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第四章 本当の悪女は誰?
魔性の女 8
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「当たり前じゃな……わわっ」
立ち上がったロディが、ベッドに座る私を抱き締めた。私の頬に硬い腹筋が当たり、なんだかドキドキする。弾んだ声音のロディが、私にこう告げた。
「シルヴィエラ、綺麗な君をどうしよう? 子供は三人は欲しいな。その前に二人でゆっくり過ごそうか。それから式は……早ければ早いほどいいね!」
……ん? どうしてそうなるの?
「ロディ、あの……今の話、聞いてた?」
「ああ。嫌いじゃないなら十分だ」
嫌いじゃなくて、誰よりも好きよ。
でも、想いだけではダメ。身分制度が廃止されたわけでもないのに、間もなく平民となる私が王子と結婚……やっぱりあり得ない!!
だけど――
大好きな人が、私を妃に迎えると言ってくれた。その気持ちが嬉しくて、涙が零れそう。今だけでもこうしていたいと、私は彼の背中に腕を回してそっと目を閉じた。
「シルフィ、好きだよ」
頭上から、愛しい人の声が響く。
同じ想いを返せない私は、ただ、彼の名を呟いた。
「ロディ……」
私達はもうすぐ、他人に戻る。
恋人のフリすら必要なく、私は第二王子を惑わせたとして、責められるかもしれない。その後は王城を出ることになるだろう。覚悟はしているものの、やはり別れはつらい。
「シルフィ、その……――そろそろいいかな?」
私の想いとは裏腹に、ロディが困ったような声を出す。腕を下ろして見上げると、彼が苦笑した。
「僕も男だから、その恰好で抱きつかれると苦しいな。『誘惑されて色香に負けた』だっけ? すぐに負けたいところだが、兵士が僕らを待っている」
「誘惑? ……え? ち、違っ」
いけない。上着を羽織っているとはいえ、上からだと胸元がバッチリ見えている。はしたない姿で抱きつくなんて、ラノベのシルヴィエラも同然だ。もう小説とは関係がないにしても、最後まで淑女でありたい。
「続きは城に帰ってからね」
「続き? なっ、ないから!」
ロディの言葉を私は焦って否定する。
クスクス笑う上機嫌な彼を、いつまでも覚えておきたい――痛む胸に手を置いて、私は願った。
連れ立って外に出た私達を、城の兵士が笑顔で迎える。今までの演技のせいか、第二王子と一緒にいても特に変な顔はされなかった。
「捕らえた者はすでに、城へ向かっております」
「わかった。僕らも帰ろう。シルフィ、こっちにおいで」
私はロディに手を引かれ、用意された馬車に乗せられそうになる。
――付き添いもなく、未婚の私が王子と二人きりってマズいよね?
夜会に出席した時も、一応女官は同乗していた。けれど今回、ロディは急いで助けに来てくれたため、他に女性の姿はない。彼の評判が下がることを恐れた私は、慌てて首を横に振る。
「あの、密室で二人になるのは良くないと思うの。私は辻馬車でも借りて、後から行くわ」
「どうして遠慮するの? 大丈夫、いくら君が魅力的でも、いきなり襲いかかったりはしないよ」
「いえ、心配なのはそっちじゃなくって……未婚女性と二人きりだと、王子の貴方に悪評が立つでしょう?」
「悪評? 婚約する相手と同じ馬車に乗ったくらいで、咎められるとは思えないけど?」
「婚約する? あのね、さっきも言ったけど……」
「いいよ。馬車の中でゆっくり聞いてあげるね」
いや、ロディ。だからそれがダメなんだってば!
彼は私を横抱きにすると、強引に押し込め隣に座る。急に借りた馬車は小さく、どうしても彼の身体に触れてしまう。狭い空間に二人だけ……意識した途端に緊張し、私は正面に座り直そうとした。ところがあっさり、ロディが私を引き戻す。
「シルフィがいるべき場所は、僕の隣だろう?」
好きな人にそう言われて、嬉しくないわけがない。高鳴る胸の音が、外まで聞こえてしまいそう。
けれど私は喜びを押し隠し、彼と向き合うことにした。
「ねえロディ、貴方の気持ちはすごく嬉しい。だけど真面目に考えて。王子の貴方と私とでは、身分が釣り合わないわ」
「なんだ。気にしているのはそんなこと? 大丈夫だよ。許可は得ているから」
「許可? いえ、誰の許しか知らないけれど、私には身分だけでなく後ろ盾もないの。だから……」
「後ろ盾がない? いや、これ以上ないほど強力なのがあるよ。まさか君が、知らなかったとはね」
私は首をかしげた。実の両親を亡くし、親戚すらいない私に後見人?
「城に戻ったら教えてあげるよ。その上で、真実の気持ちを聞かせてほしい」
真顔のロディに迫られて、私は思わず首肯する。
――強力な後ろ盾……いったいどういうこと?
