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初めてのアルバイト
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夕方からの初のバイトに緊張していた私。
駅前だから歩いて15分ほどの所だけど……
不動産屋さんの「歩いて10分かからない」は15分かかったので、余裕をもって早めに出ることにした。気に入っているパーカーとジーンズ。制服があると聞いていたから、特にオシャレには気を遣っていなかった……のに。
「まさか美羽ちゃん、その恰好で行くつもり?」
お庭を掃除中の真希さんの出口調査……じゃなかった、出口チェックに引っかかってしまった。
「え? 別に普段着でいいって言われているので。決まりはないはずなんですが」
「ちっが~~う! せっかく可愛いのに、年頃の娘がオシャレしないのはもったいないでしょう? せめて髪形ぐらいは直していきなさい」
「ええー」
真希さんは私のことを「可愛い」と言ってくれるけれど、それは彼――彼女? の口癖なんだと思う。だって『可愛い』っていうのは、真鈴ちゃんみたいな色白小柄な美少女のことを言うんであって、私のように体育会系健康優良児のことではない。
私は必要に迫られるまではスカートをはかないし、お化粧もほとんどしない。それに東京は可愛い人や綺麗な人がいっぱいいるから、隣に並ぶのも図々しい気がする。
あ、それとも真希さんかなり目が悪いとか?
もしくは「可愛い」と言うのは挨拶?
だったらさっき龍さんが言っていたように、すっごくモテるのもわかるような気がする。真希さんは綺麗な顔だし、彼がオネェだと知らない人は、もしかして……って勘違いしそうだもんね。
「もう、しょうがないわね。ちょっと待って。せめて編み込みぐらいしていきなさい」
そう言って手を洗った真希さんが、私の茶色い髪を軽く編む。片側のサイドを一部三つ編みにして、ゴムの代わりに自分の付けていた小さめのシュシュを貸してくれる。さらに、人差し指をビシッと立てて私に忠告した。
「時間がないからとりあえずこれだけよ? 時間があったら色々試してみたいけど……。バイト気を付けて。変なお客にナンパされても、ついて行ったりしたらだめよ?」
「はーい」
真希さんは私をいくつだと思っているのだろう?
そんなに頼りなく見えるのかな?
私がナンパされるなんて、そんなことあるわけないのに。だって、上京した日も道を聞いてきたり訛りがあると指摘してくれたりする男の人はいたけれど、誘って来た人はいなかった。「そこのカフェで休もうか」とも言われたから、かなり疲れて見えたのかもしれない。
真希さんって、オネェさんっていうよりお母さん――美人だけど口うるさくて温かい。こんなお母さんだったら、自慢できるし授業参観も楽しくなりそうだ。
クスリと笑って緊張がほぐれた私は、バイト先に到着した。
アルバイト先のファミレスで、時給1200円スタートっていいのだろうか?
私はアルバイトは初めてだし、よくわからない。今は、お盆の持ち方や案内の仕方、おすすめメニューなどを習っているところ。それなのに、この時間も時給に含まれるって……店長気前が良すぎる!
チェックのスカートに白いブラウス、蝶ネクタイという制服もとっても可愛いし、店内は清潔で明るく、広々している。長時間続ける場合は休憩もあって、ジュースがタダみたいな値段で飲めるなんて、まさに夢のよう。
東京ってすごいな。バイト先も選び放題だし、ファミレスも一軒だけじゃなく、全種類ある気がする。
喜んでいたのもつかの間、店内はすぐに混雑した。
初日ということで、私は席までお客さんの案内をすることと、お水を運んだり食器を下げる係になった。オーダーや会計は途中から来たホールの別の子に頼めばいい。
でも、店長含めどの子もとても忙しそうで、誰に声をかければいいのか迷ってしまう。そんな時、私にテキパキ指示してくれる人が現れた。
「ここはいいから。あんた、トロトロしないで向こうにお水持ってって!」
「片付け先。お客様のご案内は、きちんと拭いた後!」
「ほら、向こうで呼んでいる。オーダーだったら俺に声をかければいいから。それ以外だったら対処しておいて」
私はその男性に言われるまま、操り人形のように動く。初めてのことだらけで何をどうしていいのかわからない。彼の言葉はとてもありがたい。
アルバイトに慣れているのか、彼の動きには無駄がなかった。他のバイトの子たちもみんなテキパキ動いている。案内しているうちにテーブル番号はどうにか覚えられたけど、それ以外はまだまだだ。
「美羽ちゃん、笑顔忘れちゃだめだよ~」
