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第三章 愛人にはなりません
まさかのふりだし 9
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「その分だと、私が何に怒っているかもわかってないんでしょ? いいわ、後から話を聞いてあげる。いくら美人でも、泣けば化粧は崩れるんだからね。完璧に仕上げたんだから、とっとと行きなさい!」
「は、はいっ」
私は追い立てられるように部屋を出て、王妃のサロンに向かう。大声を出すカリーナは、そんなに怒ってなかったような……? きちんと事情を話せば、わかってくれるかもしれない。
廊下を進むと、向こうから歩いてくるロディが見えた。均整の取れた体躯に整った顔立ち、金糸の入った黒い上着は大人っぽくてすごく素敵……って、違うから。見惚れたんじゃなくって、挨拶するタイミングを待っていただけ!
「シルフィは、今日もすごく綺麗だね。君に会うのが待ちきれず、迎えに来たよ」
「そ、それはどうも。わわ、私も会いたかったわ」
すんなり言葉が出るロディに比べ、私は棒読みな上にカミカミだ。護衛の兵に聞かせるためかもしれないけれど、彼の笑みは演技とは思えないほど素晴らしい。
「ああ、待って……」
ロディが私の頬に手を触れ、顔を覗き込む。イケメンのどアップは、心臓に悪い。
「ぴゃっ」
目の端をいきなり舐められた。
こんなところで、どーしたロディよ?
「可愛いシルフィ、泣いていたの?」
「いえ、べべ、別に……」
「何もなければいいんだ。困ったことがあれば、すぐに相談して?」
「……ありがとう」
涙の跡があったなら、口で言えば済むことなのに。本物の恋人以上に振る舞う彼に、私はとことん押され気味。こんなんだから、カリーナに勘違いをされてしまうのだ。護衛に目を逸らされているのも、非常に恥ずかしい。
「さて、母が君と話すのを楽しみにしている。行こうか」
「ええ」
ロディは涼しい顔で、腕を組むよう私に促す。素直に従い手を添えるものの、なんだかドキドキする。慣れないからで、もちろん深い意味はない。王子と恋人のフリって、思った以上に大変だ。
私達は、王妃の待つ部屋に通された。
彼女は金色の髪に薄青の瞳、目尻が少し垂れておっとりした感じで、第一王子のリカルド様にそっくりだ。大きな子供が二人もいるとはとても思えず、若々しい。王妃は紅茶のカップを置くと、嬉しそうに口にした。
「こちらへどうぞ。本当に貴女はマリサに似ているわね。いえ、彼女以上に綺麗だわ」
「……恐縮です」
褒められた時、なんて言うのが正解だろう? 元がラノベのヒロインなので、私の容姿は整っている。だから「いいえ」と否定するのは変だ。かといって「ありがとうございます」では調子に乗っているみたいで、なんか違う。
「シルフィは昔から可愛かったからね。美しくなるってわかっていたよ」
ロディよ、追い打ちをかけるのはやめてくれ。それを言うなら以前の彼の方が、可愛らしくて天使だった。今はこんなに美青年でたくましく……って、目が合った途端に微笑むなんて、恋人の演技が上手すぎる!
見られて強張る私とは大違いだし、彼は膝に置いた私の手まで握ってくるのだ。
この上私にどうしろと?
そもそも王妃様って、事情をご存じなんだよね?
「あらあら、ローランドは彼女に夢中ね。でも、リカルドがよく承知したこと」
「……え?」
思わず驚きの声が出た。
王妃様、演技だって聞いてないの?
それにどうして、第一王子の名前が?
