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第四章 残酷な組織のテーゼ
悪役令嬢?の主張
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廊下をずんずん歩いていると、はるか前方に青いスカートが見えた。
ひょっとして、クラリスでは?
「クラリス、待ちなさい!」
その女性が、ぎくりと立ちどまる。
やっぱり、クラリスだ!
なりふり構わず突進し、逃げないように腕を取る。
「話を聞かせてもらうわよ。こっちにいらっしゃい」
そのまま手を離さずに空き部屋に入室。
後ろ手に扉を閉めた。
「クラリス、会えて嬉しいわ。ちょうどあなたを探していたの」
出口を背にして腕を組み、真っ向から睨みつけた。
クラリスはうつむき、スカートを両手で握りしめている。
――クロム様に大怪我を負わせておきながら、この態度はなんなのよ!
「クラリス。研究塔での出来事を忘れたとは言わせないわ。どうして私を、あんなところに置き去りにしたのっ」
「…………から」
「はあ? 聞こえないわ。はっきりしゃべりなさい」
顔を上げたクラリスが、私の視線をまっすぐ受けとめた。
「カトリーナを連れてきたら協力してもいいと、アルバーノが言ったから」
「協力って、なんの協力? 言っとくけど、ルシウスと私をくっつけたいっていう嘘には騙されないからね」
「……じゃない」
「え? 何?」
「嘘じゃない、本当よ!」
「いやいや、おかしいでしょ。どこの世界に自分の推しを、別の女性とくっつけたがる物好きがいるのよ!」
ルシウスに憧れているのはクラリスで、私じゃない。
それに彼女は、私の想いも知っている。
「だって私の一番は、ルシウス様と……あなたよ!」
「へ? 私!?」
たまらず目を限界まで開く。
クラリスは、女子も好きな人?
それとも私が素を出しすぎて、男っぽかった?
決して平らな胸のせいではない……と、思いたい。
「ええ。私はルシウス様というより、ヒロインといるルシウス様が好きだった。カトリーナの相手はルシウス様。彼以外はあり得ないわ!」
「…………はい?」
――ちょっと待ってね。頭の中を整理する時間が必要だから。
私はクロム様ひとすじの、いわゆる単推し。
てっきりクラリスもそうだと思っていたけれど、彼女は複数推し?
いや、これは……。
「クラリス、あなたもしやヒロインとルシウスのカップル以外は認めないっていう考え?」
「さすがはカトリーナね。そう、私はカップリング重視の『推しカプ派』よ」
「なんと!」
前世で私の周りいたのは、キャラクター単体や複数のキャラを好きになる『推しキャラ派』。世の中には、カップルを応援する『推しカプ派』もいる。
思い込みって恐ろしい。
転生した者同士気が合ったので、私はクラリスも自分と同じ『推しキャラ派』だと、信じて疑わなかったのだ。
まさかクラリスがカップル推しで、私達がくっつくことを望んでいたなんて――。
「早く言ってよ~~」
「だって、とても言い出せるような雰囲気じゃなかったでしょう? だから、クロムのことばかり語るあなたの気を変えるには、まず外堀を埋める必要があると思ったの」
「そんなあ」
よりによってその外堀に、アルバーノを選ぶとは。
クラリスいわく、私のためを思って、とのこと。
悪気がない分余計に質が悪いし、私にとっては迷惑でしかない。
クラリスに、組織の存在とアルバーノがしでかしたことを伝えた。
すると、彼女の顔色がみるみる青に変わっていく。
「おかしいわ! アルバーノはヘルプ係でしょう?」
「私の記憶でもそうよ。でも、事実なの」
「じゃあ、私のせいであなたが危険な目に?」
「私のことはいいの。大変だったのはクロム様よ」
「クロムがどうかした?」
彼の怪我は、わざと伏せられている。
「クロム様はアルバーノの攻撃で大怪我を負って、現在も療養中よ。万が一のことがあれば、私はあなたを許さない」
きっぱりした口調で言い放つと、クラリスはますます青ざめた。
「そんな……」
「まあ、ご本人は良くなったと言っているし、私にも悪いところがあったのは認める。推しを変えるつもりはないけれど、クロム様への愛を連呼するのは、今後ちょっぴり自重するわ」
「カトリーナ、私……」
ここまで大変な事態になるとは予測していなかったのだろう。
「この件はこれで終わり」と伝えると、クラリスは泣きそうな顔で笑っていた。
そのアルバーノ。
懸命な捜索にも拘わらず、居場所は依然として判明しない。
気がつけば、事件から十日も過ぎていた。
「アルバーノは、王族とも縁のあるメリック公爵家の長男よね。代々我が国を支えてきた功績があるとはいえ、そろそろ公にしないと危険だわ」
ちなみに彼の弟、第三国家騎士団長のタールは、見事なまでに打ちひしがれている。解任されていないものの、身内の捜索には加われない。
周囲に負い目を感じるせいか、タールの表情は暗く緑の瞳は光を失い、頬もげっそりこけていた。
ひょっとして、クラリスでは?
