乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる

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第二章 ムーンライト暗殺

一気に攻略!?

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 心配そうなみんなに気づき、私は慌てて下を向く。

 ――いけない。推しにかまけている場合じゃなかったわ。ルシウス、タール、ハーヴィーの好感度を上げなければ、運命の日に間に合わない!

 クロム様とはそこそこ親しくなったけど、彼らの好意が低ければ、うっかり暗殺されてしまうかもしれない。
 推しを幸せにしたい私が、彼を苦しめてどうするの。
 悲しい思いをさせないためにも、今日だけは推しを、頭の隅に追いやろう。

 そんな決意した私の手に、誰かが指を絡めた。

「えっと、ルシウス様?」
「カトリーナは危なっかしいから、僕が側にいてあげるね」
「ありが……」

 お礼を言いかけ、考える。

 ――これって、好感度が上がった証拠よね? 

 何度もプレイしたからこそ、よくわかる。
『バラミラ』は攻略対象がヒロインに好意を抱くと、別画面で棒グラフが上昇した。それに伴い、行動も積極的になっていく。

 元から積極的だけど、これって恋人つなぎだ!

 このままだと、ルシウスの好感度だけが上がってしまう。そうなると他がぐいぐい下がるので、最悪ゼロになってしまうかも。

「ありがたいのですが、どうぞお構いなく」
「遠慮しないで。こうすれば、互いに友好も深められるしね」

 私は顔を引きつらせつつ、視線で兄に助けを求めた。
 するとハーヴィーはにっこり笑い、反対側の手を繋ぐ。

「えええー!?」
「こうすれば、迷子にならないよ」

 当然のように言われたけれど、最後に迷子になったのは、相当昔だ。
 クラリスは悪役令嬢なのに、私達から距離を取っている。

「じゃあ俺は、カトリーナ様の服でいいです」
「……は?」

 わけがわからず後ろを見ると、タールが私のスカート部分の生地をまんでいた。

 右にルシウス左にハーヴィー、後ろにタール。
 この状況は『街中デート』どころか、連行される宇宙人……。

 好感度をかせげたような気もするけれど、これだと非常に歩きにくい。

「おっと危ない。もう少し中を歩こうか。珍しいものがいろいろあって、楽しいね」

 ルシウスは、私を人波からかばってくれたり、出店の前で立ちどまってくれたり。

「カトリーナに、これをあげよう」
「まあ、ありがとうございます」

 兄は、ふちが紫色で中が白の可愛らしい花を買ってプレゼントしてくれた。

 これはハーヴィーとの街中デートに出てくる花で、サクラソウとも呼ばれるプリムラの一種。花言葉は『信頼・無言の愛』。ハーヴィーのファンが、「後から意味がわかった」と絶叫していたから、よく覚えている。

「カトリーナ様、これ、美味しいですよ」

 ちなみにタールは大粒の葡萄ぶどうで、ファンには「ター坊らしい」と微笑まれていた。

「ありがとう。でも、今はちょっと……」

 せっかくのプレゼントも、両手がふさがっているので受け取れない。

「じゃあ、カトリーナ様。あ~ん」
「あ~ん」

 つられて口を開けると、タールが皮ごと食べられる緑色のマスカットを、中に放り込んでくれた。

「……ん。美味しいわ!」
「でしょう!」

 タールが私にキラキラした目を向ける。
 この部分は、タールとの食べ歩きデートで出てきたシーン。

 攻略対象を一人に絞らなかったためなのか、それぞれとのデートが一気に再現されている。覚えている場面とはちょっと違うけど、攻略対象との『街中イベント』は達成されそうだ。

 好感度はもう十分なので、そろそろまともに歩きたい。
 それでなくとも、先ほどからクラリスや周りの視線がビシバシ突き刺さる。

 イケメンをはべらせているせいか、道行く女性はうらやましそうな目を、男性にはいぶかしげな顔を向けられる。
 食べものを買い求めては私の口に入れようとするタールのせいで、子供達には笑われていた。

「あのぉ、さすがに恥ずかしいのですが……」
「そう? カトリーナは、照れた顔も魅力的だよ」
「俺もそう思います」
「ああ。大丈夫、お前はどんな時でも可愛いよ」

 ――ちーがーうー。そんなこと、気にしているんじゃないのに。

 手を放してって言ったのに、遠回しではダメみたい。
 クラリスは鼻で笑い、ルシウスのすぐ横を歩いている。

 この感じ、ちょっぴり悪役令嬢!?



 離してもらおうと周囲を窺ったその時、黒りの馬車が遠くに見えた。街中でもスピードを落とすつもりはないらしく、我がもの顔で走ってくる。

「見て! 馬車がこっちに来るわ」
「ここにいては危険だ」
「みんな、あちらへ」

 タールの誘導で道のはしに移動。 
 ホッとしたところで、目の端に何かが映った。

 灰色のローブを着た人が道の真ん中に立っている。
 手元の地図に集中しているらしく、馬車に気づいていない!

「危ない、そこから離れて!」

 呼びかけても動かないので、私は力任せにルシウスとハーヴィーの手を振りほどく。

「カトリーナ!!」

 間近に迫る暴走馬車。
 ローブの人が顔を上げたが、もう遅い。

「危ないっ」

 私は馬車の前におどり出て、その人を勢いよく突き飛ばした。
 恐怖にゆが御者ぎょしゃの顔。
 直後、身体中に痛みが走った。
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