たまごっ!!

きゃる

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朝のオネェさん

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「え? ここ……どこ?」

 朝の光に気がつき、眠い目をこすりながら起きる。
 そこは、見覚えのある部屋のオシャレなソファの上だった。毛布もしっかりかけられている。

「あれ? 私、いつの間に?」

 覚醒してくるにつれて、だんだん記憶が甦る。
 昨日は確か、食堂で真希さんの帰りを待っていたんじゃなかったっけ? 夜の12時を過ぎても一向に戻ってこないから、ちょっぴり心配してしまった。いつの間にか眠ってしまったみたい。でもそれなら、食堂にそのままいてもおかしくないのに。自分で歩いてきたわけじゃないし、真希さんと会った覚えもない。なのに、101号室の真希さんの部屋にいるってことは……?
 誰が運んでくれたんだろう? やっぱり慎一さんかな? まさか、重いからって『生玲荘』の昨日いた人全員でってことはないよね? 陸上やってた時より体重が増えたとはいえ、そこまで重いはずはないし。それならさすがに起きると思うんだけど。
 手早く着替えると、カバンから洗面用具を取り出す。真希さんの部屋のオシャレな時計は8時を回っていて、それほど早いわけでもない。それなのに、寝ぼけていた私はテーブルの脚に思いっきり自分の足の小指をぶつけてしまった。

「いった~~っ!」

 思わず大きな声が出てしまった。
 慌てて口を塞ぐけど、そういえばこの部屋には今誰もいないはず。
 気になる向こうの部屋のドアに目を向ける。
 
「いや、いかんいかん」

 勝手に他人の部屋を覗くのはダメだ。
 好奇心に負けないように部屋を出ようとしたけれど……やっぱり気になる。こっちの部屋は男性的でも、あっちにはやっぱり、フリフリクッションとかピンクの小物なんかがいっぱい置いてあるんだろうか? ドレスとかアクセサリーなんかもじゃらじゃら持っていたりして。
 そっか、だからスタイリストさんになったなのかな? 女物の洋服とかコスメをたくさん持っていても「仕事道具です」って言い張れるもんね! 今度夢を叶えた理由を聞いてみよう。

 いろんなことをボーっと考えていたせいか、気づけば隣の部屋の前に立っていた。もちろん、入るつもりはないけれど。もしかしたら、真希さんが帰ってきているかもしれないと耳を澄ます。
 内側からドアが開いたのは、そんな時だった。

「……ん? 何だ、この部屋に入ろうとしたのか?」

 長い髪をかき上げてあくびをしながら出てきたのは、真希さん本人だった。帰ってきてそのまま寝たのか、まだ洋服を着ている。黒のトップスに白いパンツがかっこよくてスタイルもいい。眠そうにしてるのに、素顔も整っていてとても綺麗。でも――

「ひ、ひげ!!」

 色素が薄いのかそこまで目立ってはいないけど、真希さんのあごにはうっすらひげが生えていた。それだけのことが、何だか妙にショックだ。部屋を隠すように戸口にもたれかかった真希さんは、当たり前のように自分の顔を片手で撫でた。

「ああ。そりゃあ、まあ。一応男だし。で、何か用事だった?」

「べ、べべ別に。お帰りになったかどうか確認したかっただけです。あの、ありがとうございました!」

 意味不明の言葉を呟きくるりと向きを変えると、焦ってそのまま部屋を出た。出る直前、背後で「チッ」という舌打ちのような音が聞こえたような気がした。多分、気のせいだよね?



 顔を洗ってさっぱりした所でようやく気がつく。そういえば、ひげだけじゃなくって口調も何となくおかしくなかった? まさか、私が部屋を覗こうとしていると思って、すっごく不機嫌だったとか……まあ、ちょこっと考えちゃったから、絶対違うと言い切れないところがつらい。

 だけど、大家の真希さんに嫌われてしまったら、私は他に行く所がない。今までは好意でここに置いてもらっただけだから。
 あの後、不動産屋さんにも連絡を取ってみたけれど「入居時期が延びる件は、保護者の方にきちんとお伝えしました」と冷たくあしらわれてしまった。両親に電話しても「聞いていない」と言うから、従姉の香住ちゃんのことだと思う。だけど、彼女は旦那さんと一緒に国外に出かけていて、まだ帰国していないようだ。連絡もとれないし、契約したはずなのに住むところがないなんてあんまりだ。

 そのまま食堂に行って考える。
 謝った方がいいのかなぁ。 
 昨日の夜まで一人で勝手に真希さんの部屋に入ったことはない。不在中はずっと餡蜜さんの部屋にいた。それなのによりにもよって今朝、ドアの前で鉢合わせてしまうだなんて……
 真希さんの寝室を覗きはしていないけれど、気になっていたことは確か。私の紛らわしい行動が誤解を生んでしまった。だから真希さんは怒っていたのかも。それならきちんと謝って、「見ていない」ってはっきり言った方がいいような。
 でも昨夜は、誰が私を運んでくれたんだろう?

 今戻っても寝ているかもしれないので、わざと時間をあけることにした。
 私もまずは腹ごしらえ!
 昨日買っておいた卵とベーコンで簡単な朝食を作る。パリッとした新鮮なレタスも添えた。あとはヨーグルトとご飯、納豆を混ぜたら十分かな? 
 食卓に用意し食べようとしたところで、着替え終わってさっぱりした様子の真希さんが入って来た。ひげも剃り、髪もいつものように後ろで一つに結んでいる。

「あ、あの……!」

 思わず席から立ち上がり、すぐに謝ろうと声を出す。すると真希さんは、ニッコリ微笑んでこう言った。

「あら、美羽ちゃん。さっきはごめんなさいね? 疲れていたし寝起きだったものだから。つい、キツイ言い方をしてしまったの。ビックリしたでしょう?」

 良かった、いつもの真希さんだ。
 でも、謝ろうと思っていたのに先に謝られてしまった。

「そんな……私の方こそごめんなさい。さっきは部屋の前に立っただけで、今までもドアを開けたことはありません。信じて下さい!」

「まあ、いやだ。そんなに深刻に捉えなくてもいいのよ? でも、言うことを聞いてくれたのは嬉しいわ」

 優しく笑う真希さん。
 だけど、朝の様子を見た後では何だか不思議な感じがする。
 私はどう返していいのかわからずに困ってしまった。
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