乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる

文字の大きさ
上 下
18 / 70
第二章 ムーンライト暗殺

一枚の絵

しおりを挟む
 近頃ずっと、勉強部屋以外でクロム様と会えない。

「おかしいわ。こんなに探しているのに、お姿を見かけないなんて。担当女官に確認したけど、ご病気ではないようだし……」

 推しと親密になる予定が、勉強に関する話題しか持ち出せないまま、日々がどんどん過ぎていく。

「外出したご様子はないのに、いったいどこにいらっしゃるのかしら?」

 庭園にも現れず、図書室や食堂にもいない。
 念のため城の武器庫も見てみたが、影も形もなかった。

 必死の捜索にはわけがある。
 推しに会いたいのもそうだけど、一番は私の命がかかっているからだ。

 複数の命を持つヒロインでも、暗殺は一度でゲームオーバー。攻略対象全員の好感度を上げておけば回避できるけど、現状では確認するすべがない。

 そこで私は、クロム様とのきずなを直接深めようと考えたのだ。

 そですそに白いフリルが付いた薄紫色のドレスを着て、推しを求めて城中を練り歩く。人気のない廊下の奥に、ようやく目当ての男性を発見した。

「クロ……」

 呼びかけて、慌てて口をつぐむ。
 なぜならクロム様が、一枚の絵にじっと見入っていたから。

「ここだったのかあ~~」

 てっきり美術館だと思っていたのに、城の廊下だったみたい。
 オープニングの人影はクロム様で間違いないけれど、肝心の場所が違っていたようだ。

 城にも美術館同様、いろんな種類の絵画が展示されている。好きな時に眺められるし、あの一画は確か、国内外の高名な画家の作品だ。

「さすがはクロム様、お目が高いわ! この数日お姿を見かけなかったのって、こちらにいらしたからかしら?」

 そうだとすると、これこそ彼が絵を眺めるシーンだ。

 ――好きな人の好きな絵画は、なんだろう?
 
 そろりそろりと近づくけれど、廊下の半分ほどを過ぎたところで、ぎくりと立ち止まる。

 ――彫りの深い横顔に光るのは……涙?

 神聖な空間と、神がかった尊いお姿。
 絵を夢中で眺めるクロム様に、何があったの?

 奇跡の瞬間に立ち会えたものの、私は息を潜めて見守った。



「やあ、カトリーナ。何しているの?」
「ひゃっ」

 振り向くと声の主はルシウスで、にこにこしながら立っていた。
 前方の推しが気になるけれど、国賓こくひんの彼も無視できない。

「ルシウス様、ごきげんよう」

 ドレスのスカートをまみ、失礼にならない程度に素早くお辞儀。慌てて後ろを向くと、クロム様の姿は消えていた。

「そんなあ……」

 結局どの絵かわからない。
 こんなことならぐずぐずしないで、さっさと確認しておけば良かったわ。
 遅きに失した感じだが、廊下の絵を確認しに行く。
 
「どの絵がお好きか、直接尋ねられたらいいのに」

 でもそれでは、涙を見てしまったと白状することになる。
 気まずくなって避けられるのは嫌なので、自分で探そう。

「カトリーナ?」
「うわっ。ルシウス様、まだいらし……いえ、ルシウス様も絵画にご興味が?」
「絵画と言うより、君に興味があるかな」
「ほほほ」

 この場面に彼がいた覚えはないので、とりあえず笑ってごまかした。

 ――おかしい。このルシウス、ゲームよりも積極的だわ。

 けれど、ここはクロム様。
 気にせず調査を続行しようと、有名な画家の絵を見上げた。
 
「これは聖母がモチーフの作品ね。こっちは?」

 視線の先には、母子の細密画がある。
 それは国外から取り寄せたもので、茶色い髪の母親が同じ色の髪の幼い男の子と手をつないで木の下を歩く、という珍しい構図だった。

 タイトルは『まだ見ぬ我が子と』。
 どうしても欲しくて、手に入れた覚えがある。
 まさかこの男の子がうらやましくて、見入っていたの?

「もしかして、これかしら?」
「これ、とは?」
「ええっと……。これは、どこかしら?」

 適当に返したものの、ルシウスは真剣に悩んでくれている。

「作者不詳、か。我が国ではないから、カトリーナが知らないならオレガノ帝国かな?」

 いいえ、私もこれと似た場所を知っている。
 そうか、いいこと考えた!

 にやにやする私の横で、不思議そうな顔のルシウス。
 いいアイディアが浮かんだので、彼に構ってはいられない。

 今後の方針が決まった。
 全ては私次第。
 勉強に身を入れて、優秀な成績を取ろう!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。 本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。 しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。 特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。 せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。 そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。 幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。 こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。 ※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

処理中です...