店長も気にしてくれているようで、時々声をかけてくれる。忙しいのにずっと笑顔のみんなは、正直スゴイと思う。平日なのに、夜がこんなに混むとは思わなかった。都会って恐ろしい。
混雑には波があって、ようやくひと段落した頃。
少しだけ、さっきの彼と年上っぽいバイトのお姉さんと話す時間が持てた。
「初めまして。今日からバイトに入りました大下 美羽です。よろしくお願いします」
私は先輩たちに挨拶をした。
「美羽ちゃん? 私は真綾。こいつと同じで高校三年。よろしくね」
「こいつって何だよ。あんた今日からなんだ。だからオロオロしてたのか。俺は悠斗、見ない顔だけど学校どこ?」
何と! 二人は私よりも年下だった。
私の方がお姉さん。でも、二人とも洗練されているから年上に見える。
「いえ、高校は卒業していて……」
「え?」
「はい?」
ちなみに、真綾ちゃんは薄茶の巻髪でメイクもバッチリ、つけまつげもバッサバサ。バイトだからかネイルは控えめ。悠斗君は背が高くサラッとした黒髪で今どきのイケメン。二人とも大人っぽいし似合いのカップルだ。
「まさかの年上……」
「マジかよ」
そんなに驚かれるとは思わなかった。
私はそこそこ背もあるし、年相応だと思っていたのに。
「年上って言っても、二学年しか違わないから。気を遣わなくていいし、なるべく二人の邪魔はしないようにするね」
精一杯お姉さんっぽく言ってみる。
なのに、ため息を吐かれてしまった。
「そうなんだ。でも、うちら別に付き合ってないから。彼氏ちゃんといるし」
「俺だってこいつとは嫌だよ。で、美羽さんは、彼氏いるの?」
はい? 今時の子はませている。
でも、ちょうど混んできたのでお喋りは終了。
彼氏いない歴=年齢って白状させられずに済んで良かった。
そんなわけで初日のバイトは何とか終了。
今日一日で、かなり疲れた気がする。
店長にも「懲りずに来てね~」と念押しされてしまった。他のみんなも気さくでいい人ばっかりだったから、ここで何とかやっていけそうだ。
時間帯によって殺人的に忙しいのは別として――
駅前だから歩いて15分ほどの所だけど……
不動産屋さんの「歩いて10分かからない」は15分かかったので、余裕をもって早めに出ることにした。気に入っているパーカーとジーンズ。制服があると聞いていたから、特にオシャレには気を遣っていなかった……のに。
「まさか美羽ちゃん、その恰好で行くつもり?」
お庭を掃除中の真希さんの出口調査……じゃなかった、出口チェックに引っかかってしまった。
「え? 別に普段着でいいって言われているので。決まりはないはずなんですが」
「ちっが~~う! せっかく可愛いのに、年頃の娘がオシャレしないのはもったいないでしょう? せめて髪形ぐらいは直していきなさい」
「ええー」
真希さんは私のことを「可愛い」と言ってくれるけれど、それは彼――彼女? の口癖なんだと思う。だって『可愛い』っていうのは、真鈴ちゃんみたいな色白小柄な美少女のことを言うんであって、私のように体育会系健康優良児のことではない。
私は必要に迫られるまではスカートをはかないし、お化粧もほとんどしない。それに東京は可愛い人や綺麗な人がいっぱいいるから、隣に並ぶのも図々しい気がする。
あ、それとも真希さんかなり目が悪いとか?
もしくは「可愛い」と言うのは挨拶?
だったらさっき龍さんが言っていたように、すっごくモテるのもわかるような気がする。真希さんは綺麗な顔だし、彼がオネェだと知らない人は、もしかして……って勘違いしそうだもんね。
「もう、しょうがないわね。ちょっと待って。せめて編み込みぐらいしていきなさい」
そう言って手を洗った真希さんが、私の茶色い髪を軽く編む。片側のサイドを一部三つ編みにして、ゴムの代わりに自分の付けていた小さめのシュシュを貸してくれる。さらに、人差し指をビシッと立てて私に忠告した。
「時間がないからとりあえずこれだけよ? 時間があったら色々試してみたいけど……。バイト気を付けて。変なお客にナンパされても、ついて行ったりしたらだめよ?」
「はーい」
真希さんは私をいくつだと思っているのだろう?
そんなに頼りなく見えるのかな?
私がナンパされるなんて、そんなことあるわけないのに。だって、上京した日も道を聞いてきたり訛りがあると指摘してくれたりする男の人はいたけれど、誘って来た人はいなかった。「そこのカフェで休もうか」とも言われたから、かなり疲れて見えたのかもしれない。
真希さんって、オネェさんっていうよりお母さん――美人だけど口うるさくて温かい。こんなお母さんだったら、自慢できるし授業参観も楽しくなりそうだ。
クスリと笑って緊張がほぐれた私は、バイト先に到着した。
アルバイト先のファミレスで、時給1200円スタートっていいのだろうか?
