たまごっ!!

きゃる

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下僕じゃなかとよ!

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 204号室の餡蜜あんみつさんこと山田さんは、男女の区別なく甘え上手。女子高だったからよくわからないけれど、普通こういうタイプの人って男性だけにいい顔をするものだと思っていた。だけど彼女は、いつでもセクシー全開で、「お願~~い」と上目遣いで物を頼んでくる。

 部屋に運んだのを本人に感謝されて以来、なぜか私が『餡蜜さん担当』に。部屋に運んだ日のお昼に食堂で会ったことをきっかけに、彼女に次々と用事を頼まれるようになってしまった。でもそこは女子高出身の悲しさで、目上の女性に物を頼まれると、嫌とは言えずについ身体が動いてしまう。女性が好きとかそういう趣味は全くないけれど、学校や部活でつちかった習慣はなかなか抜けないものらしい。
 それに、餡蜜さんは基本的に気前がいい。

「あら、部屋が無いなら私の部屋に泊まってもいいわよ? その代り片付けお願いね?」

「夕食の買い出し? じゃあお釣りは要らないから、これで私の分もお願いね。ダイエット中だからお肉少なめで」

「ついででいいんだけど。この雑誌、本屋で見かけたら買っておいてね?」



 考えてみて、ふと気がつく。
 もしかして、もしかすっと、私、餡蜜さんに利用されとるんじゃなか? 

 まあ、ご飯を作るの好きだから、自分のついでに作ってもいい。お米もどうせ実家から届いたものだし、こちらのものより美味しいと思う。買い物も暇な時に行くし、お世話になっている分部屋を掃除するのは構わない。 
 だけど、食べた後の食器の後片付けや、セクシーなランジェリーの手洗いを私にさせようとするのは、絶対に間違っているよね? 食器はついでに洗ってしまったけれど、下着はさすがに断った。

「あー。それ、以前龍がやられてた。鼻の下伸ばしてるのをいいことに、彼女にいいように使われていたぞ」

 雑談ついでに、朝たまに会う真希さんの弟の慎一さんに話してみた。もちろん、下着とは言わずに洋服と言った。彼は鋭い目つきに反して、声は意外に優しくてとても冷静だ。聞けば色々話してくれるし教えてくれる。けれど、大家の真希さんの代理だからなのか、基本的に住人にはあまり干渉してこない。
 私の方も自分の荷物を取るために必要な時だけ、真希さんの部屋を開けてと彼に頼む。

 慎一さんは、「本人不在なのに真希さんの部屋に勝手に入るのは申し訳ない」と言った私の意をんで、普段は放っておいてくれる。最初のうちは「どの部屋で寝泊まりしているのか」と心配して聞いてくれたけど、私が真鈴ちゃんや餡蜜さんの部屋にお世話になっているとわかってからは、何も言わなくなった。

 そもそも私は、ちゃんと201号室に入る予定だったのだ。だけど、前の住人である鈴木美加さんと立夏ちゃん親子の引っ越しが一週間延びてしまったので、相変わらず部屋には入れずあぶれている。明日で約束の一週間になるけれど、鈴木さん親子が引っ越しの準備をしている様子は全く見られない。立夏ちゃんはランドセルを背負って私に手を振り、今日も元気に登校した。人気子役の笑顔に顔が緩み、つい手を振り返してしまった。
 引っ越し、大丈夫なのかな? お母さんの美加さんと話をしないと。そうでないと私はこれから先、どうすればいいのかわからない。

「大丈夫なのか?」

 慎一さんが心配そうに聞いてくる。
 部屋のこと? 相変わらず入れないんです。
 ああ、違った。
 今は餡蜜さんのことを相談していたんだった。

「龍さん……スーツアクターの? それなら二人は恋人同士ですか? だったら仕方がないんじゃあ……」

「ないな。山田さんは上昇志向が強いから。龍も龍であわよくば、と狙っていたところがあったから、どっちもどっちだろ」

 そんなもんなのかな?
 あれ? だったら私は何だろう? 
 もしかして、餡蜜さん……山田お姉さんの下僕!?
 いくら彼女が気前が良くても、いくら『山田』って苗字の人に美男美女が多いといっても、ずっと『山田さん担当』は嫌だなぁ。

「ひどいようだったら俺から言うから。あとは2階の倉庫を片付ければ、何とかなるかもしれない。一番いいのは彼女の部屋を出て、真希の部屋を使うことだが」

 慎一さんはそう言うけれど、真希さんはオネェとはいえ男性だ。不在の男の人の部屋を勝手に使うっていうのは抵抗がある。それに、あの部屋にはドアがあってもう一つ部屋があるみたい。だけど「見ないでね」って出掛ける前にしっかり釘を刺されてしまった。そう言われると、余計に気になるのが人の本能。見るなと言われれば、すごーく見たくなるもの。
 実はそちらが本当の理由で、部屋にいると好奇心に負けてドアを開けてしまうかもしれないから。せっかく真希さんが親切に部屋を使わせてくれているのに、恩を仇で帰すような真似はしたくない。

「ごめんなさい。それはちょっと……。倉庫って階段右手ですよね? 片付けたら使わせてくれますか?」

「ああ。真希の無駄な物が多いが、捨てるなら本人が帰ってからにしてくれ。どうせ今夜戻ってくると言っていたし」

 え? 本当? だったら何も問題はない。
 大家である真希さんが、鈴木さん親子に予定通り引っ越しを勧めてくれるのだろう。そしたら私は201号室を使える。部屋があるなら倉庫を片付ける必要はないし、毎日寝る場所を探す必要もなくなる。餡蜜さんの無茶ぶりを聞かなくても良くなるから、全てが丸くおさまる。

「なーんだ。じゃあ、後は真希さんに聞けばいいんですね?」

 それなら何も問題はない。
 ようやく『生玲荘』の正式な住人として頑張れそうだ。安心した私は鼻歌を歌いながら、アルバイトの面接に行くことにした。
 
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