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第二章 ラノベ化しません

第二王子の憂い 2

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 留学中、シルヴィエラが「結婚した」との噂を聞いた。我が国のリストになかったため、国外の貴族と一緒になったのかもしれない。帰国できない僕は、すぐさま男爵家に人をって調べさせることにする。
 けれど男爵の後妻は、継子である彼女の婚姻は認めたものの、とつぎ先を決して明かさなかった。なぜそんなことを聞くのかと、しつこく尋ねられたそうだ。相手を内緒にしてほしい――それが彼女の意志なのかと、僕は絶望した。

 だからといって、中途半端な状態で国に戻ることは、王子としての矜持きょうじが許さない。十六になり成人後も隣国に残った僕は、引き続き政策や外交、教育制度や貿易など多くを学ぶことにした。

 銀色に輝く月を見て、彼女を想う。
 シルヴィエラは今、どこで何をしている? 
 銀髪は珍しく、きっと人目を引いたはずだ。すぐに見初められ、求婚されたのだろう。彼女の夫をうらやみながら、異国の地で幸せを祈ることしかできない。そんな自分が歯がゆかった。

 しかし帰国後、おかしなことに気づく。
 跡継ぎのシルヴィエラが婿養子も迎えず家を出たというのに、新たにコルテーゼ男爵となった者はいない。爵位が宙に浮いたまま、田舎にあった男爵家と領地の一部が売り払われたそうだ。
 本格的に調査に入らなければ――
 そう思っていた矢先、僕は王都に戻った視察団のある会話を小耳に挟む。

『残念ながら、銀色の髪は拝見できませんでしたな』
『姿も美しく、まさに白銀の聖女だ』
『見たこともない菓子で、人々を癒やしたのだとか。ぜひ孫の嫁にほしいところです』

 笑い合う彼らを掴まえ、詳しい話を聞き出した。シルヴィエラは銀の髪、彼女の母上は料理が得意だ。その血を受け継いでいるのなら――
 どうかその聖女が、彼女であってほしい。

 とっくに結婚したものと信じていたため、修道院にいるという可能性は考えていなかった。一縷いちるの望みをかけ、探しに行こうと決意する。
 城を出る直前、「彼女を見つけたら一緒になるつもりだ」と両親に念を押す。元々そのための留学だから、今さら反対はさせない。女官長にも彼女のための部屋を整えておくよう、申しつけておく。
 僕は護衛を連れ、修道院に向けて馬を走らせた。

 狩猟小屋に立ち寄ったのは、偶然のこと。
 走り疲れた馬を少しだけ休ませよう、という意図があった。扉を開けた瞬間、僕は我が目を疑う。

「ああ……会いたかった……」

 思わず言葉がこぼれ出る。
 昔のままの銀の髪、けれど昔よりずっと綺麗な姿で彼女はそこにいた。

 彼女は僕がわからない。
 感じた痛みを押し殺し、「シルフィ」と口に出す。
 幸いにも彼女はすぐに僕を思い出し、行く所がないと打ち明けてくれた。男爵家の後妻とその連れ子は、正当な血筋の彼女を追い出して、財産を着服しているようだ。
 調査のためにも、シルヴィエラを家に帰すわけにはいかなかった。城に行き、僕の相手としてのんびり暮らせばいい。

 だが彼女の考えは、僕とは異なっていた。シルヴィエラは友人や客人として扱われることをこばみ、女官の……それも見習いとして働きたいと望んだのだ。こんなはずではなかったが、再会していきなり求婚するわけにもいかない。僕は仕方なく、彼女の希望を受け入れることにした。

 先日のこと。
 僕は女官長の協力を得て、彼女に夜食を運んでもらった。残念ながら大した進展はなく、同じスプーンでシチューを食べても、彼女は照れるどころか「姉弟のようだ」と嬉しそうに笑う。
 あの時、強引にでもキスをしていれば……

 いや、焦って嫌われる方が怖い。
 まずは男として意識してもらおう。
 シルヴィエラの心を手に入れるため、慎重に事を運ぶ必要がある。
 
「ローランド様……か」

 昔のようにロディと呼んでほしい。
 一つのベッドにもぐり込み、二人で朝を迎えることができたなら、どんなにいいだろう。

 ある思いが頭に浮かび、髪をかき上げ苦笑した。近くにいた護衛が、僕に不思議そうな顔を向ける。

 二人で迎える朝――
 互いに大人となった今、もちろん眠るだけで済ませるはずがない。
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