たまごっ!!

きゃる

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二人は恋人?

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 そこに104号室の龍さんがやって来た。
 白いTシャツにジーンズで今日も爽やかだ。
 龍さんはスーツアクターで、体格のいいとても気さくな人。いつも冗談で場を和ませてくれる。

「お? 美羽ちゃんおはよう。真希、出張どうだった? グラビアアイドルの担当だったって? いいよなぁ。写真集、見本誌きたら貸してくれよ?」

 彼の言葉に一瞬で緊張が解けたような気がした。
 そうか、真希さんの出張の内容を知ってたってことは、私を101号室に運んでくれたのは、もしかして真希さんと龍さん?

「おはようございます。あの、龍さん。私、昨日はお世話になりました?」

「は? 何で?」

 あれ? 違ったみたい。

「えっと、食堂にいたはずなのに、気づいたら部屋で寝ていたので」

「知らねぇな。だったら、真希一人で余裕だろ。何たってこう見えて、こいついつも鍛え……もご」

 なぜか真希さんは龍さんの口を手で塞いだ。

「ああら。余計なことを言う子は誰かしら? おイタをしたら、どうなるかわかっているのかしらねぇ?」

 そのまま龍さんの肩に手を回してニヤリと笑う真希さん。
 私は目を丸くして二人を見つめる。
 何だか力関係がわかってしまった。
 もしかして真希さんの恋人って、誠也さんじゃなくて龍さん?

「そこまで警戒しなくても……。いくら懲りたからってもういいんじゃね?」

「私はこのままでいいの。それより、美羽ちゃんが驚いているでしょう?」

 何だか二人だけにしかわからない会話をしている。だったらやっぱり、そういうことなのかな? 美しく端整な顔立ちの真希さんと粗削りだけど鼻筋が通った整った顔の龍さん。すごくお似合いだ!

「そういえば、お腹が空いたわね。美羽ちゃん、ちょうどご飯を食べるところじゃなかったの?」

 そうだった。得意料理の……ほとんど朝はこれだけだけど、ベーコンエッグがそのままだった。あ、それなら!

「良ければお二人の分も作りましょうか? 卵がまだあったと思うので」

「お? いいね~。女の子らしいな、真希とは違って」

「当たり前じゃない。龍、あんた私を何だと思っているのよ!」

 真希さんが龍さんの服を引っ張って頭をげんこつで小突く。じゃれ合う二人を見て、私も思わず笑顔になってしまった。もしかして龍さんも、真希さんがいなくて寂しかったのかな? 笑いながらキッチンの方に向かおうとすると、ゆ、百合さん! いったいいつの間に?
 冷蔵庫から取り出した牛乳を飲みながら二人を嬉しそうに見ている百合さんは、ボソッとこんなことを呟いた。

「いいわぁ、すっごく。ちょうどいい所に遭遇したわ。真希×龍もありね!」

 あ、何となく意味がわかっちゃった。
 だてに女子校を卒業していない。

「私は誠也さんだと思っていたんですけど……」

「美羽ちゃん! 話がわかるじゃない。だったらそっちは慎一とくっつけたら? カップリング語る?」

 あれ? もしかして地雷踏んだ?

「あ、いえ。朝ご飯を作らないといけないので。百合さんも一緒にどうですか?」

「ありがとう。でも、私は要らないわ。何だか今、猛烈にアイデアが湧いて直ぐにでも書きたい気分だから!」

 牛乳を一気に飲み干すと、百合さんは慌てて食堂を出て行った。彼女の書いている小説って、もしかして……



 二人分のベーコンエッグを作って戻ると、真希さんはニッコリしてくれた。反対に、龍さんはぶすっとしている。ケンカするほど仲がいいって本当だったんだ。龍さんなら真希さんより背も高いし、このアパートで一番年長だからお似合いだ。
 私も入れて三人で仲良く朝ご飯を食べている光景が、久々の一家団欒のようで嬉しくなってしまった。お父さんが龍さんでお母さんが真希さん。あれ? じゃあ私は子供!?

「それより、ごめんなさいね。夜遅かったしそのまま私も自分の部屋で寝ちゃったけど……。何もしてないから、安心して?」

 あ、そうか。言われてみれば。
 さっきはそれどころではなくて、全然気がつかなかった。いつも真希さんは私に気を遣って慎一さんの部屋に移動してくれている。自分の部屋なのに私のせいで追い出してしまって、申し訳なく思っていたんだった。それに、101号室は二部屋あるから当然寝る所は別々。真希さんはオネェだし、そんな心配したことがない。うっかり間違えて手を出すとしても、セクシーな餡蜜さんや可愛い真鈴ちゃん、年頃の百合さんまでいるから私はきっと一番最後。しかもそんなこと、恋人(たぶん)である龍さんが許さないだろう。

「美羽ちゃん、ケチャップが付いているわよ」

 そう言って、私の頬に付いていたケチャップを指で取って舐める真希さん。妖艶な仕草に思わずドキッとしてしまう。いけない、彼……彼女? は龍さんの恋人だ。見惚れている場合ではない。その証拠に、首に手を当てた龍さんが真希さんを見て、ため息をついていた。
「美味かった、ごちそうさま」と爽やかに言った龍さんが出て行った後、食後の皿洗いを真希さんと一緒にすることにした。私は、一番気になっていたことを真希さんに質問してみる。

「あの……私が入る予定の201号室の立夏ちゃん達って今日までですよね? 引っ越しの準備ができたって話を聞かないし、今日もお仕事だと言っていたような気がするんですけど。大丈夫なんでしょうか?」

「……え?」

 私の話を聞いた真希さんは、すごく驚いた表情をした。

「まだ引っ越していなかったの? おかしいわね。ごめん、後をお願いできる?」

 私は頷いた。
 顔色を変えた真希さんはタオルで手を拭くと、急いで食堂を出て行った。
 何だか嫌な予感がする。立夏ちゃん達、今日までの引っ越しの予定を忘れていた? まさか私、これから路頭に迷う、なんてことはないよね? 不安になってきたので急いで後を片付けると、二階に様子を見に行く事にした。



 階段を上ろうとしたところで、外から怒鳴り声が聞こえてくる。

「お前、ちゃんと言っておいただろう? はあ? 何だそれは。聞いてないぞ!」

 男の人の声だ。
 気になって外に出てみると……まさかの真希さん!? 真希さんは私に気づかず、携帯で誰かと喋っている。

「慎一、お前ちゃんと確認したのか? 俺は聞いていない。何の為にお前に任せたと思っているんだ! ……ああ、ああ。だけどそんなの、お前が一番よくわかっているはずだろう」

 ……俺?
 今日の真希さんは、何だかおかしい。
 だって言葉がまるで男の人みたいだ。
 オネェの真希さんとは別人みたい。
 口調が変わっただけで知らない人のように見えるなんて……
 アパートの入り口で立ち尽くす私の所に近付いて来たのは、部屋に戻ったはずの龍さんだった。
 
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