私はアルバイトは初めてだし、よくわからない。今は、お盆の持ち方や案内の仕方、おすすめメニューなどを習っているところ。それなのに、この時間も時給に含まれるって……店長気前が良すぎる!
チェックのスカートに白いブラウス、蝶ネクタイという制服もとっても可愛いし、店内は清潔で明るく、広々している。長時間続ける場合は休憩もあって、ジュースがタダみたいな値段で飲めるなんて、まさに夢のよう。
東京ってすごいな。バイト先も選び放題だし、ファミレスも一軒だけじゃなく、全種類ある気がする。
喜んでいたのもつかの間、店内はすぐに混雑した。
初日ということで、私は席までお客さんの案内をすることと、お水を運んだり食器を下げる係になった。オーダーや会計は途中から来たホールの別の子に頼めばいい。
でも、店長含めどの子もとても忙しそうで、誰に声をかければいいのか迷ってしまう。そんな時、私にテキパキ指示してくれる人が現れた。
「ここはいいから。あんた、トロトロしないで向こうにお水持ってって!」
「片付け先。お客様のご案内は、きちんと拭いた後!」
「ほら、向こうで呼んでいる。オーダーだったら俺に声をかければいいから。それ以外だったら対処しておいて」
私はその男性に言われるまま、操り人形のように動く。初めてのことだらけで何をどうしていいのかわからない。彼の言葉はとてもありがたい。
アルバイトに慣れているのか、彼の動きには無駄がなかった。他のバイトの子たちもみんなテキパキ動いている。案内しているうちにテーブル番号はどうにか覚えられたけど、それ以外はまだまだだ。
「美羽ちゃん、笑顔忘れちゃだめだよ~」
店長も気にしてくれているようで、時々声をかけてくれる。忙しいのにずっと笑顔のみんなは、正直スゴイと思う。平日なのに、夜がこんなに混むとは思わなかった。都会って恐ろしい。
混雑には波があって、ようやくひと段落した頃。
少しだけ、さっきの彼と年上っぽいバイトのお姉さんと話す時間が持てた。
「初めまして。今日からバイトに入りました大下 美羽です。よろしくお願いします」
私は先輩たちに挨拶をした。
「美羽ちゃん? 私は真綾。こいつと同じで高校三年。よろしくね」
「こいつって何だよ。あんた今日からなんだ。だからオロオロしてたのか。俺は悠斗、見ない顔だけど学校どこ?」
何と! 二人は私よりも年下だった。
私の方がお姉さん。でも、二人とも洗練されているから年上に見える。
「いえ、高校は卒業していて……」
「え?」
「はい?」
ちなみに、真綾ちゃんは薄茶の巻髪でメイクもバッチリ、つけまつげもバッサバサ。バイトだからかネイルは控えめ。悠斗君は背が高くサラッとした黒髪で今どきのイケメン。二人とも大人っぽいし似合いのカップルだ。
「まさかの年上……」
「マジかよ」
そんなに驚かれるとは思わなかった。
私はそこそこ背もあるし、年相応だと思っていたのに。
「年上って言っても、二学年しか違わないから。気を遣わなくていいし、なるべく二人の邪魔はしないようにするね」
精一杯お姉さんっぽく言ってみる。
なのに、ため息を吐かれてしまった。
「そうなんだ。でも、うちら別に付き合ってないから。彼氏ちゃんといるし」
「俺だってこいつとは嫌だよ。で、美羽さんは、彼氏いるの?」
はい? 今時の子はませている。
でも、ちょうど混んできたのでお喋りは終了。
彼氏いない歴=年齢って白状させられずに済んで良かった。
そんなわけで初日のバイトは何とか終了。
今日一日で、かなり疲れた気がする。
店長にも「懲りずに来てね~」と念押しされてしまった。他のみんなも気さくでいい人ばっかりだったから、ここで何とかやっていけそうだ。
時間帯によって殺人的に忙しいのは別として――
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『綺麗になるから見てなさいっ!』(*´꒳`*)アルファポリス発行レジーナブックス。書店、通販にて好評発売中です。
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未完のものは、思いついた時に思いついたことを書くので時間がかかるかな、と。ご期待に添えるよう考えてみますね。
まだ先生と呼ばれるほど偉くはないので、気軽に話しかけて下さいませ。
温かいお褒めの言葉で元気が出ました。ありがとうございます( ^∀^)。
退会済ユーザのコメントです
きさぶろー様、ご感想をありがとうございます(*゚▽゚*)。キャラを濃くしたら、キャラ文芸!?
たまご達のほわほわな日常を書けたらいいな、と思っています。優しいお言葉をありがとうございます。頑張りますo(^▽^)o