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第三章 愛人にはなりません
まさかのふりだし 1
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第一王子の部屋でなごやかにお茶会。
主に語るのはカリーナで、話題はもちろんローランド王子のこと。私とリカルド王子は、適当に相槌を打っている。
紺色の髪をかき上げる仕草がカッコイイとか、騎乗姿も素敵だとか、外に出る機会が多いのでなかなか会えずに残念だ、とか。
ここにいない人の話は失礼では? と私は焦るが、リカルド王子は弟の話をにこにこしながら聞いていた。ひと通り語り終え、満足したカリーナが紅茶を飲む。すると今度は、リカルド王子が口を開いた。
「君は? シルヴィエラ、君に好きな人はいないのかな?」
「ええ。おりません」
もちろん即答。仕事をしっかり覚えてお金が貯まるまで、私は真面目に働くと決めたのだ。恋愛にうつつを抜かしている場合ではない。
「そうか。それはそれは……」
リカルド王子は変な顔だ。
眉根を寄せて、開きかけた口を再び閉じる。何か言いたいことでもあるのかな?
けれど王子は、全く別の話をする。
「シルヴィエラ、君が作ってくれたこの菓子。食したことのない味だが、悪くない」
「お褒めに与り光栄です」
私はすぐに頭を下げた。良かった、これで第一王子の呼び出しが減る!
ところが話は、思わぬ方へ。
「私のために、手間をかけて作ってくれたんだね? 美味なのは、愛情がこもっているせいだろう」
「あら、シルヴィエラったらいつの間に? それなら私、遠慮したのに」
……ん?
カリーナまでおかしなことを言いだした。たった今、好きな人はいないといったばかりなのに、どうしてそんな誤解を?
「貴族でありながら厨房に入ってまで、私の好みを気にしてくれたとは。初めてのことだが嬉しいよ。君の気持ちは、しかと受け取った」
しまったあぁぁぁ~~!!
料理人がいるため、貴族は普通料理をしない。私は亡き母の趣味が料理だし、修道院でも当たり前のようにお菓子を作っていたので、おかしいとは感じなかったのだ。
「いえ、あの。そうではなく……」
第一王子、絶賛勘違い中。
私が婚約者のいる人を、好きになろうはずがない。だけど困ったことに、全然興味がないと言えば、王子の顔を潰してしまう。
どうすれば、この場を上手く切り抜けられるかな?
「ふふ、照れているのね? シルヴィエラがリカルド様で私がローランド様。お仕えする方に憧れるって、よくある話だわ」
返答するより早く、カリーナが私をからかう。
いや、だから違うって。第一王子に憧れているわけではなく、単にこれで来る必要がなくなったと安心して……
「ありがとう。でも、私には婚約者がいるし、弟にも好きな人がいる。側室を望むなら話は別だが、それも会議で承認されなければならない」
リカルド王子、安定の地獄耳。
だけど側室――愛人なんて私はごめんだ。
……って、ロディに好きな人!?
そっちの方が気にかかった私は、他のことが頭から吹っ飛ぶ。ロディったらそんなこと、ひとっ言も言ってなかったのに!
「そんな! ローランド様にお好きな方がいらっしゃるなんて……初耳です!!」
私だけでなく、カリーナもショックを受けている。情報通の彼女でさえ知らなかったらしい。
驚きに固まる私は、次の瞬間、ふと冷静になる。
――そうか。王族が使用人に、プライベートをいちいち伝えるわけがない。
いくら仲が良かったとはいえ、それは昔のこと。王子がただの女官見習いに、自分の好きな人を打ち明けるはずがなかった。私に甘える彼を見て、自分がロディの……ローランド王子の一番近くにいると自惚れるなんて。そもそも身体を使って籠絡しなければ、王子はシルヴィエラと結ばれることはな……って、私ったら今、何を!?
