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第二章 ラノベ化しません
ヒロインよりも 2
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「そんな! シルフィ、僕は……」
「殿下のお気持ちは大変ありがたいです。けれど、いきなり現れた私が友人として大きな顔をすれば、周りが嫌な思いをするでしょう」
「平気だよ。両親にはきちんと伝えてあるし、周囲は僕が説得する」
いったいいつの間に?
森からここに移動するまで、ずっと一緒だったよね。どこにそんな暇があった? まさか、ラノベ補正なのでは!?
「いいえ、特別扱いは結構です。でも、残念ながら行く当てもありません。できれば母のように、ここで勤めさせていただけませんか?」
「シルフィ!」
ラノベのようにゴロゴロし、王子を追いかけ回すだけの生活なんてとんでもない! 私には、元気な身体がある。働かざる者食うべからず――置いてもらえるなら、それに見合うだけの努力をしよう。
「お願いいたします」
私は決意を込めて、王子を見つめた。いきなり王城で働くなんて贅沢だけど、仕事と寝床をもらえたら、家にも修道院にも帰らなくて済む。それに給金が貯まれば、どこかへ行くことも可能だ。男爵家のことについては……慎重に考えるつもり。
結局は、幼なじみで王子のロディを当てにしている。でも、ただ寄りかかるくらいなら、働く方がはるかにマシだ。私はお荷物ではなく、使用人としてここにいたい。少なくともラノベのシルヴィエラのように、間違えたフリして、王子の寝室に忍び込もうとはしないから。
瞼を伏せたローランド王子が、顎に手を当て考え込んでいる。長いまつげに高い鼻梁、スッキリ整った顔立ちと、節くれだった手。大人っぽい顔とその仕草は、昔のロディにはなかったものだ。
――彼はもう、私の小さな弟ではない。いえ、最初から彼は、私のものではなかった。あの楽しい日々は夢……つらいけど、そう考えることにしよう。
「……わかったよ。そんなに言うなら仕方がない。だけど僕からも、一つだけ条件がある」
「何でしょう?」
試用期間があるとか、最低賃金で採用、とか? 制服が有料だとしても、働けるだけでありがたい。私は彼の次の言葉を待った。
「時々は、君と二人の時間がほしい。その時は敬語もなしだ。ロディと呼んで?」
「え? そ、それは……」
「無理ならこの話はなしだ。客人として、ここに滞在してもらう」
客人!
友人からなぜグレードアップを!?
目を丸くする私を見て、王子が笑う。
煌めきを湛える金色の瞳は、やっぱり私のよく知るロディだった。不意に胸が痛くなり、私は片手を押し当てる。
昔の片鱗を見て安心するなんて、これが俗に言う『母性本能』ってやつだね? ここで私が頷けば、仕事と寝床と食事がもらえる。さらに、ロディの顔も時々見られるのだ。
私は条件を受け入れ「王城で働きたい」と申し出た。すると王子は肩を竦め、言葉を続ける。
「わかった。女官としての仕事だが、僕に付くということで……」
「いえ。一から始めたいので、下働きを希望します」
貴族は料理をしないが、下働きだと仕事で厨房にも顔を出せる。せっかくなので、一流の料理人達が調理するところを見てみたい。あわよくばつまみ食いを……なんてことは、考えたり考えなかったり。
「ダメに決まっているだろう!」
強い口調で言い返されてしまった。
本来なら貴族の娘は女官となり、王族の世話に携わるそうだ。
私はもちろん、全力で拒否。
ただでさえコネ採用だから、これ以上のひいきは良くない。
それに毎日近くにいたら、私が突然ラノベ化し、王子を襲ってしまう危険がある。そんなことになったら、思い出の中のロディにも、亡くなった両親にも申し訳が立たない。
私は首を横に振り、抵抗の意志を示す。
けれど王子は、一歩も引かなかった。
「下働きは認められない。君は貴族の娘で、僕の……恩人だ」
「恩人って……。大したことはしていないので、私に気を遣わないでください」
「その言葉、そっくり君に返したいよ」
嘆息する姿も絵になるなんて、ずるいと思う。
「殿下のお気持ちは大変ありがたいです。けれど、いきなり現れた私が友人として大きな顔をすれば、周りが嫌な思いをするでしょう」
「平気だよ。両親にはきちんと伝えてあるし、周囲は僕が説得する」
いったいいつの間に?
