めたからと言って、必ずしも修道院に入る必要はないのだからね」
お母様、わかっちゃいるけど、自分なりのけじめですので。
「そうだぞ。お前一人くらい何とかなる。何なら一生この家にいたっていいんだ」
いえ、お父様。それはちょっと……っていうか、弟にまで迷惑かけるし、かなり嫌です。
「姉さんくらい養えるよ。頼りにしてくれていい」
弟よ、気持ちは嬉しいけれど、私を養う前に、まずは自分が大きくなろうか。
それに、予定を先延ばしにしただけで、修道院に行かないと決めたわけではない。セルジュから謝罪の言葉を引き出したら、その時改めてという方向に変わっただけだ。
婚約破棄には理由と覚悟があったのだと、セルジュに思い知らせたい。心から悪かったと反省して謝ってくれたなら、そのうち許せる時が来るかもしれないし。
そうして初めて、私は前に進めると思うのだ。
それからの一週間はあっと言う間だった。
修道院に行くはずだった日に、私は伯爵令嬢のカトリーヌを訪ねた。赤い巻き髪で茶色い瞳の彼女は小柄で可愛く、性格もいい。私の自慢の友人だ。
「あらフィリア、いらっしゃい。忙しいはずなのに、わざわざうちに寄ってくれるなんて嬉しいわ。なんだかサッパリした顔をしているわね」
そう言って優しく迎え入れてくれる。急な訪問だったのに、香り高い紅茶とタルトやサブレまで運ばれてきたのを見て、頬が綻んでしまう。
あの夜会の日、セルジュの噂を教えてくれたのは彼女だ。
『フィリア、大丈夫? 貴女の婚約者、今も複数の女性と付き合っているって噂になってるわよ』
他の友人が遠慮して沈黙を貫く中、カトリーヌは私にはっきり忠告してくれた。あの言葉のおかげで私はセルジュの居場所を探す気になり、彼が私の悪口を言っている場所に出くわしたのだ。そういう意味で、カトリーヌには感謝している。セルジュに結婚の日取りを決めてもらおうと、うっかり迫らなくてよかった。
一つ年下のカトリーヌとは気が合うので、いろんなことが話せる。私はさっそく、修道院の件を伝えることにした。
「あのね、先日修道院に行くと話したけれど、保留にしたの。まだ早いというか、セルジュにきちんと謝らせてからにしたくて。私が痩せて綺麗になれば、彼も浮気して悪かったと反省すると思うの」
けれど、私の話を聞いた彼女は顔を曇らせる。
「どうしたの?」
私は尋ねた。お菓子を食べながら痩せようと宣言するのは、説得力がないとツッコむつもりだろうか。それとも、セルジュにこだわる私を笑い飛ばすのかな。
ところがカトリーヌは、『実は……』と前置きすると、とんでもない話を教えてくれた。
「貴女が修道院に行くと言っていたから、黙っていようと思ったんだけど。セルジュ様、いえ、あの男は懲りもせず、貴女や貴女の家の悪口を今も周囲に言いふらしているわよ」
「何ですって!」
婚約を破棄して以降、私は人の集まる場所には顔を出していない。醜態を晒したことを反省しているし、自分にはそんな場所に行く資格がないとわかっているから。
けれど、セルジュは違うらしい。取り巻きや浮気相手を引き連れて、以前と変わらず……いえ、むしろ生き生きと舞踏会に参加しているみたい。
「フィリアが婚約破棄をした後、別の舞踏会で見かけたんだけど、あの男は相変わらずだったわ。女性達を引き連れて楽しそうにしていて、婚約者はどうしたのかと周りに尋ねられたら、偉そうにこう言い返していたわ」
『ブスもブスの家族もとんでもない奴だ。権威をかさに威張るけれど、たいしたことはない。ほとぼりが冷めたら、頭を下げてくるだろう』
『僕は絶対に悪くない。悪いのはすぐに騒ぐあの女とあの家だ。婚約中、僕は彼女に合わせようと努力をした。だけどどうだ? 彼女は何もしていない。だからあんなにぶくぶく太っているんだ』
セルジュは酔っていたらしく、大声でそんなことを喚いていたのだとか。カトリーヌがオブラートに包んで話してくれたため、実際に聞かされたのはもっと優しい表現だ。でも、大体これで合っているはず。だって、親友のカトリーヌがめちゃくちゃ怒っているんだもの。
「あんなにひどいことを言うなんて、本当に信じられないわ! 貴女を蔑ろにしていたことといい、しつこく浮気を繰り返していることといい、本当に顔だけの最低男ね」
「そ、そうね。私の気持ちを代弁してくれてありがとう。貴女がそこまでセルジュを嫌っていたなんて知らなかったわ。私が傷つくと思って、きっと忠告するのを我慢してくれていたのよね」
「それもあるけど、名前を口にするのも嫌だっただけよ。まあ今だから言うけれど、実は私も貴女の婚約者に口説かれたことがあるの。フィリア、あんな男は袖にして正解よ!」
最悪だ。婚約中、セルジュがカトリーヌにまで迫っていたとは。……そうか、だから彼女はセルジュのことを嫌っていたのね。
「ごめんね、カトリーヌ。知らなくて嫌な思いをさせていたわね」
「フィリアが謝ることじゃないわよ。傷ついたとは思うけど、見切りをつけたのはよかったわ。そうでないと、これからも安心して貴女の家に遊びに行けないもの」
その言葉に、思わずほろっときてしまう。カトリーヌは、今後も私と友達でありたいと言ってくれているのだ。傷物として扱われ、社交界から見向きもされなくなった私と。そんな親友の心遣いが嬉しくて、心が温かくなる。
「ありがとう、心の友よ」
潤んだ瞳を見られたくなくて、私は前世で覚えたあの名台詞でごまかすことにした。彼女は当然きょとんとしている。まあいいか。彼女は真実心の友だし。
その後はいつものように、気軽な話題に終始した。カトリーヌも、そろそろ結婚しなさいと親からせっつかれているらしい。毎日のように見合いを勧められ、ほとほと困っているのだとか。
「あっ、私ったら余計な話を。貴女の気持ちも考えずにごめんなさい」
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「どうして? 別にいいじゃない。友人の縁談を妬むほど私の心は狭くないつもりよ。独身貴族の現状で満足しているし」
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「そうか。今の私は貴族だから、本物の独身貴族よね? でも、修道院に入ったら何て言うんだろう。独身修道女?」
「何それ。修道女はみんな独身だから、『修道女』だけでいいと思うわ」
「あ、そうか」
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