まさか自分から、泥沼に足を踏み入れようと? それだけは勘弁だ。
この世界がラノベ通りになるかもしれないと、警戒していた私。でも、最初の義兄との絡みを飛ばしたせいで、ストーリーが逸れたようだ。それなら自分がヒロインになる心配も、しなくていい。
喜ばしいのに、なんだかモヤッとしてしまう。せっかく兄の第一王子が私達に、「憧れだけで止めておけ」と釘を刺してくれたのに……べ、別に、ロディに憧れてるわけじゃないけれど。
主に語るのはカリーナで、話題はもちろんローランド王子のこと。私とリカルド王子は、適当に相槌を打っている。
紺色の髪をかき上げる仕草がカッコイイとか、騎乗姿も素敵だとか、外に出る機会が多いのでなかなか会えずに残念だ、とか。
ここにいない人の話は失礼では? と私は焦るが、リカルド王子は弟の話をにこにこしながら聞いていた。ひと通り語り終え、満足したカリーナが紅茶を飲む。すると今度は、リカルド王子が口を開いた。
「君は? シルヴィエラ、君に好きな人はいないのかな?」
「ええ。おりません」
もちろん即答。仕事をしっかり覚えてお金が貯まるまで、私は真面目に働くと決めたのだ。恋愛にうつつを抜かしている場合ではない。
「そうか。それはそれは……」
リカルド王子は変な顔だ。
眉根を寄せて、開きかけた口を再び閉じる。何か言いたいことでもあるのかな?
けれど王子は、全く別の話をする。
「シルヴィエラ、君が作ってくれたこの菓子。食したことのない味だが、悪くない」
「お褒めに与り光栄です」
私はすぐに頭を下げた。良かった、これで第一王子の呼び出しが減る!
ところが話は、思わぬ方へ。
「私のために、手間をかけて作ってくれたんだね? 美味なのは、愛情がこもっているせいだろう」
「あら、シルヴィエラったらいつの間に? それなら私、遠慮したのに」
……ん?
カリーナまでおかしなことを言いだした。たった今、好きな人はいないといったばかりなのに、どうしてそんな誤解を?
「貴族でありながら厨房に入ってまで、私の好みを気にしてくれたとは。初めてのことだが嬉しいよ。君の気持ちは、しかと受け取った」
しまったあぁぁぁ~~!!
料理人がいるため、貴族は普通料理をしない。私は亡き母の趣味が料理だし、修道院でも当たり前のようにお菓子を作っていたので、おかしいとは感じなかったのだ。
「いえ、あの。そうではなく……」
第一王子、絶賛勘違い中。
私が婚約者のいる人を、好きになろうはずがない。だけど困ったことに、全然興味がないと言えば、王子の顔を潰してしまう。
どうすれば、この場を上手く切り抜けられるかな?
「ふふ、照れているのね? シルヴィエラがリカルド様で私がローランド様。お仕えする方に憧れるって、よくある話だわ」
返答するより早く、カリーナが私をからかう。
いや、だから違うって。第一王子に憧れているわけではなく、単にこれで来る必要がなくなったと安心して……
「ありがとう。でも、私には婚約者がいるし、弟にも好きな人がいる。側室を望むなら話は別だが、それも会議で承認されなければならない」
リカルド王子、安定の地獄耳。
だけど側室――愛人なんて私はごめんだ。
……って、ロディに好きな人!?
そっちの方が気にかかった私は、他のことが頭から吹っ飛ぶ。ロディったらそんなこと、ひとっ言も言ってなかったのに!
「そんな! ローランド様にお好きな方がいらっしゃるなんて……初耳です!!」
私だけでなく、カリーナもショックを受けている。情報通の彼女でさえ知らなかったらしい。
驚きに固まる私は、次の瞬間、ふと冷静になる。
――そうか。王族が使用人に、プライベートをいちいち伝えるわけがない。
いくら仲が良かったとはいえ、それは昔のこと。王子がただの女官見習いに、自分の好きな人を打ち明けるはずがなかった。私に甘える彼を見て、自分がロディの……ローランド王子の一番近くにいると自惚れるなんて。そもそも身体を使って籠絡しなければ、王子はシルヴィエラと結ばれることはな……って、私ったら今、何を!?
まさか自分から、泥沼に足を踏み入れようと? それだけは勘弁だ。
この世界がラノベ通りになるかもしれないと、警戒していた私。でも、最初の義兄との絡みを飛ばしたせいで、ストーリーが逸れたようだ。それなら自分がヒロインになる心配も、しなくていい。
喜ばしいのに、なんだかモヤッとしてしまう。せっかく兄の第一王子が私達に、「憧れだけで止めておけ」と釘を刺してくれたのに……べ、別に、ロディに憧れてるわけじゃないけれど。
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