上 下
36 / 60
第三章 愛人にはなりません

まさかのふりだし 9

しおりを挟む
「その分だと、私が何に怒っているかもわかってないんでしょ? いいわ、後から話を聞いてあげる。いくら美人でも、泣けば化粧は崩れるんだからね。完璧に仕上げたんだから、とっとと行きなさい!」
「は、はいっ」

 私は追い立てられるように部屋を出て、王妃のサロンに向かう。大声を出すカリーナは、そんなに怒ってなかったような……? きちんと事情を話せば、わかってくれるかもしれない。
 
 廊下を進むと、向こうから歩いてくるロディが見えた。均整の取れた体躯たいくに整った顔立ち、金糸の入った黒い上着は大人っぽくてすごく素敵……って、違うから。見惚れたんじゃなくって、挨拶するタイミングを待っていただけ!

「シルフィは、今日もすごく綺麗だね。君に会うのが待ちきれず、迎えに来たよ」
「そ、それはどうも。わわ、私も会いたかったわ」

 すんなり言葉が出るロディに比べ、私は棒読みな上にカミカミだ。護衛の兵に聞かせるためかもしれないけれど、彼の笑みは演技とは思えないほど素晴らしい。

「ああ、待って……」 

 ロディが私の頬に手を触れ、顔をのぞき込む。イケメンのどアップは、心臓に悪い。

「ぴゃっ」

 目の端をいきなりめられた。
 こんなところで、どーしたロディよ?

「可愛いシルフィ、泣いていたの?」
「いえ、べべ、別に……」
「何もなければいいんだ。困ったことがあれば、すぐに相談して?」
「……ありがとう」

 涙の跡があったなら、口で言えば済むことなのに。本物の恋人以上に振る舞う彼に、私はとことん押され気味。こんなんだから、カリーナに勘違いをされてしまうのだ。護衛に目をらされているのも、非常に恥ずかしい。

「さて、母が君と話すのを楽しみにしている。行こうか」
「ええ」

 ロディは涼しい顔で、腕を組むよう私にうながす。素直に従い手を添えるものの、なんだかドキドキする。慣れないからで、もちろん深い意味はない。王子と恋人のフリって、思った以上に大変だ。



 私達は、王妃の待つ部屋に通された。
 彼女は金色の髪に薄青の瞳、目尻が少し垂れておっとりした感じで、第一王子のリカルド様にそっくりだ。大きな子供が二人もいるとはとても思えず、若々しい。王妃は紅茶のカップを置くと、嬉しそうに口にした。

「こちらへどうぞ。本当に貴女はマリサに似ているわね。いえ、彼女以上に綺麗だわ」
「……恐縮です」

 褒められた時、なんて言うのが正解だろう? 元がラノベのヒロインなので、私の容姿は整っている。だから「いいえ」と否定するのは変だ。かといって「ありがとうございます」では調子に乗っているみたいで、なんか違う。

「シルフィは昔から可愛かったからね。美しくなるってわかっていたよ」

 ロディよ、追い打ちをかけるのはやめてくれ。それを言うなら以前の彼の方が、可愛らしくて天使だった。今はこんなに美青年でたくましく……って、目が合った途端に微笑むなんて、恋人の演技が上手すぎる! 
 見られて強張こわばる私とは大違いだし、彼は膝に置いた私の手まで握ってくるのだ。

 この上私にどうしろと?
 そもそも王妃様って、事情をご存じなんだよね?

「あらあら、ローランドは彼女に夢中ね。でも、リカルドがよく承知したこと」
「……え?」

 思わず驚きの声が出た。
 王妃様、演技だって聞いてないの? 
 それにどうして、第一王子の名前が? 

 私の頭の中は、疑問符だらけ。
 ロディは口を引き結び、途端に不機嫌になる。そんな私達を見た王妃が、クスクス笑う。

「いいえ、変な意味はないの。ただあの子は、銀色の髪の世話係が大好きだったから」
「……世話係、ですか?」
「あら、聞いてなかったの? マリサは……あなたのお母様はリカルドの世話係として、私を助けてくれたのよ」
「ええっ」

 母は生前王城のことを嬉しそうに語っていたが、リカルド王子の担当だったなんて聞いた覚えがない。
 
「そう、知らなかったの。それなら教えてあげるわね」

 王妃は柔らかく微笑むと、当時の母の様子を私に話してくれた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

呪われ令嬢、王妃になる

八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」 「はい、承知しました」 「いいのか……?」 「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」 シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。 家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。 「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」 「──っ!?」 若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。 だがそんな国王にも何やら思惑があるようで── 自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか? 一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。 ★この作品の特徴★ 展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。 ※小説家になろう先行公開中 ※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開) ※アルファポリスにてホットランキングに載りました ※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)

愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される

守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」  貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。  そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。  厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。  これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。

そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。 朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。 そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。 「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」 「なっ……正気ですか?」 「正気ですよ」 最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。 こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

悪女は愛より老後を望む

きゃる
恋愛
 ――悪女の夢は、縁側でひなたぼっこをしながらお茶をすすること!  もう何度目だろう? いろんな国や時代に転生を繰り返す私は、今は伯爵令嬢のミレディアとして生きている。でも、どの世界にいてもいつも若いうちに亡くなってしまって、老後がおくれない。その理由は、一番初めの人生のせいだ。貧乏だった私は、言葉巧みに何人もの男性を騙していた。たぶんその中の一人……もしくは全員の恨みを買ったため、転生を続けているんだと思う。生まれ変わっても心からの愛を告げられると、その夜に心臓が止まってしまうのがお約束。  だから私は今度こそ、恋愛とは縁のない生活をしようと心に決めていた。行き遅れまであと一年! 領地の片隅で、隠居生活をするのもいいわね?  そう考えて屋敷に引きこもっていたのに、ある日双子の王子の誕生を祝う舞踏会の招待状が届く。参加が義務付けられているけれど、地味な姿で壁に貼り付いているから……大丈夫よね? *小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

処理中です...