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第二章 ラノベ化しません

ヒロインよりも 9

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 のんびりしていた私は、接近するまで相手が第一王子だとは気づかなかった。長い金髪を一つにまとめたリカルド=バレスティーニ殿下は、ローランド王子の実兄で21歳。まもなく王太子となる彼は、柔らかい物腰と穏やかな話し方が人気で、もちろんイケメンだ。まだ独身だけど、生まれながらに婚約者がいる。

「私のことを知っているようだね。残念ながら、私は君を知らない。こんなに綺麗な人が、いままでどこに隠れていたのかな?」

 落ち着こう……ただの挨拶だ。
 今の私は瞳と同色の青いドレスを身にまとっている。帽子をかぶっていないので、編んだ髪が一目で銀色だとわかってしまう。休日で女官の恰好をしていなかったことが、裏目に出たらしい。

「お初にお目にかかります。先日よりこちらで勤めておりますが、休みのため私服で過ごしていました。見苦しい姿をお目に入れ、申し訳ございません」
「いいや、君の美しさの前では薔薇もかすんでしまうよ。そうか、君が評判の女官だね?」

 評判――この前のローランド王子の話と関係があるのかな? 私は女官見習いだけど、ここでは女官と同じ扱いだ。だけど、自分から「はい、そうです。私が評判の……」と言うのは、おかしな気がする。違う人のことを指しているかもしれないし、悪評だったら困ってしまう。
 私は肯定も否定もせず、膝を軽く折るだけにした。

「ところで君、名前は? ここで会ったのも何かの縁だ。聞いておこうか」

 うっわーー!!
 名乗ってないのバレちゃった。

 ラノベでは、第一王子はシルヴィエラの最後の相手となる。彼には公爵令嬢というれっきとした婚約者がいるのに、シルヴィエラはそれを承知で平気で略奪し、離れたくないと泣き落としにかかるのだ。既成事実を作った彼女は、まんまと第一王子を手に入れて――

 私にそんな気はまったくないし、できればお近づきになりたくなかった。「何かの縁」と言われても、縁があるならこの場でスパンと切ってしまいたい。

「どうした?」

 王子に応えないのは変だ。
 それに名前を告げただけで、いきなり好かれたりはしないよね? 
 仕方がないので私は頭を下げ、名乗ることにした。

「……シルヴィエラ=コルテーゼと申します」

 聞こえなくても構わないと、小さな声を出す。けれど第一王子の耳は良く、一度で聞き取れたようだ。

「なるほどね、君が――。改めて名乗るまでもないと思うが、私はリカルドだ。よろしく」

 第一王子が、自然な感じで手を差し出してきた。
 握手? でも、婚約者がいるのに他の女性の手を握ったらダメでしょう! 
 どうしようかと迷っていたら、王子が笑い声を立てる。

つつしみ深い性格なんだね。困らせたようですまない」
「いえ、そんな」

 あっさり手を引っ込めたリカルド王子が、穏やかな笑みを浮かべる。
 でも、ラノベのシルヴィエラは慎み深いというより相当の肉食系で、狙った獲物は逃がさなかった。
 自分がストーリー通りの行動を取ったらどうしようかと心配していたが、今のところ第一王子に対してなんの感情もかない。

 なおも話しかけようとするリカルド王子を振り切るため、私はさっさと頭を下げた。失礼にならないギリギリの態度で、足早にその場を去る。

 あっぶなかった~。
 いきなり惹かれたりはしないだろうけど、用心しなくちゃ。婚約者のいる人に手を出すつもりはないもんね。
 略奪ダメ、絶対!



 けれど第一王子は私を覚えたらしく、翌日から用事を言いつけられるようになってしまった。その用というのが一風変わっている。シモネッタの元で学ぶ私は王妃様の担当だし、手の空いた時でいいなら、私でなくてもいいような……
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