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第四章 本当の悪女は誰?
魔性の女 6
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「僕の相手を舞踏会の会場から勝手に連れ去り、関係を無理強いするとは……極刑は免れないと思え!」
「なっ……」
「違うわ! わたくしは知らないっ」
ロディの言葉に顔色を失くす義兄と、首を振って否定する義妹。二人の反応は対照的だ。
しかしそこに、継母の声が鋭く響く。
「お待ちください! わたくし達は完全に無実ざます。娘のテレーザは、具合の悪くなった彼女を家に連れ帰っただけのこと。ヴィーゴは……介抱していたところを、ふしだらなその女にたぶらかされたのでしょう」
「そんな!」
私は声を上げた。継母だって、嫌がる私を見ていたはずなのに!
「ほう? 自分達はシルヴィエラに騙された、と?」
低い声でベッドから立ち上がるロディに、彼らは迷わず首肯した。
「そう、そうざます! さすがは王子殿下。私は親を失ったその子の面倒を見てあげただけ。まさか恩を仇で返されようとは、考えてもいなかったざます」
「そうよ。きっとお義姉様が、わたくしの悪い噂を広めたんだわ。ひどいっ」
「シルヴィエラは俺の……いや、俺は彼女に騙されたんだ!」
言うに事欠いて、それ?
自分達が助かるために、私を悪者に仕立て上げるの?
私の居場所は最初から、彼らの中にはなかったようだ。わかっていたけど悲しくて、またもや涙が出そう。
ロディは三人に近づくと、皮肉っぽく口にした。
「修道院に入れることを、面倒を見ると言うのか? 連れ去ることを、連れ帰ると?」
「そ、それは……」
「……まあいい。では、シルヴィエラとの縁は切ると言うのだな?」
「もちろんざます」
「ああ。そんな女、こっちから願い下げだ」
「ええ、もちろ…………待って!」
義妹のテレーザだけが、悲鳴に近い声を上げる。
「それだと、わたくしの身分がなくなるわ!」
確かにね。私を切り捨てれば、爵位や財産は直系である私一人のものとなる……って、その方がいいんじゃない? だからロディは、わざと聞いてくれたのね。
「身分? 罪を犯したお前達に、貴族を名乗る資格はない。いや、シルヴィエラが受け継ぐべき財産を食い潰し、本人の許可なく土地を売却していた時点で、男爵家を追い出されてもおかしくないな」
どうやらロディは、我が家の内情を全て把握しているみたい。私が直接語ったため、うちにお金がないことも知っている。貧乏男爵家の私が、第二王子に想いを寄せる――やはりどう考えても、分不相応だ。
「あ、あの。先ほどのは間違いざます。ついカッとしてしまい、申し訳ありません。これからも、この子の世話はわたくし達にお任せくださいませ。ゆくゆくは、ヴィーゴと夫婦にするざます」
「ええ、大切な家族ですもの。それに、田舎の土地を売りたいと言ったら、お義姉様は快く承諾してくれましたわ」
家族だと思っていた人達の変わり身の早さに、私は呆れて口を開けた。義兄との結婚どころか、土地の売却も了承した覚えはない。
ロディの視線に気がついた私は、全力で首を横に振って知らないと猛アピール。彼は顎に手を当てると、言葉を続けた。
「シルフィ――シルヴィエラが、あの土地を売り飛ばすはずがない。ご両親との思い出が詰まった大事な場所だからね。僕もあの土地には、思い入れがある」
「……んまっ」
「そんな! ローランド様はきっと、お義姉様に騙されているのですわ。田舎だし、何もなくて退屈ですもの」
「俺も、あそこは嫌いだ」
いや、誰も感想は聞いてないから。
ロディも同じことを思ったらしく、話は終わりだというふうに肩をすくめた。
「三人は後から取り調べる。それまで、城の地下牢に繋いでおけ」
「「はっ」」
敬礼する王城の兵士を見て、私はロディとの隔たりを、ますます感じた。彼は王族として、人の上に立つべく生まれている。彼の好きな王女も同じ……落ち込むから、考えるのは止めよう。
「嫌だーっ」
「ひどすぎざますっ」
「わたくしは認めないわ!」
義兄が巨体を揺らしたため、兵士が三人がかりで押さえつけた。継母と義妹も文句を言い、その場で足を踏ん張っている。
「みんなの勘違いよ! 恋を楽しんで何が悪いの? ローランド様こそ、その女に騙されているんです。後ろ盾のない女が王子と一緒になるなんて、どう考えてもおかしいもの。誘惑されて色香に負けたと、噂されてしまいますよっ」
「……だから? 他人より、今後の自分を心配したらどう?」
ロディが冷たく言い放つ。
テレーザ、そんなことにはならないわ。恋人は演技なので大丈夫。
「親の承諾を得ずに結婚するなど、あり得ないざます!」
「自ら親の権利を放棄したはずだが? シルヴィエラは成人している。くだらない人間とは、即刻手を切るべきだ」
「くそっ、俺は諦めないからな。俺とお前は運命だ!」
義兄の捨て台詞がおぞましく、私は震えた。そんな私を気遣うように、ロディが見つめる。
私はようやく、ロディの意図が理解できた。彼は幼なじみとして、私に力を貸してくれたのだ。継母と義兄と義妹を捕らえることによって、男爵家は守られた。これで私は堂々と自分の家に帰れるし、手続きすれば女男爵だって名乗れる。少しずつコルテーゼ家を立て直していこう。
「ありがとう、ロディ。貴方のおかげで帰れるわ」
捕縛された三人と兵士が部屋を出た後、私は彼に感謝を述べた。ところが、次の言葉に驚愕する。
「シルフィ。君には悪いが、コルテーゼ男爵家は終わらせる」
「なっ……」
「違うわ! わたくしは知らないっ」
ロディの言葉に顔色を失くす義兄と、首を振って否定する義妹。二人の反応は対照的だ。
しかしそこに、継母の声が鋭く響く。
「お待ちください! わたくし達は完全に無実ざます。娘のテレーザは、具合の悪くなった彼女を家に連れ帰っただけのこと。ヴィーゴは……介抱していたところを、ふしだらなその女にたぶらかされたのでしょう」
「そんな!」
私は声を上げた。継母だって、嫌がる私を見ていたはずなのに!