立ち上がったロディが、ベッドに座る私を抱き締めた。私の頬に硬い腹筋が当たり、なんだかドキドキする。弾んだ声音のロディが、私にこう告げた。
「シルヴィエラ、綺麗な君をどうしよう? 子供は三人は欲しいな。その前に二人でゆっくり過ごそうか。それから式は……早ければ早いほどいいね!」
……ん? どうしてそうなるの?
「ロディ、あの……今の話、聞いてた?」
「ああ。嫌いじゃないなら十分だ」
嫌いじゃなくて、誰よりも好きよ。
でも、想いだけではダメ。身分制度が廃止されたわけでもないのに、間もなく平民となる私が王子と結婚……やっぱりあり得ない!!
だけど――
大好きな人が、私を妃に迎えると言ってくれた。その気持ちが嬉しくて、涙が零れそう。今だけでもこうしていたいと、私は彼の背中に腕を回してそっと目を閉じた。
「シルフィ、好きだよ」
頭上から、愛しい人の声が響く。
同じ想いを返せない私は、ただ、彼の名を呟いた。
「ロディ……」
私達はもうすぐ、他人に戻る。
恋人のフリすら必要なく、私は第二王子を惑わせたとして、責められるかもしれない。その後は王城を出ることになるだろう。覚悟はしているものの、やはり別れはつらい。
「シルフィ、その……――そろそろいいかな?」
私の想いとは裏腹に、ロディが困ったような声を出す。腕を下ろして見上げると、彼が苦笑した。
「僕も男だから、その恰好で抱きつかれると苦しいな。『誘惑されて色香に負けた』だっけ? すぐに負けたいところだが、兵士が僕らを待っている」
「誘惑? ……え? ち、違っ」
いけない。上着を羽織っているとはいえ、上からだと胸元がバッチリ見えている。はしたない姿で抱きつくなんて、ラノベのシルヴィエラも同然だ。もう小説とは関係がないにしても、最後まで淑女でありたい。
「続きは城に帰ってからね」
「続き? なっ、ないから!」
ロディの言葉を私は焦って否定する。
クスクス笑う上機嫌な彼を、いつまでも覚えておきたい――痛む胸に手を置いて、私は願った。
連れ立って外に出た私達を、城の兵士が笑顔で迎える。今までの演技のせいか、第二王子と一緒にいても特に変な顔はされなかった。
「捕らえた者はすでに、城へ向かっております」
「わかった。僕らも帰ろう。シルフィ、こっちにおいで」
私はロディに手を引かれ、用意された馬車に乗せられそうになる。
――付き添いもなく、未婚の私が王子と二人きりってマズいよね?
夜会に出席した時も、一応女官は同乗していた。けれど今回、ロディは急いで助けに来てくれたため、他に女性の姿はない。彼の評判が下がることを恐れた私は、慌てて首を横に振る。
「あの、密室で二人になるのは良くないと思うの。私は辻馬車でも借りて、後から行くわ」
「どうして遠慮するの? 大丈夫、いくら君が魅力的でも、いきなり襲いかかったりはしないよ」
「いえ、心配なのはそっちじゃなくって……未婚女性と二人きりだと、王子の貴方に悪評が立つでしょう?」
「悪評? 婚約する相手と同じ馬車に乗ったくらいで、咎められるとは思えないけど?」
「婚約する? あのね、さっきも言ったけど……」
「いいよ。馬車の中でゆっくり聞いてあげるね」
いや、ロディ。だからそれがダメなんだってば!
彼は私を横抱きにすると、強引に押し込め隣に座る。急に借りた馬車は小さく、どうしても彼の身体に触れてしまう。狭い空間に二人だけ……意識した途端に緊張し、私は正面に座り直そうとした。ところがあっさり、ロディが私を引き戻す。
「シルフィがいるべき場所は、僕の隣だろう?」
好きな人にそう言われて、嬉しくないわけがない。高鳴る胸の音が、外まで聞こえてしまいそう。
けれど私は喜びを押し隠し、彼と向き合うことにした。
「ねえロディ、貴方の気持ちはすごく嬉しい。だけど真面目に考えて。王子の貴方と私とでは、身分が釣り合わないわ」
「なんだ。気にしているのはそんなこと? 大丈夫だよ。許可は得ているから」
「許可? いえ、誰の許しか知らないけれど、私には身分だけでなく後ろ盾もないの。だから……」
「後ろ盾がない? いや、これ以上ないほど強力なのがあるよ。まさか君が、知らなかったとはね」
私は首をかしげた。実の両親を亡くし、親戚すらいない私に後見人?
「城に戻ったら教えてあげるよ。その上で、真実の気持ちを聞かせてほしい」
真顔のロディに迫られて、私は思わず首肯する。
――強力な後ろ盾……いったいどういうこと?
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