森からここに移動するまで、ずっと一緒だったよね。どこにそんな暇があった? まさか、ラノベ補正なのでは!?
「いいえ、特別扱いは結構です。でも、残念ながら行く当てもありません。できれば母のように、ここで勤めさせていただけませんか?」
「シルフィ!」
ラノベのようにゴロゴロし、王子を追いかけ回すだけの生活なんてとんでもない! 私には、元気な身体がある。働かざる者食うべからず――置いてもらえるなら、それに見合うだけの努力をしよう。
「お願いいたします」
私は決意を込めて、王子を見つめた。いきなり王城で働くなんて贅沢だけど、仕事と寝床をもらえたら、家にも修道院にも帰らなくて済む。それに給金が貯まれば、どこかへ行くことも可能だ。男爵家のことについては……慎重に考えるつもり。
結局は、幼なじみで王子のロディを当てにしている。でも、ただ寄りかかるくらいなら、働く方がはるかにマシだ。私はお荷物ではなく、使用人としてここにいたい。少なくともラノベのシルヴィエラのように、間違えたフリして、王子の寝室に忍び込もうとはしないから。
瞼を伏せたローランド王子が、顎に手を当て考え込んでいる。長いまつげに高い鼻梁、スッキリ整った顔立ちと、節くれだった手。大人っぽい顔とその仕草は、昔のロディにはなかったものだ。
――彼はもう、私の小さな弟ではない。いえ、最初から彼は、私のものではなかった。あの楽しい日々は夢……つらいけど、そう考えることにしよう。
「……わかったよ。そんなに言うなら仕方がない。だけど僕からも、一つだけ条件がある」
「何でしょう?」
試用期間があるとか、最低賃金で採用、とか? 制服が有料だとしても、働けるだけでありがたい。私は彼の次の言葉を待った。
「時々は、君と二人の時間がほしい。その時は敬語もなしだ。ロディと呼んで?」
「え? そ、それは……」
「無理ならこの話はなしだ。客人として、ここに滞在してもらう」
客人!
友人からなぜグレードアップを!?
目を丸くする私を見て、王子が笑う。
煌めきを湛える金色の瞳は、やっぱり私のよく知るロディだった。不意に胸が痛くなり、私は片手を押し当てる。
昔の片鱗を見て安心するなんて、これが俗に言う『母性本能』ってやつだね? ここで私が頷けば、仕事と寝床と食事がもらえる。さらに、ロディの顔も時々見られるのだ。
私は条件を受け入れ「王城で働きたい」と申し出た。すると王子は肩を竦め、言葉を続ける。
「わかった。女官としての仕事だが、僕に付くということで……」
「いえ。一から始めたいので、下働きを希望します」
貴族は料理をしないが、下働きだと仕事で厨房にも顔を出せる。せっかくなので、一流の料理人達が調理するところを見てみたい。あわよくばつまみ食いを……なんてことは、考えたり考えなかったり。
「ダメに決まっているだろう!」
強い口調で言い返されてしまった。
本来なら貴族の娘は女官となり、王族の世話に携わるそうだ。
私はもちろん、全力で拒否。
ただでさえコネ採用だから、これ以上のひいきは良くない。
それに毎日近くにいたら、私が突然ラノベ化し、王子を襲ってしまう危険がある。そんなことになったら、思い出の中のロディにも、亡くなった両親にも申し訳が立たない。
私は首を横に振り、抵抗の意志を示す。
けれど王子は、一歩も引かなかった。
「下働きは認められない。君は貴族の娘で、僕の……恩人だ」
「恩人って……。大したことはしていないので、私に気を遣わないでください」
「その言葉、そっくり君に返したいよ」
嘆息する姿も絵になるなんて、ずるいと思う。
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