「ほう? 自分達はシルヴィエラに騙された、と?」
低い声でベッドから立ち上がるロディに、彼らは迷わず首肯した。
「そう、そうざます! さすがは王子殿下。私は親を失ったその子の面倒を見てあげただけ。まさか恩を仇で返されようとは、考えてもいなかったざます」
「そうよ。きっとお義姉様が、わたくしの悪い噂を広めたんだわ。ひどいっ」
「シルヴィエラは俺の……いや、俺は彼女に騙されたんだ!」
言うに事欠いて、それ?
自分達が助かるために、私を悪者に仕立て上げるの?
私の居場所は最初から、彼らの中にはなかったようだ。わかっていたけど悲しくて、またもや涙が出そう。
ロディは三人に近づくと、皮肉っぽく口にした。
「修道院に入れることを、面倒を見ると言うのか? 連れ去ることを、連れ帰ると?」
「そ、それは……」
「……まあいい。では、シルヴィエラとの縁は切ると言うのだな?」
「もちろんざます」
「ああ。そんな女、こっちから願い下げだ」
「ええ、もちろ…………待って!」
義妹のテレーザだけが、悲鳴に近い声を上げる。
「それだと、わたくしの身分がなくなるわ!」
確かにね。私を切り捨てれば、爵位や財産は直系である私一人のものとなる……って、その方がいいんじゃない? だからロディは、わざと聞いてくれたのね。
「身分? 罪を犯したお前達に、貴族を名乗る資格はない。いや、シルヴィエラが受け継ぐべき財産を食い潰し、本人の許可なく土地を売却していた時点で、男爵家を追い出されてもおかしくないな」
どうやらロディは、我が家の内情を全て把握しているみたい。私が直接語ったため、うちにお金がないことも知っている。貧乏男爵家の私が、第二王子に想いを寄せる――やはりどう考えても、分不相応だ。
「あ、あの。先ほどのは間違いざます。ついカッとしてしまい、申し訳ありません。これからも、この子の世話はわたくし達にお任せくださいませ。ゆくゆくは、ヴィーゴと夫婦にするざます」
「ええ、大切な家族ですもの。それに、田舎の土地を売りたいと言ったら、お義姉様は快く承諾してくれましたわ」
家族だと思っていた人達の変わり身の早さに、私は呆れて口を開けた。義兄との結婚どころか、土地の売却も了承した覚えはない。
ロディの視線に気がついた私は、全力で首を横に振って知らないと猛アピール。彼は顎に手を当てると、言葉を続けた。
「シルフィ――シルヴィエラが、あの土地を売り飛ばすはずがない。ご両親との思い出が詰まった大事な場所だからね。僕もあの土地には、思い入れがある」
「……んまっ」
「そんな! ローランド様はきっと、お義姉様に騙されているのですわ。田舎だし、何もなくて退屈ですもの」
「俺も、あそこは嫌いだ」
いや、誰も感想は聞いてないから。
ロディも同じことを思ったらしく、話は終わりだというふうに肩をすくめた。
「三人は後から取り調べる。それまで、城の地下牢に繋いでおけ」
「「はっ」」
敬礼する王城の兵士を見て、私はロディとの隔たりを、ますます感じた。彼は王族として、人の上に立つべく生まれている。彼の好きな王女も同じ……落ち込むから、考えるのは止めよう。
「嫌だーっ」
「ひどすぎざますっ」
「わたくしは認めないわ!」
義兄が巨体を揺らしたため、兵士が三人がかりで押さえつけた。継母と義妹も文句を言い、その場で足を踏ん張っている。
「みんなの勘違いよ! 恋を楽しんで何が悪いの? ローランド様こそ、その女に騙されているんです。後ろ盾のない女が王子と一緒になるなんて、どう考えてもおかしいもの。誘惑されて色香に負けたと、噂されてしまいますよっ」
「……だから? 他人より、今後の自分を心配したらどう?」
ロディが冷たく言い放つ。
テレーザ、そんなことにはならないわ。恋人は演技なので大丈夫。
「親の承諾を得ずに結婚するなど、あり得ないざます!」
「自ら親の権利を放棄したはずだが? シルヴィエラは成人している。くだらない人間とは、即刻手を切るべきだ」
「くそっ、俺は諦めないからな。俺とお前は運命だ!」
義兄の捨て台詞がおぞましく、私は震えた。そんな私を気遣うように、ロディが見つめる。
私はようやく、ロディの意図が理解できた。彼は幼なじみとして、私に力を貸してくれたのだ。継母と義兄と義妹を捕らえることによって、男爵家は守られた。これで私は堂々と自分の家に帰れるし、手続きすれば女男爵だって名乗れる。少しずつコルテーゼ家を立て直していこう。
「ありがとう、ロディ。貴方のおかげで帰れるわ」
捕縛された三人と兵士が部屋を出た後、私は彼に感謝を述べた。ところが、次の言葉に驚愕する。
「シルフィ。君には悪いが、コルテーゼ男爵家は終わらせる」
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