たまごっ!!

きゃる

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19歳、心機一転頑張ります!

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 私の名前は大下おおした 美羽みう
 茶色がかったくせっ毛で、顔立ちは至って普通。背は165cmで、体重は……まあ秘密。年齢は19で出身は九州のとある県――の農村地域。18で高校を卒業し、一年ほど家でダラダラしていたものの、これではいけないと心を入れ替え心機一転、上京して夢を叶えることにした。

 今まで親元を離れたことがなく、高校も女子高だった私。一人暮らしはもちろん初めて。都会は優しい人ばかりじゃなくて、怖い人もいると聞いたから、気を付けないといけない。
 甘えてしまって申し訳ないけれど、住むところは母方の従姉いとこ香住かすみちゃんに探してもらった。香住ちゃんは20代後半の美人さんで、関東の人と結婚して、都内で幸せに暮らしている。そんな香住ちゃんが電話で私に一言。

「美羽にピッタリなところだから」

 どういう意味だろう?
 駅から近いと聞いたから、方向音痴な私にもピッタリってことなのかな? それとも、女子高育ちの私のために住人全員女性だとか?   期待と不安に胸を膨らませながら、迷いに迷ったあげくに京王井の頭線を探し当て、渋谷駅から電車に乗って目当ての駅に到着した。

 手続きは全て香住ちゃんがしてくれていたから、私は直接アパートに行って大家さんに挨拶するだけ。その場でカギを渡してもらえるとのこと。大丈夫、荷物は手から離さなかったし、お土産だってちゃんと持ってきている。
 大家さんの真希さん、いい人だといいな。笑顔の可愛いおばあちゃんだったら嬉しい。



 駅から徒歩10分もかからないと聞いていたのに、何だか迷ってしまったみたい。だって、閑静な住宅街とはいえ、私の育った農村に比べると建物が多過ぎる! 田んぼや畑はどこにもないし、トンボもあんまり飛んでいない。秋のこの時期、うちの近所ならうるさいくらいたくさん飛んでいるのに……

 いけない。たどり着く前から、もうホームシックなんだと思われたくない。
 不動産屋さんからもらったという地図をもう一度よく見てみよう。
 地図を自分の進む方向にぐるぐる回しながら、考える。このコンビニは、さっきも通った。あ、そうか。コンビニ! 店員さんなら、この場所を知っているかもしれない。
 田舎と違ってコンビニがすぐあるなんてとっても便利! コンビニに行くのにうちの親は車で移動していたから。
 私はもちろん自転車。坂道だって漕いでいたから、脚力には自信がある。

 親切な店員さんが教えてくれた。
 聞いたのが恥ずかしいくらいすぐ近くにあった。入居予定のその場所は、お庭もあっておしゃれな造りの白い木造アパートだった。
「これで家賃5万は安いわよ?」と香住ちゃんに言われた通り。


 
「ええっと……『生玲荘せいれいそう』? あれ、名前が違う」

 私が探しているのは『星玲荘せいれいそう』。でも、入り口の看板は、読み方は同じでも漢字が違う。戸惑っているとちょうど綺麗なお姉さんが出てきたので、聞いてみることにした。

「あの……すみません。ここって『星玲荘』じゃないんですか?」

「あら。『星玲荘』で合っているわよ? ああ、そうか。漢字の星の日の部分が取れたままだったわね。住人はみんな『うまれそう』って呼んでいるけど」

「生まれそう?」

 確かに、茶色の髪を一つに結んだ美人なお姉さんの言う通り、そう読めないことはない。それにしてもこのお姉さん、背が高くて色白で、顔立ちもはっきりしていてモデルさんみたい。
 私がボーっと見ていると、お姉さんは苦笑した。

「もしかして、あなたが美羽みうちゃん? 今日ここに入る予定だった」

 お姉さんはハスキーボイス。
 東京の美人は声までセクシーで一味違うような気がする。

「はい。初めまして。あの……大下 美羽です。今日からお世話になります」

「え? 今日から? おかしいわね。連絡が行っていなかった?」

「はい?」

 何だろう、不安になってきた。
 そういえば、お姉さんは「今日ここに入る予定だった」と過去形で言っていた。どうして? もしかして、まだ契約が済んでいなかったとか?

「不動産屋には言っておいたのだけれど……。ああ、ごめんなさい。私の名前は ほし 真希まさき。ここの管理人よ」

「まさき?」

 渡された紙には真希って書いてあったから、てっきり『まき』さんだと思っていた。『まさき』って言ったら、まるで男の人の名前みたい。

「そう。勘違いするといけないから一応言っておくけど、これでもれっきとした男よ?」

「うそ……」

 早くも都会の洗礼を浴びてしまった。
 こんなに綺麗な人が、男の人!?
   で、でででも……
 そっか、これがいわゆる『オネェ』さん。テレビの中でしか知らなかったから、思わずまじまじと見てしまった。

「それはそうと、困ったわね。あなたに貸す予定の部屋、前の住人がまだいるの。滞在が一週間ほど延びたってちゃんと連絡したんだけど。聞いてない?」

 私は、フルフルと首を横に振った。

「急だけど、今日、泊まれるところはあるのかしら?」

 そんな事を言われても……
 慣れない東京だから、空港から真っ直ぐここに来てしまった。香住ちゃんは「今日は用事があっていない」と言っていたし、今からホテルを探すにも、余分なお金を下ろしていない。
 もう一度、首を横に振ってみた。

「そうなの……。じゃあ、アパートの女の子達に聞いてあげるわね? 誰かと一緒になるけれど、とりあえず今日、泊まれるところがあった方がいいでしょう?」

 背の高い真希さんを見上げる。
 不安が目一杯顔に出ていたのだろう。
 彼女……彼は笑うと私をギュッとハグしてきた。

「ああん、もう! みうちゃん可愛いっ!」

 これが都会のスキンシップ?
 東京の人はあいさつ代わりにハグするの?
 まるで、外国人みたい。
 固まる私に彼は言った。

「大丈夫よ、いざとなれば私の部屋に泊まればいいし……。ところで、あなたは何のたまご?」

「たまご?」

 オネェさんと同じ部屋、ということよりも彼……彼女? の言う『たまご』の方が気になった。

「あら、やだ。そんな肝心なことも伝わっていなかったのね? ここが『うまれそう』って言われるようになってから、将来を夢見るたまごちゃん達が集まるようになったの。だから貸し出す時の条件で、そのことも明記しておいたのだけれど……」

 ああ、だからか。
 香住ちゃんが私に「ピッタリなところだ」って言ったのは。

「その……イラストレーターに、なりたくて……」

「そうなの。それなら良かったわ。『生玲荘うまれそう』にようこそ。イラストレーターのたまごさん」

 そう言うと綺麗なオネェさんは、私に向かって優しく柔らかく微笑んでくれたのだった。
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