私の頭の中は、疑問符だらけ。
ロディは口を引き結び、途端に不機嫌になる。そんな私達を見た王妃が、クスクス笑う。
「いいえ、変な意味はないの。ただあの子は、銀色の髪の世話係が大好きだったから」
「……世話係、ですか?」
「あら、聞いてなかったの? マリサは……あなたのお母様はリカルドの世話係として、私を助けてくれたのよ」
「ええっ」
母は生前王城のことを嬉しそうに語っていたが、リカルド王子の担当だったなんて聞いた覚えがない。
「そう、知らなかったの。それなら教えてあげるわね」
王妃は柔らかく微笑むと、当時の母の様子を私に話してくれた。
「は、はいっ」
私は追い立てられるように部屋を出て、王妃のサロンに向かう。大声を出すカリーナは、そんなに怒ってなかったような……? きちんと事情を話せば、わかってくれるかもしれない。
廊下を進むと、向こうから歩いてくるロディが見えた。均整の取れた体躯に整った顔立ち、金糸の入った黒い上着は大人っぽくてすごく素敵……って、違うから。見惚れたんじゃなくって、挨拶するタイミングを待っていただけ!
「シルフィは、今日もすごく綺麗だね。君に会うのが待ちきれず、迎えに来たよ」
「そ、それはどうも。わわ、私も会いたかったわ」
すんなり言葉が出るロディに比べ、私は棒読みな上にカミカミだ。護衛の兵に聞かせるためかもしれないけれど、彼の笑みは演技とは思えないほど素晴らしい。
「ああ、待って……」
ロディが私の頬に手を触れ、顔を覗き込む。イケメンのどアップは、心臓に悪い。
「ぴゃっ」
目の端をいきなり舐められた。
こんなところで、どーしたロディよ?
「可愛いシルフィ、泣いていたの?」
「いえ、べべ、別に……」
「何もなければいいんだ。困ったことがあれば、すぐに相談して?」
「……ありがとう」
涙の跡があったなら、口で言えば済むことなのに。本物の恋人以上に振る舞う彼に、私はとことん押され気味。こんなんだから、カリーナに勘違いをされてしまうのだ。護衛に目を逸らされているのも、非常に恥ずかしい。
「さて、母が君と話すのを楽しみにしている。行こうか」
「ええ」
ロディは涼しい顔で、腕を組むよう私に促す。素直に従い手を添えるものの、なんだかドキドキする。慣れないからで、もちろん深い意味はない。王子と恋人のフリって、思った以上に大変だ。
私達は、王妃の待つ部屋に通された。
彼女は金色の髪に薄青の瞳、目尻が少し垂れておっとりした感じで、第一王子のリカルド様にそっくりだ。大きな子供が二人もいるとはとても思えず、若々しい。王妃は紅茶のカップを置くと、嬉しそうに口にした。
「こちらへどうぞ。本当に貴女はマリサに似ているわね。いえ、彼女以上に綺麗だわ」
「……恐縮です」
褒められた時、なんて言うのが正解だろう? 元がラノベのヒロインなので、私の容姿は整っている。だから「いいえ」と否定するのは変だ。かといって「ありがとうございます」では調子に乗っているみたいで、なんか違う。
「シルフィは昔から可愛かったからね。美しくなるってわかっていたよ」
ロディよ、追い打ちをかけるのはやめてくれ。それを言うなら以前の彼の方が、可愛らしくて天使だった。今はこんなに美青年でたくましく……って、目が合った途端に微笑むなんて、恋人の演技が上手すぎる!
見られて強張る私とは大違いだし、彼は膝に置いた私の手まで握ってくるのだ。
この上私にどうしろと?
そもそも王妃様って、事情をご存じなんだよね?
「あらあら、ローランドは彼女に夢中ね。でも、リカルドがよく承知したこと」
「……え?」
思わず驚きの声が出た。
王妃様、演技だって聞いてないの?
それにどうして、第一王子の名前が?
私の頭の中は、疑問符だらけ。
ロディは口を引き結び、途端に不機嫌になる。そんな私達を見た王妃が、クスクス笑う。
「いいえ、変な意味はないの。ただあの子は、銀色の髪の世話係が大好きだったから」
「……世話係、ですか?」
「あら、聞いてなかったの? マリサは……あなたのお母様はリカルドの世話係として、私を助けてくれたのよ」
「ええっ」
母は生前王城のことを嬉しそうに語っていたが、リカルド王子の担当だったなんて聞いた覚えがない。
「そう、知らなかったの。それなら教えてあげるわね」
王妃は柔らかく微笑むと、当時の母の様子を私に話してくれた。
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