24 / 60
第二章 ラノベ化しません
ヒロインよりも 9
しおりを挟む
のんびりしていた私は、接近するまで相手が第一王子だとは気づかなかった。長い金髪を一つにまとめたリカルド=バレスティーニ殿下は、ローランド王子の実兄で21歳。まもなく王太子となる彼は、柔らかい物腰と穏やかな話し方が人気で、もちろんイケメンだ。まだ独身だけど、生まれながらに婚約者がいる。
「私のことを知っているようだね。残念ながら、私は君を知らない。こんなに綺麗な人が、いままでどこに隠れていたのかな?」
落ち着こう……ただの挨拶だ。
今の私は瞳と同色の青いドレスを身に纏っている。帽子を被っていないので、編んだ髪が一目で銀色だとわかってしまう。休日で女官の恰好をしていなかったことが、裏目に出たらしい。
「お初にお目にかかります。先日よりこちらで勤めておりますが、休みのため私服で過ごしていました。見苦しい姿をお目に入れ、申し訳ございません」
「いいや、君の美しさの前では薔薇も霞んでしまうよ。そうか、君が評判の女官だね?」
評判――この前のローランド王子の話と関係があるのかな? 私は女官見習いだけど、ここでは女官と同じ扱いだ。だけど、自分から「はい、そうです。私が評判の……」と言うのは、おかしな気がする。違う人のことを指しているかもしれないし、悪評だったら困ってしまう。
私は肯定も否定もせず、膝を軽く折るだけにした。
「ところで君、名前は? ここで会ったのも何かの縁だ。聞いておこうか」
うっわーー!!
名乗ってないのバレちゃった。
ラノベでは、第一王子はシルヴィエラの最後の相手となる。彼には公爵令嬢というれっきとした婚約者がいるのに、シルヴィエラはそれを承知で平気で略奪し、離れたくないと泣き落としにかかるのだ。既成事実を作った彼女は、まんまと第一王子を手に入れて――
私にそんな気はまったくないし、できればお近づきになりたくなかった。「何かの縁」と言われても、縁があるならこの場でスパンと切ってしまいたい。
「どうした?」
王子に応えないのは変だ。
それに名前を告げただけで、いきなり好かれたりはしないよね?
仕方がないので私は頭を下げ、名乗ることにした。
「……シルヴィエラ=コルテーゼと申します」
聞こえなくても構わないと、小さな声を出す。けれど第一王子の耳は良く、一度で聞き取れたようだ。
「なるほどね、君が――。改めて名乗るまでもないと思うが、私はリカルドだ。よろしく」
第一王子が、自然な感じで手を差し出してきた。
握手? でも、婚約者がいるのに他の女性の手を握ったらダメでしょう!
どうしようかと迷っていたら、王子が笑い声を立てる。
「慎み深い性格なんだね。困らせたようですまない」
「いえ、そんな」
あっさり手を引っ込めたリカルド王子が、穏やかな笑みを浮かべる。
でも、ラノベのシルヴィエラは慎み深いというより相当の肉食系で、狙った獲物は逃がさなかった。
自分がストーリー通りの行動を取ったらどうしようかと心配していたが、今のところ第一王子に対してなんの感情も湧かない。
なおも話しかけようとするリカルド王子を振り切るため、私はさっさと頭を下げた。失礼にならないギリギリの態度で、足早にその場を去る。
あっぶなかった~。
いきなり惹かれたりはしないだろうけど、用心しなくちゃ。婚約者のいる人に手を出すつもりはないもんね。
略奪ダメ、絶対!
けれど第一王子は私を覚えたらしく、翌日から用事を言いつけられるようになってしまった。その用というのが一風変わっている。シモネッタの元で学ぶ私は王妃様の担当だし、手の空いた時でいいなら、私でなくてもいいような……
「私のことを知っているようだね。残念ながら、私は君を知らない。こんなに綺麗な人が、いままでどこに隠れていたのかな?」
落ち着こう……ただの挨拶だ。
今の私は瞳と同色の青いドレスを身に纏っている。帽子を被っていないので、編んだ髪が一目で銀色だとわかってしまう。休日で女官の恰好をしていなかったことが、裏目に出たらしい。
「お初にお目にかかります。先日よりこちらで勤めておりますが、休みのため私服で過ごしていました。見苦しい姿をお目に入れ、申し訳ございません」
「いいや、君の美しさの前では薔薇も霞んでしまうよ。そうか、君が評判の女官だね?」
評判――この前のローランド王子の話と関係があるのかな? 私は女官見習いだけど、ここでは女官と同じ扱いだ。だけど、自分から「はい、そうです。私が評判の……」と言うのは、おかしな気がする。違う人のことを指しているかもしれないし、悪評だったら困ってしまう。
私は肯定も否定もせず、膝を軽く折るだけにした。
「ところで君、名前は? ここで会ったのも何かの縁だ。聞いておこうか」
うっわーー!!
