乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる

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エピローグ マジLOVE966(クロム)%

本気の想い 1

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 今日は私、カトリーナの十六回目の誕生日。
 淡い紫色のシフォンのドレスに、ピンクダイヤモンドの首飾り。淡い金色の髪には、紫色の薔薇の髪飾りを付けている。化粧も薄くほどこされ、唇はふっくら桜色。目元を強調したおかげで、紫色の瞳が大きく見えていた。

 きらびやかなシャンデリアと金の飾りが付いた白い壁の大広間には、多くの貴族が集まっているはずだ。
 

 ちなみにこの日、乙女ゲームの『バラミラ』では、攻略対象との個別ルートが確定する。カトリーナを連れて現れた相手との、ゲームの後半部分がスタートするのだ。

 でももう、攻略対象は関係ない。
 だって私は今、大好きな人と腕を組んでいる。

「ストーリーをれたから、心配はらないはずよ」
「カトリーナ、どうした?」
「いいえ、なんでもないわ」

 低い声でささやかれ、慌てて首を横に振る。
 かたわらの彼を見上げた私は、まぶしさに目を細めた。

 彫りの深い横顔と絵になる立ち姿。
 銀の刺繍ししゅうが麗しい黒の上下に黒いシャツに、白のクラバットが華やかさを添えている。

 スタイルがいいので何を着ても似合うけど、今日の姿はまた格別だ。だってこの衣装は、ゲームやファンブックにも出てこない。

 ――今日のパートナーを引き受けてくれて、本当に良かった!

「クロム様」

 ドキドキしながら呼びかけた。
 彼は私の顔をのぞき込むと、紫色の薔薇の髪飾りに手を触れる。

「どうした? まさか、緊張しているのか?」

 そう、パートナーはクロム様。
 幸せで胸がはち切れそう!
 
「いいえ、平気よ」

 ――あなたがいるから。あなたがここにいるだけで、私の気分は絶好調!

 髪飾りの上にある彼の手に手を添えて、ふふふと笑う。
 なぜならこの髪飾りは、クロム様が私に贈ってくれたのだ。

 つい先日、「まともに稼いだ金で買った」と、少し照れながらプレゼントしてくれた。使うのがもったいない気もしたが、見せびらかしたいという欲には勝てなかった。

 こんなに幸せでいいのかしら。

「そろそろだ。準備はいいか?」
「ええ」

 たくましい彼の腕に手を添えて、両開きの扉に近づく。
 大きく開いたその瞬間、私は最愛の人とともに、光の中へ足を踏み出した。



 ファーストダンスは、もちろんクロム様と。
 優雅なステップを踏む彼は、元々運動神経がよく動きもなめらかだ。
 ようやく一緒に踊れたので、私の胸は熱くなる。

「クロム様……」
「カトリーナ」

 かすれた声で、私の名を呼ぶクロム様。笑みを含んだ赤い瞳が尊くて、心臓が身体からはみ出そう。
 淡い紫色のドレスのすそが、ターンのたびにを描く。

 ――このままずっと彼の腕の中にいられたら、どんなにいいかしら。

「クロムしゃ……」

 どさくさ紛れにぴったりくっつこうとした瞬間、曲が終わった。

 ――おのれ~楽団め~。気を効かせて、同じ曲を二十回ほど繰り返せばいいものを。

 クロム様は礼儀正しく挨拶すると、あっさり離れてしまう。
 続けて踊っていいのは、婚約者か配偶者だけ。

「私としては、次もお願いしたいくらいだけど……」

 人が大勢いるので、追いすがるのはやめておく。
 ようやく気を許してくれた段階で、無理に迫ってはいけない。残念ながら、私の好きとクロム様の好きは違うのだ。

 微笑みの先も見てみたい。
 大それた望みだとわかっているが、彼が私に恋をしてくれたなら……。

「待って。クロム様が私のパートナーを引き受けてくださったのって、好意じゃなくって同情!?」

 首をひねった私に、赤と黒の衣装をまとったハーヴィーが手を差し出した。

「カトリーナ、踊ってくれる?」
「ええ、お兄様!」

 絶叫後、兄は数日間私に近寄らなかった。
 でも最近は、以前のように接してくれている。

 もちろん私も。
 いくら推しが尊くても、自分の部屋以外では叫ばないように気をつけていた。

「カトリーナ、誕生日おめでとう。大人になったお前はますます美しい」
「まあ、お兄様ったら。過分な褒め言葉ですが、ありがたく受け取っておきますね」

 大人っぽく、品良く振る舞う。
 本来は、従兄妹いとこ同士の私達。
 無事に成人できたのは、彼のおかげでもある。

「――は、年上が好きなのかい?」
「……え?」
「カトリーナは、年上の男性が好き?」
「ええっと……そうですね」

 ――お兄様ったら、いきなり何を言うのだろう?

 クロム様の年齢は、たぶん二十歳過ぎ。
 年上といえば年上だけど、私はクロム様が好き!

「カトリーナ、私も年上だよ」
「そうね。だって、私のですもの」

 変なハーヴィーね。
 このセリフはゲームにないので、とっくにシナリオからは外れているようだ。

「良かった」

 攻略対象達とは恋愛関係にならなかったし、サブキャラで暗殺者だったクロム様も足を洗った。そして私は生きていて、何より彼が側にいる!!
 
 成人するより、そっちの方がよっぽど嬉しい。

 最後のターンを終えて離れる間際、兄が私の手を強く握った。
 クロム様の視線を感じたのは、私の気のせい!?
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