「クラリス、待ちなさい!」
その女性が、ぎくりと立ちどまる。
やっぱり、クラリスだ!
なりふり構わず突進し、逃げないように腕を取る。
「話を聞かせてもらうわよ。こっちにいらっしゃい」
そのまま手を離さずに空き部屋に入室。
後ろ手に扉を閉めた。
「クラリス、会えて嬉しいわ。ちょうどあなたを探していたの」
出口を背にして腕を組み、真っ向から睨みつけた。
クラリスはうつむき、スカートを両手で握りしめている。
――クロム様に大怪我を負わせておきながら、この態度はなんなのよ!
「クラリス。研究塔での出来事を忘れたとは言わせないわ。どうして私を、あんなところに置き去りにしたのっ」
「…………から」
「はあ? 聞こえないわ。はっきりしゃべりなさい」
顔を上げたクラリスが、私の視線をまっすぐ受けとめた。
「カトリーナを連れてきたら協力してもいいと、アルバーノが言ったから」
「協力って、なんの協力? 言っとくけど、ルシウスと私をくっつけたいっていう嘘には騙されないからね」
「……じゃない」
「え? 何?」
「嘘じゃない、本当よ!」
「いやいや、おかしいでしょ。どこの世界に自分の推しを、別の女性とくっつけたがる物好きがいるのよ!」
ルシウスに憧れているのはクラリスで、私じゃない。
それに彼女は、私の想いも知っている。
「だって私の一番は、ルシウス様と……あなたよ!」
「へ? 私!?」
たまらず目を限界まで開く。
クラリスは、女子も好きな人?
それとも私が素を出しすぎて、男っぽかった?
決して平らな胸のせいではない……と、思いたい。
「ええ。私はルシウス様というより、ヒロインといるルシウス様が好きだった。カトリーナの相手はルシウス様。彼以外はあり得ないわ!」
「…………はい?」
――ちょっと待ってね。頭の中を整理する時間が必要だから。
私はクロム様ひとすじの、いわゆる単推し。
てっきりクラリスもそうだと思っていたけれど、彼女は複数推し?
いや、これは……。
「クラリス、あなたもしやヒロインとルシウスのカップル以外は認めないっていう考え?」
「さすがはカトリーナね。そう、私はカップリング重視の『推しカプ派』よ」
「なんと!」
前世で私の周りいたのは、キャラクター単体や複数のキャラを好きになる『推しキャラ派』。世の中には、カップルを応援する『推しカプ派』もいる。
思い込みって恐ろしい。
転生した者同士気が合ったので、私はクラリスも自分と同じ『推しキャラ派』だと、信じて疑わなかったのだ。
まさかクラリスがカップル推しで、私達がくっつくことを望んでいたなんて――。
「早く言ってよ~~」
「だって、とても言い出せるような雰囲気じゃなかったでしょう? だから、クロムのことばかり語るあなたの気を変えるには、まず外堀を埋める必要があると思ったの」
「そんなあ」
よりによってその外堀に、アルバーノを選ぶとは。
クラリスいわく、私のためを思って、とのこと。
悪気がない分余計に質が悪いし、私にとっては迷惑でしかない。
クラリスに、組織の存在とアルバーノがしでかしたことを伝えた。
すると、彼女の顔色がみるみる青に変わっていく。
「おかしいわ! アルバーノはヘルプ係でしょう?」
「私の記憶でもそうよ。でも、事実なの」
「じゃあ、私のせいであなたが危険な目に?」
「私のことはいいの。大変だったのはクロム様よ」
「クロムがどうかした?」
彼の怪我は、わざと伏せられている。
「クロム様はアルバーノの攻撃で大怪我を負って、現在も療養中よ。万が一のことがあれば、私はあなたを許さない」
きっぱりした口調で言い放つと、クラリスはますます青ざめた。
「そんな……」
「まあ、ご本人は良くなったと言っているし、私にも悪いところがあったのは認める。推しを変えるつもりはないけれど、クロム様への愛を連呼するのは、今後ちょっぴり自重するわ」
「カトリーナ、私……」
ここまで大変な事態になるとは予測していなかったのだろう。
「この件はこれで終わり」と伝えると、クラリスは泣きそうな顔で笑っていた。
そのアルバーノ。
懸命な捜索にも拘わらず、居場所は依然として判明しない。
気がつけば、事件から十日も過ぎていた。
「アルバーノは、王族とも縁のあるメリック公爵家の長男よね。代々我が国を支えてきた功績があるとはいえ、そろそろ公にしないと危険だわ」
ちなみに彼の弟、第三国家騎士団長のタールは、見事なまでに打ちひしがれている。解任されていないものの、身内の捜索には加われない。
周囲に負い目を感じるせいか、タールの表情は暗く緑の瞳は光を失い、頬もげっそりこけていた。
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