名乗ってないのバレちゃった。
ラノベでは、第一王子はシルヴィエラの最後の相手となる。彼には公爵令嬢というれっきとした婚約者がいるのに、シルヴィエラはそれを承知で平気で略奪し、離れたくないと泣き落としにかかるのだ。既成事実を作った彼女は、まんまと第一王子を手に入れて――
私にそんな気はまったくないし、できればお近づきになりたくなかった。「何かの縁」と言われても、縁があるならこの場でスパンと切ってしまいたい。
「どうした?」
王子に応えないのは変だ。
それに名前を告げただけで、いきなり好かれたりはしないよね?
仕方がないので私は頭を下げ、名乗ることにした。
「……シルヴィエラ=コルテーゼと申します」
聞こえなくても構わないと、小さな声を出す。けれど第一王子の耳は良く、一度で聞き取れたようだ。
「なるほどね、君が――。改めて名乗るまでもないと思うが、私はリカルドだ。よろしく」
第一王子が、自然な感じで手を差し出してきた。
握手? でも、婚約者がいるのに他の女性の手を握ったらダメでしょう!
どうしようかと迷っていたら、王子が笑い声を立てる。
「慎み深い性格なんだね。困らせたようですまない」
「いえ、そんな」
あっさり手を引っ込めたリカルド王子が、穏やかな笑みを浮かべる。
でも、ラノベのシルヴィエラは慎み深いというより相当の肉食系で、狙った獲物は逃がさなかった。
自分がストーリー通りの行動を取ったらどうしようかと心配していたが、今のところ第一王子に対してなんの感情も湧かない。
なおも話しかけようとするリカルド王子を振り切るため、私はさっさと頭を下げた。失礼にならないギリギリの態度で、足早にその場を去る。
あっぶなかった~。
いきなり惹かれたりはしないだろうけど、用心しなくちゃ。婚約者のいる人に手を出すつもりはないもんね。
略奪ダメ、絶対!
けれど第一王子は私を覚えたらしく、翌日から用事を言いつけられるようになってしまった。その用というのが一風変わっている。シモネッタの元で学ぶ私は王妃様の担当だし、手の空いた時でいいなら、私でなくてもいいような……
0
お気に入りに追加
929
あなたにおすすめの小説
呪われ令嬢、王妃になる
八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」
「はい、承知しました」
「いいのか……?」
「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」
シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。
家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。
「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」
「──っ!?」
若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。
だがそんな国王にも何やら思惑があるようで──
自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか?
一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。
★この作品の特徴★
展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。
※小説家になろう先行公開中
※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開)
※アルファポリスにてホットランキングに載りました
※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)
愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される
守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」
貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。
そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。
厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。
これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。
そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。
木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。
朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。
そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。
「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」
「なっ……正気ですか?」
「正気ですよ」
最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。
こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。
悪女は愛より老後を望む
きゃる
恋愛
――悪女の夢は、縁側でひなたぼっこをしながらお茶をすすること!
もう何度目だろう? いろんな国や時代に転生を繰り返す私は、今は伯爵令嬢のミレディアとして生きている。でも、どの世界にいてもいつも若いうちに亡くなってしまって、老後がおくれない。その理由は、一番初めの人生のせいだ。貧乏だった私は、言葉巧みに何人もの男性を騙していた。たぶんその中の一人……もしくは全員の恨みを買ったため、転生を続けているんだと思う。生まれ変わっても心からの愛を告げられると、その夜に心臓が止まってしまうのがお約束。
だから私は今度こそ、恋愛とは縁のない生活をしようと心に決めていた。行き遅れまであと一年! 領地の片隅で、隠居生活をするのもいいわね?
そう考えて屋敷に引きこもっていたのに、ある日双子の王子の誕生を祝う舞踏会の招待状が届く。参加が義務付けられているけれど、地味な姿で壁に貼り付いているから……大丈夫よね?
*小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる